第二十四話
ルシフェルカたちがブラン・オールを求めて山道を歩いていた時分、館に残らざるを得なかった若き黒竜族長は、その原因たる招かれざる客を前に、不満そうな目つきで黙り込んでいた。ルシフェルカと共に外出するせっかくの機会をつぶされてご立腹なのだ。
「ルーガ、白竜族長様に失礼よ」
傍に控える女性こと右竜・リノンが窘めると、客間にしつらえられた布張りの椅子に腰を沈めた老人というには少しばかり若い白竜族長がおおらかに笑った。
「右竜殿、良いのですよ。それよりも、私が突然参ったわけをお聞きくだされ」
白竜族長は、背もたれから体を起こし、神妙な面持ちになった。
「実は、トラロック王国の王立図書館員が、『白い悪魔』をこの双竜山で発見したと言って、我ら白竜族の里へ入山許可を求めに来ましてな」
白竜族長がそこまで言ったところで、ルーガの態度が一転した。清々しいほどに青い双眸が鋭い光を帯び、警戒とも威嚇ともつかぬ気が発せられたのだ。こんな時、周囲の者は一様に思うのだ。『金色の竜が目覚めた』と。
そのことに少々気圧され、言葉を切って生唾を飲み込んだ白竜族長だったが、そこは年の功もあり、すぐさま話を再開した。
「それで、よくよく聞けば、入山したいのは白竜族の領域ではなく、この黒竜族の里の近辺だという、わけのわからんことを言いましたので、急ぎルーガ殿にお知らせに来たのですよ。その様子では、あながちあの研究狂いの亡者どもの言葉は本当のようですな」
ルーガは白竜族長を感情の読み取れぬ瞳で冷たく見つめた。彼の頭の中では、ルシフェルカと黒竜族の皆をどのように守るか、嵐のごとく思考が渦巻いていた。
「お若いですな、ルーガ殿。言い置いておきますが、私はあの堅物ユルグより頭は柔軟ですぞ。そちらの事情を話してみる価値はあると思いますがのう」
子どもをからかうように、意地の悪い笑みを浮かべた白竜族長に、ルーガの表情が和らいだ。いくら『竜星』として皆に認められていようと、まだまだ二十五歳の青年だ。経験豊富な白竜族長にはまだまだ敵わない。
「実は……」
ルーガの決断は早く、白竜族長に全ての事情を語り始めたのであった。