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それを器の中に入れてぐるぐると高速回転させる。中身が飛び出さないように蓋も必要だ。どうやって刃を高速回転させるの?
両手で棒を挟んでぐるぐると……火を起こすみたいに……。
「あ」
やってみようかな。
作業場を眺める。
ミキサーの材料になりそうな縦長の器。丸くて増しやすそうな長い棒。それから、折れた包丁だかナイフだかがあった。歯がガタガタだ。
ガタガタしているところが逆にミキサーの刃みたい。
叩いて形を反らせてしっかり木の棒の先に括り付ける。
器の蓋には、棒を通す穴が必要。でも、そんな都合のいい形のものなど……って、あった!そもそも器の蓋の中央、取っ手が取り付けられててそれを外すと真ん中に穴!
あとは、棒を回す動力。
成功するといいなぁ。
午後はずっとミキサーづくりに没頭して、1本もポーションは作らなかった。
「今日の分の回収だ」
昨日と同じような時間になり、店長が姿を現す。
「ハナは21、またノルマに足りないな。そろそろあっちで働いてもらわないとなぁ。うちも慈善事業じゃないんだよ」
ハナ……私の真似しちゃったからなぁ。駄目だったんだよね。ごめんね。午後からでも頑張って作ったんだね。
「マチルダ、24本。ノルマプラス4本だな。新入りは、なんだ、2本しかないのか?ああ、指導したんだな」
ニヤリと店長が笑った。
「で、ダーナは54本、こりゃまた今日はずいぶん頑張ったな」
え?
54本?
昨日はノルマが達成できないとマチルダと喧嘩して……急にそんなに本数が増えるものなの?
ダーナが私を見てニッと笑う。
私が作って、却下した物を数に入れたんだ。……。ぐっと手を握りしめる。
もし、本当にポーションとして駄目なものなら、昨日の苦情を店長は言うはず。来たときに苦情を言わなかったということは、あれでもよかったってことだ。
盗られた。
ぐっと奥歯をかみしめる。よくあることだ。日本でも。部下の成功を横取りする上司なんて。今、苦情を言っても、また証拠がないと言われるだけだ。マチルダがダーナの味方をするだろうし、言ったって無駄。
店長が帰ると、ダーナとマチルダは昨日と同じように仕事だと出ていった。
すっかり日は落ちて暗くなっているけれど、月が3つもあって明るい。
ミキサーの作業を続ける。
しばらくして、寝ていたハナが起きた。
「あ……。えーっと、ちょっと出かけてきます」
ハナは、自分の寝床に置いてあった荷物から籠を一つ持って、ドアを開いて出て行った。
あれ?ドアには鍵がかかっていたんじゃないのかな?こんな夜中に、何しにどこへ行くんだろうか。昨日もいなかった。
でも、まぁちょうどいい。誰にも見られない方がいい。
出来上がったミキサーもどきに薬葉を入れる。
ふたをしめ、蓋の上に出ている棒に紐を巻き付ける。
弓切式火おこし。そう、火を起こすときに棒を高速回転させるあの仕組み。弓のようになったものの紐を棒に巻き付け、それを動かして棒を回すのだ。
1分ほど棒を回す。刃がついているため、はじめは不安定でうまく回せなかったけれど、次第にコツをつかむ。
ふたを開けて中を見ると。
「うわー、失敗か……」
全然葉っぱは葉っぱのままだ。
半日かけてせっかく作ったのになぁ……。とうなだれたところで、はっと思い出す。
「そういえばミキサーって少し水をいれないと駄目な食材もあったよね」
器の中に、自分用にと取っておいたポーションを1本入れる。これなら水で薄まるわけじゃないから大丈夫だよね。
さ、もう一度。
ぐるぐるぐるっ。
ぎゅっぎゅっぎゅと弓を動かし棒を回す。さっきよりも抵抗感が強い。
1分ほど回したところで、もう一度ミキサーもどきの中を覗き込む。
「あ、かなりできてる」
全く駄目だった前回とは違い、葉っぱの形が無くなっていた。
もう少し続ければ青汁になりそうだ。
全部で3分ほどだろうか。
瓶に4本分のポーションが出来上がる。水分として1本分使っているから、3分で3本できたことになる。
「よし。これならば」
葉っぱを入れてぐーるぐる。
瓶に移し替えて、また葉っぱを入れて、ぐーるぐる。
さすがに腕が疲れてもげそうになって休憩。




