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「生きてるっ」
まだ、生きてるっ!
並べられたのは7人の成人した男性と女性だ。
「収穫籠が落ちてた。町の人間で間違いないだろう」
冒険者の男が、おおきな背負い籠を持って森から出てきた。
「残念だが、町に連れて行っても助かりそうな人はいないだろう……」
嘘だ。嘘だ。嘘だ。
ぽんと乱暴に冒険者風の男が投げた背負い籠がぱたりと倒れて、中の薬葉が道に散らばった。
ほかに何も考えることなんてできなくて、自分の運動能力とか、それから他の人たちの目とか。
馬車の荷台から気が付けば飛び降りていた。
「薬葉だ、薬葉」
みっともなく着地して、足を捻ってしまう。いち早く駆け付けたいのに、足が痛くてうまく歩けない。それでも、必死に手を伸ばして、籠から零れ落ちた薬葉に手を伸ばす。
「何をしている」
冒険者に腕をつかまれ止められた。
「ポーションを作るわ!薬葉があれば、ポーションが作れる!ポーションを飲ませれば」
「ポーションを作るだと?今から?どれだけ時間がかかると思っているんだ。そんな時間はない。さぁ、馬車に戻って、町に知らせよう。家族も、死に目には会えるかもしれない」
死に目。
……。なんで、なんで、まだ、生きてるのに。
「さ、先に、皆さんは先に行ってください。もう、町までは歩いて行ける距離ですよね?私、あとは歩いて行きます」
私の言葉に、どうする?と、皆が顔を見合わせている。
「後で町に人たちも死体を回収しに来るでしょうから、その時に一緒に町に連れて行ってもらえばいいんじゃないか?」
「そうですね」
馬車がガタゴトと動き出した。
「待っていて、今、ポーションを」
痛む足を引きずりながら薬葉に手を伸ばす。
リュックの中から、手動ミキサーを取り出し、葉を入れていく。
「あ、薬葉だけではだめだ。呼び水になるポーションが1本ないと……」
どうする、まずすりつぶして水分を出すか、それとも水でもなんでも使うか。
と、動きが止まった私の目の前に1本のポーションが差し出された。
「え?いいの?」
驚いて見上げると、フードで顔が見えなかった女性が立っていた。
「馬鹿じゃないの。こんな奴らのために怪我までして」
パサリとフードが落ちると、女性の顔が見えた。
「ダ、ダーナ、どうして、ダーナがここに?
「あんたのせいで、店をクビになった」
え?
「私のせ……い?」
ダーナの目には涙が浮かんでいる。
いつものように、憎しみのこもった目とは違う。
「そうだ、リョウナ、お前のせいで、男たちを引き入れたと店を追い出された」
それは、私のせいなの?
「あははは、借金もチャラだ、もう店に縛られる必要はない……」
え?
あーっと、それはクビになってむしろラッキーだった?




