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全員だ。全員が命を取り留めた。
「よかった、皆……助かって」
ボロボロと女性の一人が泣いている。
「ありがとう、もう私も旦那もダメだと……」
「おい、泣いてる暇はないぞっ、急いで町に帰るぞ」
男たちが4人がかりでウルビアをどうやら倒してくれたようだ。
腹に棒の刺さってったウルビアが倒れているのが見える。
「ああ、また群れが来たらどうにもならない」
群れ?
「ウルビアの、群れですか?」
1匹でもあんなに恐ろしいのに。
「ああ、そうだ。1,2匹ならどってことないが……30、いや40匹はいただろうか。気がついたら群れに囲まれていた」
ぞくりと背中が寒くなる。
「よくあることなんですか?」
「いや。よくあるなら、俺たちも森に入って薬葉を収穫しようなんて思わねぇ。町を捨てて他の町で別の仕事をするさ」
確かにそうか。
「話はあとだ。町に、家の中に入ればやつらは襲ってこない」
男が、片足が不自由となった女性に肩を貸す。
ほかにも血を失いすぎてふらつく人が支え合いながら歩き始めた。
「どれほど高価なポーションを使ってくれたのか分からねぇが……金はない。それでもできるだけの礼はする」
リーダーのような男性が、フラフラになっているダーナを支えて私の方を向いた。
「いいえ……今、ウルビアを倒してくれたのは皆さんです。倒してもらえなければ、私はあそこで死んでいた……だから、お互い様です。私も、命を救われた。だから、気にしないでください」
高いものじゃないんだけれど、でも、手動ミキサーを使って手早くポーションを作ることができなければ……。
私も皆と一緒に馬車で町に行ってしまったら……と考えれば全く私の手柄ではないわけではないので、感謝を素直に受け取っておく。
少し進んで、振り返る。
「あ、狼煙が」
煙が弱くなってきている。
「すいません、先に言っていてください。火を少し大きくしてから追いかけます」
リーダーに声をかけて小走りで戻る。
しっかりと乾いた木を道のわきの森から持ってきて、火にくべる。
黙々と、再び煙が上がった。
見上げると、1本の筋のように煙が真上に上がっていく。
雨も風もなくてよかった。私は、きっと、運がいい。
地面に置いた手動ミキサーを持ち上げる。
まだ中には作ったポーションが残っているから、リュックに入れるわけにはいかないので抱えて移動するしかない。
瓶にうつしてリュックに入れてしまおうかとも思ったけれど、ウルビアの群れが来るかもしれないと言われているのだ。時間がない。




