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第十一話

太陽が地平線の向こう側へ姿を消してしまうと、双竜山はまったくの暗闇に包まれた。


 昼間は陽光を受けてきらきらと輝いていた緑も、(おごそ)かな黒にその色を変え、静寂を壊そうとする不埒者に睨みを利かせているかのようであった。


 屋外へ出たルーガとギルウスは、報告に来た里の者におおよその場所を聞き出した。


「やはり方角はルシカの小屋だな。ギルウス、『風の石』は持っているな」


 双竜山に無許可で侵入したと思われる存在と、ルシカたちが出会う可能性が濃厚になると、ルーガの表情が黒竜族長のそれになった。


「もちろん、ここに」


 ギルウスが、衣服の下に身につけている、革ひもで吊るされた楕円形の水晶に似た石を取り出すと、族長たる青年は一度頷き、自ら気合いを入れるように深呼吸した。


「よし。それじゃあ、俺の『友人』に頑張ってもらうとするか」


 軽口をたたき、両腕を大きく回して体を慣らすルーガは、緊張どころか笑顔である。


 そんな青年族長に不安の声を上げたのは、イオン少年であった。


「もしルシカさんが王立図書館員に見つかってしまったらどうするんだよ」


 ランタンを片手にぶら下げたイオンの表情は沈み、いつもの彼らしくない。


 ルーガは少しかがむと、完璧な彫刻のように整った少年の顔に自分のそれを近づけた。


「心配しても始まらないだろう。とにかく、俺の風を使って、リノンの風の石の反応を見る。ギルウスには、里に侵入者が来ていた場合に備えてもらうとして。イオン、お前はどうする」


 珍しく年相応の反応を見せている美少年に、ルーガは挑発するような、しかし、屈託ない笑顔を向けた。


「どうするって……俺もルシカさんのところに行くに決まってるだろ」


 若き族長がわざと訊ねているのだということは明白で、イオンは他では絶対に見せぬであろうふくれ面をした。


「じゃあ、決まりな。俺の風の石をお前に貸すから、万が一に備えて、応急手当用の道具を揃えてあとからついてこい」


 拗ねたイオンを笑いながら、ルーガは首から下げていたギルウスと同じ透明の石を、少年の首にかけてやった。


「風の石は、俺の風の精霊に反応して光る。俺に近づけば近づくほど光は強くなるから、それを目安にしてくれ。方角を間違えると光は弱まるから、迷わないはずだ。これは族長と右竜・左竜にのみ携帯を許された貴重品だ。ついでにいうと、ドワーフに採掘・細工してもらった超高級品でもある。失くすなよ?」


「こ、子ども扱いすんな!」


「はははっ! そうそう、その意気でよろしくな。――さて」


 夜の闇のなか、ランタン一つの小さな明かりでルーガの端正な顔をはっきりと見るのは難しかったが、すべきことが定まった今、金色の髪の黒竜族長は行くべき方角を真直ぐに見据え、獲物を狩らんとする大空の鷹の如く勇ましい顔つきになっているに違いなかった。


「流星、出番だ」


 短い合図とともに、ルーガが右手を後ろから前に向かってひと振りした。


 すると、無風であったはずの場に一陣の風が生まれた。それは、木々の枝葉を揺らして現れ、そしてギルウスとイオンに挨拶するように目の前を颯爽と駆け抜けていった。


「うわっ……」


 絹糸の髪をもてあそばれたイオンが短く声を上げる。


 風の正体は、黒竜族長の証したる風の精霊だった。『竜星』の異名をとるルーガが、親しみをこめて『流星』と名付けた、生まれたその時から共にいる半身同然の大切な存在である。


 ルーガは短く笑って少年に謝った。


「悪いな。流星はイオンの髪が好きなんだよ。それよりも、あいつはもうリノンの風の石を見つけているはずだ。俺たちも行くぞ」


 胸元の風の石が強く青白い光を放ち始めたのを確認したギルウスが頷き、指示されたとおり、里の人々のもとへ向かって素早く動き始めた。


 左竜の姿が見えなくなったあと、ルーガが静かに口を開いた。


「じゃあ、先に行く」


 イオンに預けた風の石が煌煌と輝いている。その光に目を細めたルーガは少年に背中を向け、膝を曲げて前傾姿勢をとった。そうして、短く吐いた息を引き金に走り出したのだ。


 その姿は何度見ても感嘆せずにはいられないものであった。


 しなやかな脚力で緑の森を駆け抜ける牡鹿に、水面を裂くように低空飛行する一羽のツバメを彷彿させる鮮やかな身のこなし。そして、その速さといえば、高い身体能力を持つ黒竜族の中でも群を抜き、まるで夜空に弧を描いて瞬く間に消えていく『流れ星』であった。


 一人残されたイオンは、借り物の光輝く石を握りしめ、思わずつぶやいていた。


「竜星……か」


 夜闇の中、風の石の光を抱きしめた少年は、自らも動き出したのだった。




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