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「本当に、その、すまん……あー、騒がせた。店長も、脅すような言い方して悪かった」
店長が視線を泳がせる。
「リョウナ、助けてやるなんて偉そうなことは思ってない。ただ、俺は、リョウナのことが心配で……じっとしていられなくて」
ディールがもじもじしている。
「ありがとう。でも、一つお願いしておくね。もし、嘘をついたりだましたり、無理強いしたり、何かひどい目にあわされたら、そのときは助けてね」
暗に、店長やダーナたちにくぎを刺す。
私を騙すなと。嘘をつくなと。
「ああもちろん。どんなことをしても助ける。俺はしばらくギルドの向かいの宿に泊まっているから」
「約束ね。心配してくれてありがとう。パズにもよろしく。またね!」
ひらひらと手を振ると、ディールは名残惜しそうに2,3度振り返りながら出て行った。
ふぅと、店長が詰めていた息を吐きだした。
「なんでだよ」
ぎっとダーナが私を睨み付けた。
「なんで、助けてくれるっていうのに、こっから出してくれるって言うのに、断ったんだよっ!」
怒りに満ちた声。
ぐいっと襟首をつかまれる。
「やめろ、ダーナ。こいつに手を出したらディール様のお怒りを買うっ!彼を怒らせたらどうなるか!」
店長が私の襟首をつかんでいるダーナの肩を揺さぶり止める。
かわいそうな人だ。
「助けてくれる人がいない私たちを馬鹿にしてるのかっ!私たちを笑ってコケにしてるのかよっ!」
「ダーナは助けてもらえないからここにいるの?なぜ、自分の力で助かろうと思わないの?」
ダーナがカッとなって、再び私に手を伸ばしたのを店長が止めた。
「何が分かる。お前に何がっ!」
分からない。
不幸だからって他の人も不幸にしてやろうと思う気持ちも。
誰かが助けてくれるまで何の努力もせずにいることも。
どちらも分からない。いいや、分かりたくない。
結婚する友達に、婚約したのは私の方が早かったのに、なんで先に結婚するんだろうって。素直に祝福の言葉を口にできない自分が嫌いだった。
だけれど、不幸になってしまえとは思わなかった。おめでとうの言葉が苦しかった。だけれど、離婚しちゃえばいいのになんて一度も思ったことはない。
ああ、でも。でも……。
誰かが助けてくれるかもしれないと努力しなかったのは私も同じかもしれない。
浩史の浮気から目を反らし、いつか誰かが私を幸せにしてくれるなんて思って関係を修復する努力も、別れを決意し新しい恋を始める努力もしなかった。
ミミリアがけたたましく声を上げながらドアを開いた。
「次のポーション頂戴!どれだけ作ってもすぐに売れちゃうわ!早くして!……あ!店長!」
ミミリアが店長の姿に気が付いて足を止める。
 




