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ハナは昨日と同じように足で踏んでポーションを作っている。
私はどうしようか。ちょっとダーナにやられっぱなしというのもしゃくではある。そうだ。
日本じゃ、お局様に逆らうようなことはしたことがなかった。
面倒が増えるだけだしと思っていたから。だけど、ここじゃぁ、もう逆らわなくてもすっかり目の敵にされてるし……。今更おとなしくしていてもしかたがなさそうだよねぇ……。
ミキサーは内緒だ。だから今日も足踏み式で作る。およそ50本。できたところで立ち上がる。
「さぁ、チェックしてやるよ、持ってきな」
ダーナがにやにやわらって私を見た。チェックという名の横取り。もう、その手には乗りません。
ダーナのチェックを受ける前に、30本を手の取る。
「ハナ、起こしてくれてありがとう。お礼をしたいけれど私は何も持っていないから……これがせめてものお礼。もらって」
にこりと笑って、ハナにポーションを押し付ける。
ダーナとマチルダが唖然として私を見ている。
それから18本を手に取り、マチルダの元へと行く。
「マチルダ、私は夕飯抜きでお腹がすいているの。これで、夜に仕事に出た時に、パンでもいい、何か買ってきてくれない?」
マチルダが笑い出した。
「くっはははは、分かった。買ってきてやるよ。これだけありゃ、パンにリンゴでもつけてやる」
残りは2本。
「ダーナ、チェックをお願いね。瓶の口までちゃんと入っているし、これは時間をかけて薬研ですりつぶして作ったものだから色もダーナの作ったものと同じはずで、これがチェック通らなかったら、私はゼロってことになってしまうわ。店長はさすがにゼロ本なんておかしいって思うんじゃないかしら?」
ダーナがぐっと唇を噛んで悔しそうな顔を見せる。
「どういうつもりだっ!」
「どうって……だから、昨日、駄目だと言われたものと同じ品質の物は、ダーナの手を煩わせる前に処分しただけだけれど?」
ダーナがぎろりと私をにらんだ。
「それとも、昨日言ったことは嘘だったの?私が作った色の薄いポーションを駄目だと言ったのは」
「うっ……嘘なもんかっ!」
ダーナが私の頬を裏手でパンっとはじいた。
「駄目だと言われると分かっていて、あのやり方でポーションを作るなっ!明日からは許さないからね!」
はいはい。今日は、自分が横取りできると思って許してたけど、横取りできないと分かったから許さなくするのね。
馬鹿よね。
許さないよりも、自分も同じように作れば、ノルマなんて余裕で達成できるだろうに……。
◆
自分が不幸だからって、他の人も不幸にしてやろうって思う人間は、その愚かさに気が付かないんだね。
人を同じように不幸にしようと足を引っ張ることに腐心するより、自分が不幸から抜け出そうと努力したほうがいいのに。
店長がポーションを取りに来る。
「なんだ、今日はハナ25本、マチルダ20本、二人ともノルマ達成か。ダーナ23本、新入りは2本か……3日だけでずいぶん借金が増えてるぞ?もっと頑張れよ」
店長が何も不審がらずにニヤニヤして出て行く。借金が増えることを望んでいるくせに。頑張れなんて思ってないくせに。
夜になった。
ダーナとマチルダは今日も仕事だと言って出て行く。それからしばらくしてハナも同じように籠を持って出て行った。
寝たふりをして3人が出て行くのを待ち、むくりと起き上がって今日もミキサーでせっせとポーションを作る。
疲れたらポーションを飲んで回復してまた作る。弓のような形の紐を棒に巻いて火おこしに使う弓切式火おこしを改良した手動ミキサー。
ずいぶん使い慣れてきたけど、私、火を起こすのも上手にできるんじゃない?この世界の火って、どうやってるのかな?
魔法でパッとつけられるんだろうか?ここにいるだけじゃさっぱりこの世界のことが分からない。明日は作業しながらハナに話しかけてみようか。
ダーナとマチルダはしょっちゅう言い争いをしているから、その横で静かに会話することくらいはできるんじゃないかな?




