★浩史サイド★
「ほかにも、ほら、これも。こんなの見たことないだろう?」
多少乱暴に扱われても壊れないだろう、今度は多機能ナイフを取り出して見せる。
「なんじゃそりゃ」
「いろいろな便利な道具がこれ一つに詰まってるんだよ、これはナイフ、で、これがハサミ、こっちがドライバー」
「は?肉を突き刺して食べるのにでも使うのか?」
……そうか。ネジがないからドライバーも意味がないのか。
「しかし、本当にこんなもん見たことねぇな」
「だから、俺は別の世界から来たの。この世界の人間じゃねぇんだよ」
「はははは、分かった、分かった」
隣に座っていたよっぱらいが、真っ赤な顔をして俺の背中をバンバンたたいた。
いてぇぞ。相撲取りのような体系だと思ったが、力も相撲取り並みかよ。ただのデブなわけないか。冒険者だしな。
「兄ちゃんは、こぎれいな恰好してるし、こーんな高そうなものも持ってるもんなぁ、オイラたちとは住む世界が違うんだろう、よくわかった」
「全然、分かってない、そういう階級的なんじゃなくて……あー、なんだ、ほら、なんか噂してただろ、月の橋?神獣?そういうたぐいのだな」
「おお、そうそう、月の橋がな、架かったらしい。いったいどこに神獣は現れるんだろうな」
「神獣の加護を得た国は栄えるって話だろ?」
「栄えるっていうか、無敵の神獣の加勢があれば戦争に負けないってことじゃなかったか?」
「いやいや、神獣がいるというだけで他の国が頭を下げるんだろ?」
「とにかく、神獣を手に入れたもん勝ちってことじゃね?」
「それって、国じゃなくて個人でも神獣を手に入れれば力を得ることができるってことか?」
「王様になれるって話もあるよな。そういやぁ、ほれ、なんたら皇国の初代皇帝とか、神獣の加護を得て国を興したとかなんとか」
ん?
もしかして、それか?
俺のチートって、テイム系で、神獣をテイムしちゃうとかってやつか?
「それだよそれ!俺がこっちの世界に来たから、神獣が現れたんだよ!これで、俺が勇者だってわかっただろ?」
「あはは、まだ言うか、面白い男だなぁ」
まだ信じない気だな。
ビリリリリーンロロロ。
突然、大音量でアラームが鳴り響き始めた。
「な、何の音だ?」
酔っぱらいが慌てて立ち上がる。
「あー、すまん、アラーム……そうだ。深夜アニメを見るためにかけてあったんだ……」
慌ててスマホを取り出すし、画面に触れてアラームをオフにする。
「まずいな。アラームも切っておかないと知らない間に電源入って、電池を消費してたらまずい」
ロックをはずし、アラームの設定を触る。
「なんだ、鏡じゃないのか……?」
「光っている、絵が映っているぞ?」
「なんだ、次々と画面が変わる」
みっちり酔っぱらいが俺に頭を突き合わせるようにして寄ってきて画面をのぞき込んでいる。
「だから、言っただろ、俺は別の世界から来たって、これはスマホ。この世界の文明にゃ作れない科学の結晶。これで、信じたか?」
「あ、ああ、信じられないが……そんな不思議なものは初めて見る」
「ちょっと触らせてくれないか?」
設定が終わるとすぐに電源を切る。
「他のものが触ると天罰が下るから、おすすめしない」
急いでポケットにしまうと、天罰という言葉が聞いたのか、男たちが距離を取った。
顔を突き合わせていた男たちが離れると、開いた空間に若い男の顔が現れた。
「楽しそうだね、僕も話に混ぜてもらってもいいかな?」
ランプの明かりで薄暗い牢の中なのに、光り輝いているように見えるくらいのイケメンだ。銀の髪がキラキラと光を返している。
「お前、どこから入ってきた」
牢の中に突然現れた男に、驚いて酔っぱらいが声を上げる。
若い男がすっと、腕を伸ばして刺し占めた先は、牢の入り口。鉄格子の一部が開くようになっていて出入りができるその場所だ。
そして、その先。
「あ、お前、向かい側の牢屋にいたやつか?
背中を向けて丸まっていたから顔までは見えなかった。
黒っぽい緑のマントを羽織っているが、その色は確かに向かい側にいた男の背中と同じに見える。
「そう。ちょっと面白そうな話をしているのが聞こえたものだから、仲間に入りたいと思ってね」
ニコニコと笑うイケメン。
「ああ、いいぞ、楽しい酒がのめりゃ誰でも歓迎する」
酔っぱらいたちが、イケメンのために体をずらして場所を作った。
「よろしく。異世界から来たという勇者さん」
うん、どうやらこいつはいいやつだろう。
「ああ、浩史だ、コウとでも呼んでくれ」
散々酒を飲んで、気がついたら寝ていて朝になっていた。
「冒険者になるのはあきらめたかしら?」
朝、アイラが鉄格子の外で仁王立ちになっていた。酔っぱらいたちはすでに帰ったようで、空になった皿や酒瓶は運び出されて、ただ酒の匂いだけが牢の中に残っていた。
あー、頭がいてぇ。完全に二日酔いだ。




