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「ふふ、だからね、私の働き口の交渉は必要ないからね?気持ちだけ受け取っておくね」
ハナがにこりと笑う。決して美人ではないけれどふわりと優しい雰囲気で笑顔がチャーミングだ。芯が強くて……とても魅力的な女性。
隣町で幸せになってね。もしあの場所にダーナとマチルダしかいなかったら、私の気持ちはもっとすさんでいたかもしれない。
この世界に来てハナがいてくれたことがどれだけ救いになったのか。何かしてあげたいと思うけれど、余計なお世話なのだろう。
「リョウナはギルドの場所分かる?送ろうか?」
あ、そういえばそうだ。
「ありがとう、街のこと全然知らないから助かる」
「私がギルドまで案内してあげるわよ。あっちの方に用事があるから」
店からミミリアが出てきた。
「え?ミミリアが?」
いつも私のことを憎々しげに憎んでいるミミリアが私のために案内役を買って出てくれることに驚いて思わず声が出た。
ミミリアが、両手を腰に当ててふんっと鼻を鳴らした。
「言いたいこともあるし。ハナ、私がリョウナをきっちりギルドに連れて行くからじゃぁね!隣町でもどこへでも早く行きなさいよ」
ミミリアがしっしと、犬猫を追い払うようにハナに手を向けた。
「リョウナ、じゃぁ、元気でね。しばらくはあそこにいるから」
ハナが小さく手を振って、弾むような足取りで通りを小走りで駆けて行った。
一方、私の足取りは重い。
言いたいことか。ミミリアの話……いい話な訳はないわよねぇ。
「こっちよ、ぼやぼやしないでよ。私も忙しいんだから」
ミミリアがくいっと顎で指図する。
「あ、ミミリアえーっと、言いたいことって?」
ミミリアの隣に並んで歩きだし、覚悟を決めて話かける。
「私、腹が立ってるのよね」
ミミリアがぼそりと口を開く。
ああ、そうですよね。それはよくわかっていますよ。
「あんたみたいなやつ、店長に裏で働かせればって言ったこと」
そうだった。そうそう。ミミリアが店長に掛け合ってくれたんだっけ。まぁなんか騙された気分だったけれど。
「あの時はありがとう。本当に行くところもなくて困っていたから助かった」
ダーナが引き入れた男たち。人を殺すことをなんとも思ってないような人間がうろうろしている街で野宿なんてしてたらと思うとぞっとする。
だから、素直にお礼を言ったんだけれど、ミミリアはチッと忌々しそうに舌打ちを返してきた。
「ああー、もう、腹が立つ。あの時の自分に腹が立つ。なんで、あんたなんかを店に入れてしまったのか」
ミミリアが手で頭を掻きむしった。




