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「ち、違う。あーっと、荷物になるから、えっと、置いていきたいけど、もったいないから、誰かにつかってもらえた方がいいから。でも、使い方を知らない人に渡しても……だから、えっと、ダーナがいらなければ、その、使い方だけ誰かに教えてあげて?」
ダーナが、手動ミキサーを受け取った。
「あとで、返せっていっても、返さないからな?」
よかった。受けとってくれた。
「私には、あんなに、何も……返せないから……な?」
何も?
ダーナが、手動ミキサーを抱えて、ふいと去っていった。
「リョウナ、行こうか。パズも心配してるだろう」
ダーナの背中を見ていたら、ぽんと肩をたたかれた。
「うん。ディール……」
ダーナ。私に何かを返してくれないくてもいいんだ。別の誰かが、ダーナの作ったポーションで救われることがあるなら、それが私への恩返しになるんだから。
世の中はきっとそういうものだから。自分だけの損得だけで回るものじゃないんだよ……。
「リョウナ、本当にいいのか?」
ディールにおんぶしてもらっています。
いや、だって、お姫様抱っこで運ばれるよりはましだと思うんだよね。
「うん、ちゃんとつかまってるから、よろしく」
どうにも私の足が遅くて、こうなりました。
ディールは私をおんぶしても、すごいスピードで走れるんだよね。振り落とされないようにしがみついていないと。狼煙を上げてから、短時間で駆けつけてくれた秘密はこの走るスピードにあったんだ……。
馬車って、時速5キロくらいだって何かで聞いたことある。マラソン選手は3時間もかからず焼く40キロ走るわけだから、馬車で2時間の距離、10キロを30~40分で駆けつけるのも不可能ではないわけだけど……。
私を背負ってとか。
「ディール、疲れたら言ってね」
「全然問題ない」
超人的だよ。
背中で揺られることになれてきたので、ディールに話しかける。
「人間離れしてるね」
私の言葉に、ディールが一瞬体を硬くした。
「……怪物……みたいか?」
「怪物?とんでもない。言い方がわかるかったのかなぁ。超人……すごい人って意味だよ」
「そう……。その、俺が、もし、もっと怪物じみた力を持っていたら、どう思う?」
怪物じみた力?怪力とか?んー、あ、チートとかいう感じの能力のことかな?
「素敵ね」
再びディールの体が硬くなった。
それでも、スピードを落とさずに私を背負ったまま走っているんだから、もう十分怪物じみていると思ったのは内緒だけど。
「怪物だぞ?どこが素敵なんだ?」