ダーナ視点 ラスト
「また作る?何を言っているんだい。その中に残っていたポーションこそが、その道具の”かなめ”なのに……。少し残しておいて、薬葉を継ぎ足して作ることで、特別なポーションができるんだ……それがなくなってしまったら……」
自分でもよくとっさにこんなこと思いついたと思うよ。
「もう、誰にも、特別な効果が高いポーションは作れない、あんたの、あんたのせいだ!あんたが、無理に私から奪おうとしたから」
がらんと音をたてて、道具が地面に落ちる。
背の低い男は真っ青になって、震えだした。
「あんた、リョウナを探しに来たのは、特別なポーションを手に入れるためだろう?それを、あんたが台無しにした。誰に頼まれてきたのか知らないけれど、あはははは、大目玉だろうね?そりゃそうさ。1本金貨何枚もするようなポーションを安い薬葉さえあればいくらだって作れる道具を壊しちゃったんだからね。あはははは、ざまぁみろだ。大目玉どころか、仕事はクビじゃないのかい?それとも、犯罪者の烙印を押されて追放かねぇ?腕の一本も切られるか、下手したら責任を取って始末されるか。あははは、ざまぁみろ、ざまぁみろだ!」
思いっきりあざ笑ってやると、背の低い男は顔を真っ赤にして、私をつかみ上げた。
「お前が素直に渡さないから悪いんだ、俺のせいじゃないっ!ああ、そうだ、お前のせいだ、お前が償えっ!」
男がマントの下の服のどこかから短剣を取り出した。
「やめろっ」
背の低い男の手をつかんで、背の高い男が止める。
「なんでだよ、お前だって一緒に処罰されるかもしれないんだぞ!だったら、この女さえ始末してしまえば!」
「町の人間の目がある。皆殺しにでもするつもりか!始末するにも方法っていうものがあるだろう」
くっ。なんだよ、聖騎士ってやつは、人殺しも罪にならないってのかよ!
こりゃ、おちおち一人になるわけにはいかなそうだ。だが、ちょうどいい。
「た、助けてくれよ、そ、その代わり、いいもの上げるから」
必死の形相で命乞いをして見せる。
「いいものだと?」
「ああ、ちょっと待っててくれ」
急いで部屋から、リョウナの着ていた服を持ってくる。町を出ていくときに、ブルーノに行く前に町の人間がリョウナに服を渡したんだ。
「血だらけの……なんだこれは」
そう。血だらけだったから。見るに見かねてね。軽くぬれタオルで血もぬぐってからブルーノに向かった。
「見ての通りさ、リョウナの着ていた服だよ、あちこち穴があるだろう」
「これは、ウルビアにでも襲われたか?」
「そう、そうなんだよ。見てわかるだろう?どれくらいひどい襲われ方をしたのか」
背の高い男が、リョウナの着ていた服を広げてどす黒く残った血と、ウルビアの歯に食いちぎられた穴を見た。
「とてもこれでは生きていられないだろう」
私は一言も死んだなんて言ってない。
「それを持って行けばいい。命じられたのは、リョウナを探すことだろう?効果の高いポーションを作れるリョウナを探した結果だと、それを持って行って見せればいい。もし、真実の水晶で問われたって、リョウナを探して話を聞いたらこれを渡されたと言えば、嘘をついたことにはならないだろう?」
背の低い男がハッとする。
「だが、リョウナの服だと誰が証明するんだっ」
「リョウナは、罪人さ。聖騎士詰所で数日前に有罪判決を受けたばかり。つまり、着ていた服を、他ならぬ聖騎士詰所の人間が覚えているはずだよ」
背の高い男が、リョウナの服を雑に丸めて鞄の中に詰め込んだ。
「……帰るぞ。報告に戻ろう。……探していたリョウナは死んだ」
背の高い男が背の低い男の背中をたたいた。
「……快く、リョウナがその道具をお前に譲ったと言っていたが……」
立ち去り際、背の高い男が振り返った。
もしかして、それを奪うためにお前が殺したんじゃないかと、そう男の目が疑いの目を私に向けている。
ああいいさ。それでいい。
きっとブルーノにいたころの私を知っている人間に話を聞けば、疑いを確証だと思い込むような証言が出てくるだろうよ。
リョウナは死んだ。
だから、これ以上探すのをやめることだ。
リョウナを利用させやしないさ。たとえ、私の言葉がでたらめだとばれようと……時間稼ぎにはなったはずだよ。
ダーナ視点ここでおしまい
こっそり行われているダーナの恩返し。
実はこのあと再びダーナの恩返しがあるんですが、こういうやりとりはパスして、別視点で簡単に書きます。ダーナもダーナなりに、生きてきた環境で色々「裏」が鍛えられていて、ある意味それがリョウナのために役に立ったという話でした。




