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6 王宮内にて

アスモデウスはジョンデラー地方の帝都バンタレインにある王宮近くにいた。


王宮には王がいるため、結界が張っており、結界を破って侵入すれば大騒ぎになる。


アスモデウスは王宮近くの木の上から城門入口を見張りながら、侵入方法を考えていた。城門には、検問がありそれを通過すれば結界を破ることなく侵入ができる。


しばらくして2台の荷馬車が城門へ向かってくるのが見えた。荷台は布で覆われているが、奴隷が乗っているのがアスモデウスにはわかった。しかし、本来王宮には奴隷はいない。王宮で働くには、それなりに資格が必要で、奴隷ができる仕事はなかった。


「2台……30人はいますかね」


荷馬車は城門につくと、御者が門番に紙を渡す。門番は、馬車を一つ一つ確認して城門を開けた。


アスモデウスは、最後の荷馬車が城門を通る瞬間に馬車の車輪の裏に隠れて馬車と一緒に城門を通過した。


馬車は王宮の前庭を通って奥へ進み、王宮の西側にある石でできた塔へ入った。塔内で馬車が止まると、荷台から布がはがされた。


御者は檻を開けて、奴隷たちに下りるように命令する。アスモデウスは、車輪の陰から檻の中に移動し、ボロボロの服と体を汚して奴隷になりすまし、最後の奴隷について檻から出た。


塔の中は、馬車が2台入れるほど広かった。その一角に牢屋があった。30人も入るには小さすぎる。床に座ると隣とぶつかるが、気にせず御者は奴隷全員を中に入れた。そして塔に常駐している様子の兵士に報酬をもらい、そのまま1台の馬車は帰ったが、1台のみ休憩すると言って残った。


塔に常駐しているらしい兵士は何も発せず、視線は常に遠くを見ていた。


取り残された奴隷たちは不安そうな顔で檻の外を眺める。みな奴隷の期間が長いせいか、声を荒げる者はいなかった。


ちょうどそのころ王宮内にいたコンセルは、自室の机の横に置いてあった魔術機械に反応があったことを確認していた。


「きた!」


早足で自室を出て、王宮の西へ向かう。西の塔への連絡通路に続く廊下を曲がると、ドルンがいた。


「そんなに急いでどこに行く?」


「これはドルン大臣、もちろん魔術研究室へ向かいます。今回考えた魔法陣が実際に使えるのかどうか検証しなくてはならないので」


魔術研究室とは、王宮敷地内の西にある石造りの塔のことだった。


「私も見学させていただいてもよろしいか」


「ご存じの通り、魔法陣の検証には危険が付き物です。塔自体を防護壁で囲んでいるので、塔の外には影響がないですが、塔内での安全は保障できません」


「そう言うと思って、防護魔術機械を持参した」


ドルンは手に持っていた機械をコンセルに見せた。


「以前、それを使って見学していた呪術師が腕と足を失いましたが、それでもご覧になりますか?」


そう言われて、ドルンは返す言葉がなかった。一礼をしてコンセルは西の塔への連絡通路へ急いだ。後ろでガンっとドルンが魔術機械を床に投げつけている音が聞こえた。


実際には魔法陣は完成していなかった。コルセンはこれから行うことをドルンに見せるわけにはいかなかった。


コンセルは、西の塔に入ると、王宮からの連絡通路のある3階から1階へ降りて、奴隷がひしめき合う牢屋へと向かった。牢屋の前にいた兵士に指示をして、中から4人の奴隷を出させた。奴隷と兵士を連れて地下への階段を降りた。兵士に部屋に誰も入れないよう指示して、奴隷と部屋へ入った。


その部屋には窓はなく、ところどころにラープの光が妖しく揺れていた。


部屋の中央に人が一人入れるぐらいの大きな魔術機械があった。コンセルは奴隷の一人を中に入れ、さらに一人を機械の操作盤の前へいくよう命令した。


「合図をしたら、ここを押せ」


機械が作動しはじめ、稼働音が部屋に鳴り響く。機械の中から苦しむ悲鳴が聞こえた。コンセルは操作盤の前にいる奴隷に合図を出す。何が起こっているかわからないまま奴隷は操作盤のくぼみを押した。


