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第一話




 穏やかな陽光に包まれた緑の園には淡い栗色の髪の少女がいた。木桶を片手に、柄杓(ひしゃく)で草花に水やりをしている。


 腰まで伸びた柔らかそうな髪を揺らし、柄杓から飛び散る透明な水を見るその表情はじつに楽しげだった。


 栗色の髪の少女の顔立ちは美しいというよりは愛らしく、春の泉を思わせる瞳の色が彼女の全体的に華奢な雰囲気にとてもよく合っていた。そして、何よりも印象的なのは、その肌の白さだ。入念な手入れをした高貴な女性も羨むばかりの白い肌。しぼりたての山羊の乳のようにしっとりとした温かみのある白さである。そこに微笑む唇の薄赤色が可憐さをいっそう引き立てていた。


 そんな少女が、さほど広くもない緑の園に心をこめて水やりをしていると、唐突に声をかける存在が現れた。


「おい、かくまってくれ。追われているんだ」


 言葉の内容のわりには、あまり緊張感のない口調。少女を驚かせた声の主は、輝かしい金色の髪をした青年であった。


 少女があっけにとられて硬直しているのにもかかわらず、あたりを軽く見まわした青年は早々決断をしたのか、少女の背後に群生している小低木の裏手に身を潜めた。


 小低木は白くかわいらしい花をつけたサンザシで、長身の青年の身を隠すには十分とは言えなかったが、それでも地を這うように隠れた青年は見事に紛れ込んでいた。


「頼む、知らないふりをしてくれ」


 少女は返答に困ったのか、一瞬助けを求めるように周囲を見たが、もちろん誰もおらず、そうやって逡巡(しゅんじゅん)しているうちに、青年が言う「追手」らしき人物が現れたのだった。


「おはよう、ルシカ。今日の調子はどう」


 追手は肌も髪も目の色も褐色の長身の女で、じつに親しげに少女に声をかけてきた。


「最近顔色がいいじゃない。安心したわ」


 女は闊達で、空気を震わすような元気のよい声を出した。その勢いに少女も気力を与えられたかのように微笑む。


「あのね、ルシカ。突然だけれど、このへんで怪しいやつ見なかった?」


 少女――ルシカが女から視線をそらして考え込むふりをしたが、察しの良い女は目じりが少しつり上がったきらりと光る眼をさらに光らせた。


「変なことを訊いてごめんなさいね。――そこの曲者(くせもの)。このリノンの目をごまかそうとしても無駄よ。観念しなさい!」


 リノンと自ら名乗った女は大股で少女の後ろへ歩いて行き、肩までまくり上げた服の袖から引き締まった長い腕をサンザシの茂みに伸ばして、地面に這いつくばっていた青年を引きずり出した。


「こら、ルーガ! 今日は白竜族の長がわざわざご挨拶に訪問してくださることになっているとあれほど言っておいたでしょう。この黒竜族の長として、もっと自覚してちょうだい」


 リノンに首根っこを掴まれた青年・ルーガは唇を尖らせ、わざとあさっての方向を見ていた。その反省のかけらもない様子に、さらにリノンの目じりがつり上がると、驚いてばかりでいた少女が、彼女をなだめるように軽くその筋肉質の腕に触れた。


「なぁに、ルシカ。この大きな大きな子どもを許してやれっていうの?」


 ルシカは笑顔で頷いた。水色の瞳が優しさに満ち、それはリノンの心をいとも容易く懐柔してしまったのだった。


 そんなリノンの変わり身の早さに不信感を持った青年は思わず顔をしかめて問うていた。


「おい、リノン。さっきから一言も話さないが、こいつ誰なんだ」


「こいつなんて呼ばないでちょうだい」


 黒竜族の長たる青年を慣れた口調で咎めたリノンは、自分の肩ほどまでの身長の小柄な少女の肩を抱いて紹介した。


「彼女はルシフェルカ。わけあって、あなたが黒竜族長を受け継ぐ少し前にここに来たの。私の大事な大事な友人なんだからね。くれぐれもそこのところを覚えておいてちょうだい」


「ルシフェルカ……?」


 ルーガはまだ腑に落ちないことがあるといった表情で、警戒心なく微笑む栗色の髪の少女を見た。


 これが、ルーガとルシフェルカ二人の初めての出会いであった。



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