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「悪い人はきっと、力は攻めるために使うと思うの。ディールは、力を守るために使えば間違えないと思うんだ。どれだけ強くなっても、守るときにだけ力を使っていれば……ね?」
まぁ、すんごき悪の女王みたいな人に「わらわを守るのじゃ」とか利用されちゃう可能性がないわけじゃないけれど。
「ああ、分かった。俺は……」
ディールさんがつきものが落ちたようなさわやかな笑顔を浮かべた。
「リョウナを守る」
は、い?
「俺は、リョウナを何があっても守ってみせる」
いや、ちょっと、おかしな結論になってる気が……。
「そ、そうじゃなくて、パズ君とか、それから他の、えっと」
「俺は、リョウナのために、もっと強くなる。リョウナ……」
ぐいっとディールの顔が近づいた。30センチも距離がないよっ。
「俺の……」
ちょっと、ちょっと、待って!
ディールの顔が、近づいて、これって、まるで。
キスされるみたいな……。
「……!」
唇に、ディールの唇が触れた。
え……っと、あれ?
なんで、そんなことに?
「俺は、これからリョウナのために生きる」
混乱して、思考放棄して、ぼんやりして、すぐに離れたディールの顔を眺める。
なんで、私、ディールとキスなんて……。
あの時の……人命救助のための、ポーションの口移しとは違うよね。
違うよね、これって……あの、えっと……。ディール、どういう意味なの?
目の前にいるディールが赤く輝いて見える。
赤なんで、情熱の赤?バラ色?
やだ、なんで、そんな風にディールが見えるんだろう。
って、違う。魔法?
「ディール、光ってる」
ディールがキラキラして見えるんじゃない。本当になんだかキラキラしてるし、赤い光に包まれてるし、その光がまっすぐと空へと伸びている。
ディールも自分が光っていることに気が付かなかったみたいで、空を見上げて、赤い光を見て驚いた顔をしている。
「まさか、俺が……」
ディールが驚いたためか、すぐに魔法の光は収まった。
「そんな……俺が、俺の力は……」
がくがくと、ディールが自分の手を見て震えだした。
なんだろう?魔法が使えないと思っていたのに、使えることに初めて気が付いたとか?
ディールが真っ青な顔をして、私の顔を見た。
「リョウナ……ごめん、俺……俺……リョウナと一緒には……いてはダメだ……赤い、赤い光が……」
私と一緒居いてはだめ?
なんで急に。
……あ。
ふと唇に視線が向く。
同意を得ずにキスしてしまったことを後悔しているとか?えーっと。