機械の上に地図が表示された。


この世界は4つの大陸に別れている。右下に位置する大陸のジョンデラー地方に点滅している箇所があった。


「よし、成功だ! 今度はどこにいるんだ!」


コルセンは一人嬉々として食い入るようにその地図を見ていたが、機械の中からの悲鳴は止み、操作盤前にいた奴隷は全身から血を出して倒れていた。すでに息はない。


「これは……。バンタレイン?! 帝都に来てるのか!? もっと詳細な位置を特定しなければ。おい! お前! 中に入れ!」


入口付近にいた奴隷に魔術機械の中へ入るよう命令するが、奴隷はその場に膝をついていた。


「早く入れ!」


怒鳴られた奴隷は涙を流しながらガクガクと震えて動かなかった。コルセンは無理やりに連れていこうとしたが、後ろにいた奴隷が魔術機械を開けて中へ自ら入った。


「おお、えらいぞ! お前はこっちだ!」


コルセンはそう言って魔法で膝をついて動かなかった奴隷を操作盤の前まで動かした。


「い、いやだあああぁ!!! やめてくれえぇ! あああああ!」


奴隷の足元には血だらけの遺体があった。


機械が作動しはじめ、稼働音が部屋に鳴り響く。先ほどと変わって、機械の中から悲鳴は聞こえなかった。コルセンは操作盤のボタンを魔法で操作して奴隷に押させた。奴隷は絶叫を上げながら、血を噴き出して倒れた。魔術機械には、再度地図が表示された。


「よし! 出た! ん……? これは……王宮?! まさか王宮内にいるのか……?」


その時魔術機械の中から奇妙な笑い声が聞こえてきた。


「?!」


魔術機械は正常に動いているはずだった。その場合、中に入った者は生きてはいない。コルセンは何か機械に異常があったと思い、操作盤を確かめたが特に異常は表示していなかった。


バタンと魔術機械の扉が開いた。中から、笑いながら血だらけの奴隷が出てくる。コルセンがその異常さに一歩引く。


「な、なんだお前は! なぜまだ生きている?!」


コルセンがさらに後ずさりしながら問い返すと、目の前に男が一瞬で移動した。


「私に会いたかったんでしょう?」


「ひぃぃ!!!」


コルセンは文字通り飛びあがってその人物から離れた。壁にぶつかったが、なおも離れようと後ろ手をついて壁をまさぐるように触っていた。


「ア……アスモデウス……」


「はい」


禍々しい気を出しながら悪魔はコルセンへゆっくりと近づいていく。


「どうやって私の居場所がわかったのか興味がありましてね。確認しに来ました。まさか、奴隷の命を使って探していたとは」


一歩づつ静かに悪魔が近づいてくるのを眼球に映し、コルセンの震えは次第に大きくなったいった。


「ま、まだ、みみかんせせい、だだが……いまつかわない、で、いいつつか、う」


震える顎ではうまく言葉を発することができなかった。手もがくがくと大きく震えたがなんとかローブの内ポケットから魔法陣を出して展開し始めた。


「おああああああああ!!!!!!」


魔力を最大まで使いアスモデウスに魔法を放つ。それは青白い光となってアスモデウスを包み込んだ。


無事魔法が発動し、アスモデウスが光に覆われたのを目視して、コルセンは足の力が抜けた。


「やった……ついに、アスモデウスを……」


大量の魔力を使ったことにより、コルセンの息は上がっていた。呼吸を整えようと肩で息をしながら、コルセンが喜びの声をあげた瞬間、青い光は霧のようになって消えた。


「え……」


驚愕の声を漏らした。それはコルセンの全ての魔力を使った封印魔法だった。


「こんなもので、私を封印できると思ったのですか?」


コルセンの体はまた小刻みに震え始めた。大量の魔力の喪失の影響で力を入れようとすると筋肉が体の動きを阻止しようと抵抗してくる。


「だって……それは、前に、お前を封印していた魔法……」


それは、120年ほど前までアスモデウスが封印されていた魔法だった。


「ああ、あれでしたか」


アスモデウスは、特に何も感じなかったように歩き、コルセンの目の前にいく。コルセンはアスモデウスの顔、を首が持ち上がる限界まで曲げて見上げていた。頭上から地獄からの誘いのような声が降ってくる。


「あれはある魔法使いがその命と未来をかけて使った魔法です。あなたのように半端な魔術師が同じように発動できると思っていたんですか?」


コルセンはもう動けなかった。ただ静かに最後の時を恐怖で支配されていた。見上げている悪魔が真っ黒の異形のものに変化したと思った瞬間に、コンセルの全身の穴という穴から体液が出た。


