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2 火あぶりの刑

人の声が聞こえて目を開けた。何度か目を瞬く。月が見えた。夜だった。


そこは屋外のひらけた見通しのいい場所で点々と石の壁や古代ギリシャのような大きな柱が見えた。その広間の中央にある祭壇のようなところに舞以はいた。


眼下には大勢の人が見える。人々は祭壇に群がっていて、醜いものをみるように見上げていた。


舞以は祭壇の上で柱のようなものに体を固定され、腕や足に力を入れると食い込むような痛みを感じた。唯一動いた首を動かすと、それまで聞こえていたざわざわとした声が大きくなった。


「動いたぞ!」


「目を覚ました!」


「ああ・・・なんておぞましい」


「皆の衆、これが最後の生き残りだ!」


すぐ隣から大声が聞こえ、足元から歓声が上がった。全くわけがわからず、必死に辺りを見回す。目に入ってくるのは、殺せ!、早くしろ!と拳を挙げ叫んでいる人々だけだった。何かを投げる人もいて、いくつか当たった。


逃げようとするが、体は動かせない。魔法を使おうとするが、自分に全く魔力がないことに気が付いた。

汗がこめかみをつたう。


覆面の男が、火が付いた松明を持って近づいてきた。舞以の足元には、藁のようなものが大量に置いてあった。火あぶりをされそうになっていることに気がつき、やっと声らしいものが出た。引きつった音が喉で鳴った。


「長かった魔女の脅威もこれで終わる!」


隣の男が叫んだ。


「火を放てぇ!!」


舞以は拘束されている体を必死になって動かした。拘束されている手や足から血が出た。


「やめてぇぇ!!!」


炎は足元へと近づいていく。大量の汗が噴き出す。


「私は何もしてない! 誰か助けて! やめてぇぇぇぇ!!!」


炎が足元へ到達したと同時に目を瞑った。足元から焼かれる痛みを覚悟したが、感じたのは手足の拘束が解けた感覚だった。


目を開くと広間全体が黒い炎で包まれ、叫び苦しむ悲鳴が広間に響き渡っている。


舞以の目の前には美しい人がいた。漆黒の髪と、紫の彩光が入った黒い瞳。ふわっと華の香りがした。


「だいぶ見た目が変わりましたねぇ」


そう言って、彼は細長い指を彼女の黒髪を手に取る。


阿鼻叫喚の叫びの中、彼は美しく彼女に微笑みかけていた。


「ああああ!助けてぇぇぇ! いたいっ! 痛いぃぃぃ! うぁあぁぁぁ!」


火をつけようとしていた覆面の男は、黒い炎で包まれてのたうち回っている。舞以にもその炎は纏わりついていたが、痛みは全く感じていなかった。


「さあ、行きましょう」


彼がそう言うと二人を包んでいた黒い炎がさらに濃くなり、目の前が真っ暗になった。さああっと風が彼女の髪を舞い上げた。そこは月に照らされた草原だった。


さっきいた場所と全く違うところにいることに驚き反射的に後ずさりをしたが、がくっとその場に座り込んでしまった。急にはあはあと呼吸が荒くなった。体に力が入らない。


「大丈夫ですか?」


彼は舞以の顔を覗き込んで聞いた。舞以は睨みながら、息を整えようと必死に呼吸をしていた。逃げたかったが、体が動かいない。早く逃げようと焦っていたが、急に視界が大きく動いた。


「!」


すぐ目の前に彼の顔があった。彼に抱きかかえられていた。平手打ちでもしようと左腕に力を込めたが、少し動いただけで持ち上げることができずそのままだらんと下がった。


彼はふわりと飛び上がった。楽しそうに笑っているように見える。


舞以の視野の端に小屋が見えた。。彼は舞以を抱いたまま中へ入り、奥の部屋にあったベッドに彼女を横たえた。


「熱があります。冷たい飲み物を持ってきますね」


そう言って部屋から出ていった。


舞以は一刻も早くここから逃げようと試みた。這いずるように腕を動かし、足を動かしてベッドからなんとか上半身を降ろしたが、体のあちこちに痛みが走り、息もしにくい。眩暈、嗚咽をこらえてなんとか進もうとしたが、下半身をベッドから離すことは出なかった。


自分の心臓の音と呼吸の音がうるさい。汗が目に入ってしみた。遠のいていく意識のなか、ドアが開いて彼が入ってきたのが見えた。舞以はまだ死にたくはなかった。今回は18年しか生きていない。


「に…げ……な…………」


擦れた声を最後に舞以は意識を失った。

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