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★浩史サイド★

浩史サイド

 ランプの心もとない灯りだけが頼りの牢に一人残される。

 いや、一人じゃないな。向かい側の牢にも、なんか人影がある。こちらに背を向けて体を丸めて寝転がっているから、どんな人間なのかは分からない。

 はー、まぁいいや。朝になれば出してもらえるだろ。そうしたらギルド……は、どうやらアイラの息がかかっていて俺に冒険者にさせないと圧力が掛けられている可能性はある。なぜ、俺に冒険者にしたくないのかは分からないが。

 とすると、神殿だな。多分隣の建物が神殿だろう。

 先に、神殿でスキルチェックの水晶のようなものとかそういうのがあるかチェックだ。

 もしかすると、祝福を受けてから初めてスキルがもらえるとかそういう系かもしれないし。通常は5歳のときだとか10歳のときだとかなんか儀式みたいなのがあっても、異世界から来たって言えば特例で祝福の儀式とかしてくれるんじゃね?

 俺、勇者だし。勇者が現れるっていう神託とか受けてる可能性もあるよな?

 畜生、それにしても、石、硬いな。冷たいし。布団の一つも用意しろよ。

 ああ、でもこんな文化レベルの低い世界の布団、ダニまみれでむしろひどい目に合うかもしれないな。

 っていうか、ここで寝て大丈夫なのか?ネズミとかにかじられたりしないだろうな?

 くそっ。なんだって俺がこんな目に。

 体を丸めて寝転んでいるうちに、眠気が襲ってきた。

 珍しくずいぶん歩いたからな。それに、全力疾走もしたっけ……。あー、腹が減った。腕も痛い。でも、何より眠いな……。

「聞いたか、月に橋が架かったそうだ!」

「おい、それは本当か?誰に聞いた」

「上ではもうみんなが噂してるよ」

「あー、くそっ、見たかったな。なんで肝心な時に俺はこんなとこにいるんだ」

「そんなもん、酒飲みすぎて暴れたからだろうが!」

 あー、もう、うるさいっ!人がせっかく寝ていたのに、ごちゃごちゃと大きな声で食っちゃべりやがって。

 目を開くと、大柄なおっさんが何人も座り込んで酒を飲んでいる。

 は?

「おー、若いの、起きたか。お前、何をやらかしてここに入れられたんだ?見たところ冒険者にも見えないが」

 独房じゃなかったのかよ。

 いくつか並んでいる牢にはどこも4~5人の冒険者が放り込まれている。

「おいおい、びっくりしてるみたいだな。いつもの光景だぞ?酒を飲みすぎて暴れたり、ちょっと言い合いが行き過ぎて殴り合ったりするとすぐにここに放り込まれる。俺ら、常連な」

「あはは、そうそう、ここに入れられると頭がすーっと冷えて冷静になるからな、むしろここで飲む酒はうまい」

「ここでも暴れると隣に連れていかれるもんな。そりゃ頭も冷えるさ」

「言えてる、がははは」

 酒くせぇ。

 男くせぇ。

 汗くせぇ。

 とにかく、くせぇ!

 あまりのひどいにおいに顔をしかめる。

 なんだよ、これ!勇者ってのは、いい匂いのするかわいい女の子や、綺麗なお姉さんに囲まれるんもんだろう?

 なんで、俺は、こんなむさくるしいおっさんに囲まれてんだ?

 向かい側の牢を見ると、相変わらず背中を丸めて一人寝転んでいる。

 って、あっちは一人じゃん。なんてこっちにおっさんたち詰め込んだ!

 アイラの差し金で、嫌がらせか?

「おい、ひょろいの、お前もそんな仏頂面してないで、飲め、飲め」

 まったく、世界は違っても、よっぱいはどこも同じだな。

 円座に座ったおっさんたちは、床に適当に置いた食べ物を肴に、大きな陶器の酒瓶からめいめいにコップに酒を注いで飲んでいた。

 常連とか言ってたが、ずいぶん持ち込んだな。

 干し肉、パン、チーズ、煮干のような小魚に、謎の食べ物。

 ぐぅーっと、お腹が空腹だということを思い出させる。

「あははは、兄ちゃん腹減ってんのか?なら、酒の前に食え。空腹に酒を入れるのはおすすめしねぇ」

 食べていいのか?

 なんだ、おっさんたち、意外と気がきくじゃねぇか。臭いけどな。

 さっそく、並べられたおいしくもない食べ物を口に運び空腹を満たす。勇者になったら、美味しい物食うぞ。こんな底辺のやつらとは違うんだからな、俺は。

 気が付けば、酒も飲み、すっかり酔いも回ってきた。

「俺はねぇ、勇者なの。なのに、あのアイラって女、俺の言うことハナっから信じねぇし」

「あはは、勇者か、そりゃ勇ましいなぁ」

「オイラは信じるよ、お前は勇者だ。アイラ様のことを呼び捨てにするなんて、勇者にちげぇねぇ」

「ぶはははは、確かに、確かにそりゃいえる」

 酔っぱらいが楽しそうにげらげら笑っている。

「本当なんだって、ほら、これ見ろよ、こんなものこっちの世界にゃないだろ」

 ポケットからスマホを取り出して見せる。

「んあー、なんだそりゃ?黒い石か?」

 電源の入っていない黒い画面を見た男が顔を近づけて覗き込む。

「たいそうな鏡だなぁ、よく映る」

「違う、これは、スマホといって」

 電源は切ってある。充電できないから、電池の節約のためだ。この世界に来た時点で、充電は90%以上あったが、あと何日もつか。

「スマホだ?」

 男が手を伸ばしてきたので、慌ててポケットに戻す。下手にいじくられて壊れたら大変だ。

いつもごらんいただきありがとうございます。


……浩史サイド、文章量が倍増なのは、回数減らしたいからよ。あんまり毎日浩史サイドいやでしょ?いつまで続くんだ。あと数話。よろしくね

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― 新着の感想 ―
[一言] 海外旅行で、アメリカや欧州からダニやシラミ、ケジラミ等々を日本に持ち帰っちゃうんですよね。 ほぼ日本では絶滅していたのだけど、海外、特に欧米から、どんどん持ち込まれている日本。 (日本は戦後…
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