61
怪我人描写あり、閲覧注意
「まだ、息がある者もいるように見えるぞ、襲われて時間が経ってないんじゃないのか?」
息が、ある?
その言葉に思わず背けていた顔を、見ない方がいいと言われた方に向けた。
「あっ!」
血まみれの人、いったい何に襲われたのか……獣の類だろうか。ひどい有様の人が、道に倒れていた人の背後にも森の中に何人も見える。
森の中に逃げようとしていたのか、木に登ろうとしていたのか。それとも森の中で襲われて道まで逃げてくる途中だったのか。
「ポ、ポーション……」
息があるならポーションを飲ませれば助かる。
「ポーションを、誰か持っていませんか?」
私の声に、全員が口をつぐんだ。
「あんなひどい怪我を癒せるようなポーションは持っていない」
「いや、たとえ持っていたとしても……1本で金貨何枚もするようなものを……」
ぐっと奥歯をかみしめる。
「何も、金貨何枚もするようなものをとは言いません、初級ポーションでもっ、止血して町に運んで治療すれば」
初級ポーションでも抗生物質のような効果はあるんだ。何かに感染して……そう、破傷風は防げるはず。
出血が止まれば出血多量でなくなることはないはず。
「残念だが……」
冒険者風の男が首を横に振る。
「ポーションを無駄に使うことはできない」
無駄って何。無駄って。
「ねぇ、助かりそうな人だけ馬車に乗せて町に連れていくことはできないの?あの人たち、今から行く町の人たちでしょう?」
商人の妻の言葉に夫が頷いた。
よかった。助けようと思ってくれる人がいて。
「そうだな、見殺しにしたと思われては、商売にかかわる。ちょっと、助かりそうな人がいないかだけ見てくれないか」
商売のため?
ひどいという気持ちが沸いた。
ああ、でも、違う。溺れている人を助けるために川に飛び込んで自分が溺れてしまっては元も子もないのだ。
助けられないのに、助ける力がないのに助けようとすることもまた、人に迷惑をかける。助けたいっていう気持ちだけじゃだめだ。
私がポーションを持っていればよかったんだ。自分が助けられないくせに、人に助けてと頼んで、思うように助けてもらえないからってそれを非難するなんておかしい。
私が、ポーションを持っていれば……。
あ。
馬車が止まった。
「せめて森の中から出してやろう。そうすれば、町の人も何もしなかったとは言わないだろう」
冒険者風の男が二人、森の中に入り、バラバラに倒れていた人たちを道へと順に運んできた。
ひどい状態だ。喉元がかみ切られているけれど、ヒューヒューと息をしている。腕がちぎれているけれど、まだ瞼がひくひくと動いている。