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「あの、私、この街を出ることになったので……それを伝えに」
小さな声で伝えると、パズ君が私にぎゅっとしがみついて来た。
ディールが、ショックを受けた顔をする。
「な、なんで?何があった?」
ディールの言葉に、思わず下を向く。
犯罪を犯してしまい、街を追放されるんですと……。
「店の借金も返して、少しお金もできたから、あの店を出てきて……」
本当は、私のように騙されるようにして働かされる人がいないようにいろいろ動こうと思っていたけれど……それはできなくなっちゃって。
私は、悪いことをしようと思ってたわけじゃない。
だけれど、悪いことをしたことは事実で。それを二人に知られたくなかった。
「あの店で働いていたって噂はすぐに広がるらしくって、あの、この街では仕事が探しにくいから、えーっと……」
ハナの言葉を借りる。
嘘はついていなくて、ただ、真実の一部を黙っているだけで。
「だ、だったら、3日待ってくれないか?あと3日でこの町の仕事が終わるから、そうしたら、一緒に……あの、リョウナが嫌じゃなければ一緒に街を出て移動を……」
嬉しい。
本当はすごく心細くて、また知らない人ばかりの状態になるのが怖い。
でも、3日待つことはできない。
「えっと、もう、今日街を出るって決めたから……あの、ほら、宿代もかかるから、えっと、1日も早く新しい仕事が見つけたいし」
本当は一緒に行けたらいいって思ってるけれど。日が暮れるまでに街を出ろと言われているから。
「宿代なら……いや、すまん。そうだ。リョウナは……」
たぶんディールは俺が出すとでも言おうとしたのだろう。
ぎゅっと、パズ君の手に力が入る。
温かいパズ君のぬくもり。
離れたくないな。
「どこの町に行くつもりだ?」
「全然分からないから……相談しようと思って」
ディールがほっと息を吐きだした。
「そうか、うん、行先が分かるなら、あとでまた会えるな……この近くの町なら、南へ向かうと大きな町がある。」
南というと、浩史が向かった方向だ。ついてくるな、お前はあっちだと言われて私は北へ進んだ。南へ行くわけにはいかない。
「できれば北に」
「そうか、ならば、1つ先の町は小さいから仕事が見つかるかは分からないな。主な産業は薬葉の収穫だったと思う。他には何もない街だ」
薬葉の収穫?ポーションの材料になる、あのお茶の葉に似た葉。
「素敵っ!」
お茶の葉を収穫して生活するのって素敵じゃないかしら。
お茶農家の実家を思い出す。




