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後編

本編モード入ります。

 焼き菓子専門店『マカ』の前にて。

 奏介はドアを開けてそっと中へ入った。店内に客は一人。レジの前のナナカの手を止めて、話をしているようだ。

「あ、いらっしゃいませー」

 ナナカが奏介に気づいて声をかけてくる。とは言え、男性客との会話を中断しての声かけは営業上だろう。

「でさぁ、ナナカちゃんさえよければ今度飲みに行こうよ」

 客は大柄な若い男性だった。軽薄な印象が強い。

「え、あぁ、でもわたしはあんまりお酒が強くなくて」

「大丈夫大丈夫。集まって楽しく話そうっていうプチ合コン企画だから。考えといて。じゃ」

 奏介がお菓子の並ぶ棚を見ている振りをていると、彼は手を振って店を出て行った。

「はぁ」

 見た通り、胸元に手をおいて安堵したように息を吐き出すナナカ。

「飲み会のお誘いですか?」

「うん、まぁ」

 何故か乗らない様子のナナカである。

「それより、菅谷君来てくれたんだ」

「予定もなかったので」

 今日の昼間にナナカから連絡をもらったのだ。新作の焼き菓子の味見をしないか、と。

「ありがと。もうちょっとでお店閉めるから待っててね」



 閉店後。

 奏介はナナカの住居スペースに上がり込んでいた。

 出されたのは紅茶と山盛りの焼き菓子である。マドレーヌにフィナンシェ、クッキーなどなど。

すべて新作らしい。ちなみに抹茶味なのですべてグリーンだ。

「抹茶味がしっくりくるものを教えてほしいな」

「味見……にしては多いので食べきれないですよ、さすがに」

「あはは。そうだよね。切ろっか」

 ナナカはそれぞれのお菓子を一口サイズに切って、改めて出してくれた。

「はい、どうぞ」

「いただきます」

 奏介は渡されたフォークでまずはマドレーヌに手を伸ばす。

 どれも、かなり甘さが控えめだった。代わりにバターの風味が少し強い。

「どう、かな」

「なんか、糖分カットとかそういうお菓子なんですか?」

「分かる? 甘いものが苦手な人のためのお菓子なの。わかばは甘さが足りないって言ってたけど、男の子的にはどう?」

「そう、ですね。俺は好きですよ。口の中に甘さが残らないですし」

 ナナカは嬉しそうに両手を合わせた。

「そう。やっぱり菅谷君に聞いてよかった。こういう意見はちゃんと当人に聞かないと分からないものね。ありがと」

 笑顔を向けられ、赤面しそうになった奏介は微妙に視線をそらした。

「ああ、いや、俺別に甘いものが嫌いとか苦手ではないので他にも聞いた方が良いと思いますよ」

「それもそうね」

 ナナカは頷いて少し考え、何故か表情を曇らせた。

「野竹さん?」

「甘いものが嫌いな知り合いが一人いるんだけど、ちょっと苦手なのよね」

 苦笑を浮かべるナナカである。

「苦手、ですか」

「うん。ほら、さっきお店に来てたでしょ?」

「ああ、あの男性の方ですか。このお店に来てるのに苦手なんですか?」

「甘いもの好きな彼女へのプレゼントを探してたみたい。先週、ホワイトデーだったでしょ?」

「そういうことですか」

「大学の頃の知り合いで最近になってたまたまうちのお店に来てね。それで話すようになったんだけど、しつこく飲み会に誘ってくるの」

 ナナカは憂鬱そうに息をつく。

「飲み会ですか」

「行ったことないのよね。お酒も飲めないし。それはそれとして、意見はほしいわ」

 お菓子作りに妥協はないとでも言いたげだ。

「頼むだけ頼んでみたらどうですか?」

 ナナカは少し考えて、

「そうね。そうしてみるわ」

 



 数日後。

 ナナカはおしゃれなイタリアン居酒屋の前にいた。

「結局丸め込まれたわ……」

 お菓子の試食をする代わりに、飲み会への参加。つまりは交換条件だ。

「でも、良い意見は聞けたし、よしとしなきゃ」

 中へと入ると、男女七、八人が座るテーブルへと案内される。

「お、きたきた、ナナカちゃーん」

 誘ってきた男性、鈴木が手を振る。

 それに反応し、派手目の格好をしたメンバーが一斉にこちらを向いた。

(ひっ……)

 ピアスをしていたり、ゴツい指輪をしていたり、刺繍入りのジャンパーにダメージジーンズなどファッションセンスもナナカの感覚とかけ離れていた。

「うえ、可愛い」

「清楚系じゃん」

 男性達の声に肩を縮こませる。

「は、初めまして。野竹です」

 頭を下げた。

 今から彼らと席を共にするかと思うと、気が重い。

 男性メンバーは柔和な態度だが、女性メンバーはこちらを見もしない。あまりよく思われてないのは確かだ。

「ナナカちゃん何飲む? カクテル結構多いよ」

「え、あ……えっとコーラ、でお願いします」

 お酒は飲まないし、コーラも好きではないが、出来るだけ飲み会のノリに合わせようとした結果だ。

「いや、ソフトドリンク?」

 メニューを見ていた男性は苦笑気味。女性達も呆れ顔だった。

 助けを求めようと鈴木の方へ視線を向けると、隣の女性と楽しそうに会話をしていた。

「まぁ、いいっか。お前らは?」

「カクテル何があんの?」

「あたし、甘いやつかなぁ」

 そんな会話が始まり、ナナカは小さく息を吐いた。



 飲み会も盛り上がり、出来上がったメンバー達の楽しそうな様子にナナカはため息を吐くしかなかった。先に帰ろうかとも思ったが、出るときに全員で支払いをするらしいので、それまで待たなくては行けないらしい。

