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うひゃっ。馴れないスキンシップ。
細く見えるけれど、しっかりと男の人の体だ。170センチくらいとディールさんとかに比べれば小柄だけど、それでもやっぱり女の子とは違う。
「僕、リョウナのポーション飲むと元気になれるんだ。えへへ、今1本飲んでいい?」
体を離すと月の精がニコニコと笑っている。うん、まるっきり意識してないよね。そりゃそうだよ。
月の精がポーションを1本飲み干した。すると、前と同じように発光し、光の筋が月へと伸びた。
すごいなぁ。魔法なのかな。
「うわぁ、まただ。ごめん、もう行かなくちゃ。ディールに怒られちゃう」
光り出したとたんに月の精が慌てだした。
ディールに怒られる?やっぱり知り合いなんだね。
「リョウナともっと話がしたかったのに……また来るね」
ばいばいと手を振って月の精が消えた。
ありゃ、今日はポーションを買いに来ただけ?忙しいのかな?パズ君元気か教えてもらえばよかったな。パズ君によろしくねっていえばよかったかな。
残されたのは私の手のひらに銀貨が1枚。
銅貨100枚で銀貨1枚なのか。仮に銅貨1枚が100円ならば100枚で1万円。100枚単位でコインのくらいが上がるなら銀貨100枚で金貨。金貨1枚100万円か。ハナの借金は金貨3枚なら300万円……。月収平均2万の世界と20万の世界じゃ300万円の価値も全然変わるしなぁ。結局お金に関しては全然分からないな。
といはいいつつ、もらった銀貨はリュックの中の財布にしまう。……100円玉と見た目はそんなに変わらない。1万の価値があるように思えないね。
足音が聞こえたので、板の上に転がり布をかぶって寝たふりをする。リュックは枕にはせずに、抱きかかえるようにして体を丸めて寝ころぶ。
……最悪、月の精がまた来ると言っていたので、盗られたら取り返してもらえるかな。不思議な力で。
お礼はポーションしか出せないけど……。
ああ、お腹がすいた。こちらの世界のお金が手に入ったんだから……。何か買って食べたい……。
「起きて、朝よ」
「ああ、ハナ。おはよう。起こしてくれてありがとう」
昨日と同じようにパンを受け取り、半分にして食べる。
それから、また横になった。
「サボるつもりかい?」
ダーナが寝転ぶ私の脇に立った。
「借金が増えるけれど、いいのかい?随分骨のない女だねぇ。そんなんだから冒険者としても成功しなかったんじゃないのかい?」
あははははははっと、馬鹿にしたような言葉を吐き捨て、大笑いしながらダーナがいつものように薬研を手にとった。
骨が無いね……か。
馬鹿にすればいいわ。
どうせ何本作ろうと難癖つけられてノルマに足りないと言うんでしょう?横取りされるくらいなら、はじめから作らない方がマシじゃない?
「サボってノルマが達成できなきゃペナルティがついて借金が増えるだけだ、さっさと働きな」
軽くマチルダにわき腹を蹴られる。
言葉は悪いし乱暴だが、内容は私のことを気遣っている。ペナルティがあるのか。
「余計なことを言うんじゃないよっ!」
ダーナがイラッとして、近くにあった器をマチルダに向けて投げつけた。
「うるさいね!こいつがたくさん作れば店長だって機嫌がよくなるから悪いことじゃないだろっ、お前だってこいつの作ったものをかすめ取れてラッキーじゃないのか」
マチルダもまけずに器を投げ返した。
また、二人で争いが始まる。
あーあ。もうちょっと寝ていたいんだけどなぁ。しかたない。こんなやかましい中寝ていられない。




