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「お待ちください、そちらには、お勧めできるような女性はいませんので、どうか表に出ている娘から」
ドタドタという足音が響いてきた。
店長の慌てた声も聞こえる。
皆がびくりと作業を止めて扉に視線を向けると、バタンと乱暴にドアが開かれた。
「あ」
ディールの姿がそこにはあった。
「あの、私、テクニックには自信があるんです」
すかさずダーナがディールの元に駆け寄る。
ディールはダーナには目もくれず私の姿を見つけると、驚きと戸惑いの表情を浮かべる。
すぐに、私の元に近づき、手首をつかんだ。
「お、お待ちください、ディール様、その子はまだ入ったばかりで、何の教育も出来ておりません」
店長が慌ててディールに話かける。その後ろでダーナがチッと大きく舌打ちをして私をにらんだ。
「その娘をご希望ということでしたら、2,3日お待ちいただければ……」
店長の言葉を無視し、ディールが頭を下げた。
「すまん。こんな店だとは知らなかったんだ。知っていれば教えたりしなかった……。普通のポーション屋だと思っていたんだ」
そうか。ディールは知らずに紹介したのか。うん。なんとなくそうかなぁとは思ってたけどさ。
「リョウナ、俺と来てくれ。こんなところには置いておけない」
ディールが店長を睨み付ける。
店長がびくりと体を固くして、ドアの前からどいて道を開けた。
ここから抜け出せる?
固い板の寝床に、1日1個のパンだけの食事。理不尽な扱いをする同僚たち……。
ディールがここから私を助け出してくれる。
ぐっと奥歯をかみしめる。
助けてくれる?
傷を治し街へ連れてきてくれたところまでは、パズを助けたお礼だとしてだ。
今助けてくれるのは何?私には何が返してあげられるの?
これからも、ずっとディールに助けてもらい続けるの?
ディールに見捨てられたら?その先は?
20代……ワンピースを着て、かわいいミュールを履いて街を歩けばよかったって……。
なぜそうしなかったのかと。
浩史に嫌われたくなかったからだ。
浩史が浮気をしているとうすうす知ったけれど、それを問いたださなかったのはなぜ?
嫌われたくなかった……からだ。
「ありがとう、ディールさん。でもね、私に叱られるの好きだって言ったでしょう?」
もし、ディールに助けてもらうのが当たり前になってしまえば、助けてもらうために……。
ディールに嫌われないようにと……また同じことを繰り返してしまいそうだ。
自分を殺す。
自分を殺して相手に合わせる。
もう、自分を殺して生きていくのは嫌だ。




