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「ディール、あなたが強くて力のある人でも……たとえそれが誰かを助けようという思いからだったとしても、力を振りかざして無理にことを進めては駄目」
ディールがびくりとして私の手を放した。
「私は、大丈夫。店長は嘘はついていないし、無理強いもされてない」
……ノルマが達成できなければ借金というのは聞いてなかっただけで、嘘を言われたわけではない。私が細かい条件を尋ねなかったのだから、私のミスだ。
ポーションの回収も、瓶の口までとあらかじめ指示されていた。達成できていなかったのなら私のミス。
それから、今も、ディールが私を望んでいると言った時も2,3日待ってくれと言っていたし、ハナにだって意思が固まるまで待つような感じだった。無理強いはされていない。
「大丈夫だって?だが、噂では……」
ディールがちらりと店長を見る。
店長が身を固くしている。よほどディールのことが怖いんだろうか。
体は大きくて強そうだけれど、悪い人じゃないよ?
「私がこの世界……この街に来て生きていられたのは店長のおかげだわ。この3日、安全に寝るところと食べる物が得られた。そのお金も払わずにここを立ち去れば、私は恩を仇で返す人間になってしまう」
店長がすかさず言葉をつづける。
「そ、そうです、私は慈善事業をしているわけではありません。それに犯罪者でもありません。まっとうに店を経営しているだけです」
チッとマチルダが小さく舌打ちをする。
そうだよね。嘘はついてない、無理強いはしていないとはいえ、無理なノルマを課して借金まみれにして逃げられないようにするのは「まっとう」と言い難い。
でも、お金がなかった私に宿とパンを提供してくれたのは事実だ。
宿に1泊するのにいくらかかるのかパンはいくらなのかは分からないけれど。少なくとも怪しい金もない人間を泊めてくれる宿などどこにもないだろう。
助かったのは事実だ。この3日間生き延びられたのはここのおかげで間違いない。
「か、金なら俺が払う」
ディールがお金を取り出そうとした手を抑える。
「大丈夫。借金は自分で返せます」
ディールがハッとした表情を見せる。
「あ……俺は別にその……」
「分かっています。私が無能で自分で借金を返せないような人間だと見下してお金を出そうとしたわけじゃないですよね。助けてくれようとした。だけれど……私は助けてと頼んでない。いくら助けられる力があって、助けたいと思っても手を貸し過ぎることがその人のためになるとは限らないんです」
転んだ子供にいつも手を貸してばかりではだめっていうよね。立ち上がるまで見守ることも必要だと。




