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第十二話

双竜山の夜の闇は深い。里から離れている場所は、人工的な明かり一つない真の闇の中に浸かりきるのだ。


 しかし、その黒い闇をものともせず疾走する存在があった。現黒竜族長ことルーガ・レクスその人である。空を切り、樹木に衝突することなくしなやかに走り続けている。牡鹿が駆けるようなその一歩は、常人のそれより滞空時間が長い。一瞬、宙を舞っているのかと錯覚さえするほどだ。


 そして、青年の少し前方を青白く発光しながら飛び、誘導しているのは、風の精霊「流星」である。


 ルーガは、半身ともいえる風の精霊の馴染みある光を右前方に感じながら、ルシフェルカの住まう小屋へと急いでいた。――何もなければいい。ただ、それだけを念じながら。


 だが、それは杞憂(きゆう)などで終わってはくれなかったのだ。


「ルシカ――!」


 ルシカの山小屋へ到着したルーガが目にしたのは、地面にうつ伏せに組み敷かれた少女が右腕を背後に捻り上げられ苦痛に顔を歪めている姿であった。


 小屋から漏れた明かりのお陰で、その場の様子は分かりやすかった。


「何者だ」


 先に問われたのは意外にもルーガのほうであった。ルシカの腕を捻り上げている人物のほかにもう一人いたのだ。外套の頭巾を深々と被っているが、声から大人の男だと判る。


 悪びれもせず、逆に不快感をあらわにする男の態度に、黒竜族長たる青年のこめかみに青筋が浮かび上がった。


「何者だと? あんた達、この右上を飛んでいる風の精霊がわからないほど馬鹿じゃないだろう。――王立図書館員だということは知っている。まずはその少女から手を離せ」


 珍しく声を低くし、苛ついた口調で不法侵入者二人に命令したルーガは、切れ長の目を細め、前方を睨めつけた。


「光る風の精霊……! 黒竜族長、ルーガ・レクスか」


「学者ってのは礼儀がないな。初対面の人間を呼び捨てとはね。本ばかり読んでいないで、外に目を向けろよ。そうしたら、あんた達が今、いかに非人道的な行いをしているか分かるだろう」


 さらに不快度を増したルーガは、待ち切れずに一歩踏み出した。それを危険と感じた、西の大国からの不法侵入者らが、制止の声を張り上げた。


「待ってくれ! あなたが族長だとすぐにわからなかったことは謝罪する。しかし、これは被検体だ。我々には回収する責務があるのだ!」


 急に口調を改めた男の発した『被検体』という言葉に、うつ伏せになっていたルシカが強く反応した。雷に打たれたように大きく肩を震わせたのだ。


 その姿に胸を痛めたルーガは、霧を一掃してしまう風のような声音できっぱりと言い切った。


「俺に二度言わせるな。――ルシカから手を離せ」


 光る風と共に、一歩、また一歩と、ルーガは愚かな王立図書館員に近づいて行ったのだった。


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