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「私たちとは違うって言いたいのかいっ」
首を横に振る。
「一緒。ただの1人の人間。だけど、少しだけ、皆と違う考え方ができる。そういう環境に育ったから……」
「なんだよ、結局、私らとは違う、いいとこで育った人間だって言いたいのかっ」
マチルダさんが親指の爪を噛み始めた。
そういえば、マチルダさんはこうしてよく自分の爪を噛むことがあり、親指の爪だけボロボロだ。
攻撃的な感情を対象に向けられないときに自分を傷つける習癖異常の一つだと聞いたことがある。
「私の服装、少し違うと思わない?荷物も不思議な物だったでしょ?生まれた場所が違うの。それだけ。それだけなんだよ。私の方が上等な人間だなんて思ってない……でも」
マチルダの後ろに寝ているダーナがピクリと動いたのが見えた。
起きているのかもしれない。話を聞いているのかも。本当に寝ているのかもしれない。分からない。
「違う場所で育ったから、違う考えができる。買い取り価格の交渉をするのも、私が育った土地では需要と供給や市場価格など、いろいろなことが普通で、学びながら育つだけ。逆に、私はマチルダのように干し肉やパンをどこで売っているのかは知らない……これから覚えていかなくちゃいけない」
マチルダが噛んでいた爪を口元から離した。
「じゃ、じゃぁ教えてやるよ、ポーションの買い取り価格の交渉をしてくれた礼だ」
「ありがとうマチルダ。でも、私はここを出て行くの。やりたいことがあるから」
マチルダがさみしそうな顔をする。
態度も口も悪いけど人情が深い人なんだ。初めから気遣ってくれていた。
「はっ、そうだろうよ。リョウナは私らとは違って、いろいろできるだろうよっ」
マチルダの手が、再び口元に伸びようとするのをつかんだ。
「いろいろできるよ。マチルダだって」
「何言ってんだ、いくら借金を返し終わったって、ここを出たって私にできることなんて……」
「私がここを出てやりたいことはね、冒険者のことを勉強しようと思うの。私は冒険者なんて無理だと少しも目を向けるつもりはなかったんだけど。そうじゃないってわかった。ハナが教えてくれた」
ハナを見る。
「冒険者の泊まる宿でポーションが売っているって。ポーション屋以外でもポーションの需要はあるってことでしょう?しかも、今は飛ぶように売れるって。だから、冒険者が立ち寄るような店でポーションも買うことができたら便利じゃないのかなって。それを調べるの」
マチルダが首を傾げた。
「調べてどうするんだい?」
「交渉する。ポーションを作っておきませんかって」
「なんだよ、それ、ポーションを売りに行くってことか?」
首を横に振る。