アスモデウスは、コルセンのカールがかかった髪を掴んで少し持ち上げ、死体を切り刻んだ。胴体から離れた顔を自分の目の前に持ってきた。


「どこかでお会いしたような気がしますね」


コルセンの頭を投げたと同時に、後ろにあった魔術機械は炎を上げて燃え出した。


1階まで戻ったアスモデウスは、牢屋に入っている奴隷を残っていた1台の馬車に強引に詰め込み、王宮をあとにした。


塔の中には兵士がいたが、虚ろな目で遠くを見ており、アスモデウスたちには何も干渉してこなかった。動く気配すらなかった。


アスモデウスは奴隷を詰め込んだ馬車を操縦して、帝都を抜け街道まで移動した。さらに北へ向かい帝都から離れた小さな街の前で止まった。


街の入口には、背が小さく体が横に大きい帽子をかぶった商人風の男が立っていた。アスモデウスを確認すると、ぺこぺこと頭を下げながら馬車に近づいていくる。


「主様、お待ちしておりました」


「急に連絡して申し訳ないですが30人ほどいます。後のことは任せてもいいですか?」


そう言ってアスモデウスは、荷台の方を仰ぎ見た。


「はい、私でなんとかしてみます。また、何かありましたら、お申し付けください」


地面と平行になるまで腰を折って頭を下げた。頭を上げた時にすでにアスモデウスの姿は無かった。そのまま男は荷台へ向かった。


「さ、下りなさい。まずは全員風呂に入って食事をして、それからだ」


奴隷たちは怯えていたが、商人風の男の人の好さそうな笑顔に少し安堵し、ゆっくりと荷台から降りて男について街へ入った。



「何があった!!!」


ドルンは、連絡通路から西の塔へ駆け込み、階段をドカドカと降りて地下室へと乱暴に入ろうとした。


「いけません!」


衛兵たちに止められたが、制止された腕の間から、真っ赤な血だまりの中にオレンジ色の髪の毛を見つけたが、胴体が付いていなかった。胴体を探すと、頭の近くに胴体と思われる物が散乱していた。


部屋には血と何かが燃えた臭いが充満していた。


「うぇ、お゛う゛ぇ!」


衛兵に体を抑えられながら、ドルンは胃の内容物を外へ戻した。吐くために反射で下を向いていたが、顔をあげて再度確認することはできなかった。


「大臣!」


衛兵は大臣を部屋から離した。


「ううぅ、なんだあれは! 人間のやることじゃない」


部屋を確認していた医療兵士が出てきた。顔には嫌悪感が溢れている。部屋の隅で待っていた衛兵隊長に近寄っていった。


「コルセン様は全身からの出血により亡くなり、その後に首が切断されたようです。魔術機械の中には魔力の枯渇し出血している奴隷の死体、機械の操作盤の前には出血死した奴隷の死体を確認しました」


隊長は頷く。


「この魔術機械が発動したせいで全員が死んだわけではないのだな?」


「はい。奴隷は機械の発動によるとは思いますが、コルセン様は機械から離れていますし、体を切断されています。また、門番と御者と思われる人物も城の外で首を切断されていました」


「この魔術機械はなんだ?」


「わかりません。初めてみましたので、魔術師に鑑定してもらわなければ」


「この機械がコルセン様が殺された動機かもしれないな」


隊長は少し思案したあと、医療兵士に続けるよう伝え、1階へと向かった。1階の牢屋の前の椅子に座っていたドルンに気づき声をかけた。


「ドルン大臣。大丈夫ですか?」


ドルンは顔をあげて、額の油汗を拭きながら頷いた。


「ご気分がすぐれないところ申し訳ないのですが、コルセン様が使っていた魔術機械が何かご存じですか?」


「いや。詳しくは知らん。奴はここで対アスモデウス用の魔法陣を実験していたはずだったんだ。機械については何も」


「そうですか……」


礼を言って隊長はドルンから離れ、兵士に1階の情況報告を聞いている。


ドルンは兵士から渡されていた水を口に含み息を吐いた。


「コルセンは一体何をやっていたんだ……。あんな……うぇ!」


ドルンはコルセンの遺体を思い出し餌付いた。

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