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「あっと」
ディールが、手動ミキサーと私の顔との間に視線を往復させた後、周りを見回し、ミキサーの大きな器を片手で持ち上げて自分の顔に持って行った。
え?ディールが飲むの?
と、思った次の瞬間、ディールの唇が、私の唇に押し当てられた。
小さく開いた唇の隙間から、ポーションが流れ込んでくる。
あっ。
口移し……その手があったか……って、その手がね、あの、定番よね。
薬を飲ますなら……うん、そう、ディールに他意はなくて、純粋に、私にポーションを飲ませようとして……。
キ、キスとかじゃないんだから。
なのに、なのに。
もうっ!何なの!私の心臓。バクバク言いすぎ。
こくんと流し込まれたポーションを飲み込むと、鉛のように重たかった体が軽くなる。
動かなかった体の自由が戻る。
そして、背中に回されたディールの手のぬくもりも、触れたディールの唇の柔らかさをはっきりと感じることができた。
「ふぅ、ありがとう、ディール。もう、大丈夫」
ディールがもう一度ポーションを飲ませようと手動ミキサーの器に手を伸ばすのが見えので、その手を止める。
「リョウナ?もっとポーションを」
「うん、大丈夫。ほら、ちょっと血が足りなくてふらふらしてるけど、怪我は治ったよ。あとはいっぱい食べて栄養付けて回復するしかないよね」
ほうれん草にレバーに。貧血の時に食べるといい鉄分豊富な食べ物。この世界には何があるのかなとぼんやり考えていると、激しくディールに抱きすくめられた。
「リョウナっ。よかった。リョウナ……死んだかと……もう、駄目かと……。リョウナが俺に……助けを求めてくれたのに、間に合わなかったのかと……」
そうか。
助けてと狼煙を上げたということはそういう意味もあったんだ。
助けを求められた側。助けられればいい。助けられなかったときの心の傷……。
「ごめんね……」
「なんで、謝るんだ、俺こそ、もっと早くに助けられなくてごめん……」
私を包み込むディールの体が小刻みに震えている。
「ううん、ううん……助けてくれてありがとう」
周りには、無数のウルビアの死体が転がっている。
強いだろうとは思っていたけれど、本当に強かったんだ。
「リョウナ、ごめん、俺……リョウナに嫌われても、それでも、一緒に居たい……」
「ディール?」
「離れている間に、リョウナに何かあったらって……もう、こんな思いはしたくない」
本当に、ごめん。何かあったらと渡された狼煙が上がっているのを見て、ディールはどんな気持ちで駆けつけてくれたんだろう。
駆け付けた場所で、血まみれで倒れた私を見てどう思ったのだろう。
生きているか死んでいるかもわからないような重症を負った私を見て……。
どんなに苦しい思いをしたのだろう。