 トイレに行くと言って出てきたナナカはそっと店の外へ出た。

 夜風が冷たいが、戻る気になれない。

「野竹さん?」

「!」

 はっとして振り返ると、奏介が不思議そうな顔で立っていた。

「え、あれ。菅谷君? なんで」

「バイト先がこの近くなんですよ。どうしたんですか? 今日飲み会に行くって」

「うん、このお店でやってるんだけどね」

 ナナカの様子に奏介は何かを察したようだ。

「なるほど。出てきたなら一緒に帰りますか? 家まで送りますよ」

 奏介に言われ、ナナカはポカンとする。

「でも、参加費」

「少し多めに置いて来ちゃえば大丈夫ですよ。多いぶんには文句言われないですから」

「あ、そっか。……うん、そうしようかな」

 ナナカが安心したように笑んだ時、店から女性客二人が出てきた。

「あ、いた。ねぇ、野竹サンだっけ? 飲み会の参加費払わずに帰るの?」

「ちょっと非常識じゃない?」

 口々に言われ、

「す、すみません。参加費、置いて帰りますね」

 ナナカが慌てて言うと、

「あたし、智徳(とものり)の彼女なんだよね」

「鈴木君の?」

「智徳をたぶらかすの、やめてくれない? 酒飲まないくせにわざわざこんなところまで来てさ、注文コーラとか、皆引いてたじゃん」

「え、え、わたしは鈴木君に誘われて、お酒を飲まなくても良いからって」

「あーはいはい。智徳と仲が良いアピールね。ねぇ、調子に乗ってるとあんたの店潰すよ?」

「え」

「智徳が嬉しそうに言ってたの。経営してるんだって? どうせその関係でアプローチしてるんでしょ、クソ女」

「……!」

 ナナカは目を見開いて、一歩後退した。強い悪意を向けられ、体が震える。以前のネット中傷の時のことが思い出される。

「あのー」

 と、奏介が挙手をしていた。

「は? 誰」

「初めまして、野竹さんの知り合いでここでたまたまあったんです。ところでお姉さん、なんで野竹さんに文句言ってるんですか?」

 奏介に笑顔で問われ、眉を寄せる鈴木彼女。

「なんでって、この女がたぶらかしたから」

「たぶらかしたから野竹さんに文句言うんですか? その前に彼氏の鈴木さんに文句言った方が良いと思いますよ? 『あのクソ女に騙されてるから二度と関わるな』って。言ったんですか?」

「い、言ってないけど、でもこいつが智徳を」

「だから、そう思うなら本人に言いましょうよ。ていうか、なんであなたと野竹さんで話してるんです? 当人を呼ばないと話し合いにならないでしょ。よくいますよね。好きな男と仲がいい女子に嫌がらせをするやつ。下らないこと言ってないで、さっさと鈴木さん呼んできて下さい」

 奏介が居酒屋を指すと、彼女達はたじろいだ。

 奏介はため息を一つ。

「出来ないならこれで終わりです。彼氏に言っといて下さいよ。二度とクソ女の店に行くなって。彼がまた店に来たらあなたに苦情入れますからね?」

 彼女達は逃げるように店へ入って行った。

「菅谷君……」

「とりあえず、参加費払ってきて、帰りましょうか」

 ナナカは苦笑を浮かべる。

「うん、そうね」



 帰り道。

 二人は並んで歩いていた。

「今日はありがと。やっぱり菅谷君は凄いね」

 笑いかけられ、奏介は視線をはずす。

「そんなことないですよ。野竹さんがバカにされてたから頭に来ただけで」

「ふふ、そうなんだ。ちょっと嬉しいな。あ、そうだ」

 ナナカはそう言って空を見上げた。

「菅谷君はわたしの彼氏で、彼氏一筋だから、鈴木君のことは眼中にありませんって言えばよかったかな?」

「いや、あの」

「ごめんごめん、冗談。わたしなんかじゃ嫌だよね。菅谷君、モテるものね」

 奏介は拳を握りしめた。

「冗談に、したくないですね」

「ん?」

「俺は、初めて会った時から、野竹さんのこと、気になってました」

「え、それって」

「あ、でも」

 奏介は苦笑を浮かべる。

「野竹さんこそ、俺じゃ嫌だと思うので。……だから、冗談でも彼氏だなんて言ってくれて嬉しかったです。ネット中傷の時も今回も、野竹さんの役に立てたなら、俺は良かったと思いますよ」

 予想通り、ナナカはぽかんとしていた。告白をしたが、良いように言い訳をして逃げた。自分から告白するなど、良い思い出がない。

 ナナカが立ち止まったが、奏介はそのまま足を止めない。

 きっと引かれたに違いない。せめて最後は笑顔で関係が良好のまま終わらせたい。

「待って」

 手を捕まれた。

「!」

 慌てて振り返る。

「菅谷君、わたしのこと、そんな風に思ってくれてたの?」

 真剣な表情だった。

「え、あ、はい」

「そう。ううん、嫌じゃないし、嬉しいよ」

 奏介は暗い顔をした。なんだか、告白詐欺をされたときの相手の態度に似ているような錯覚がしたのだ。

 もしかすると、彼女はからかおうとしているのかも知れない。そう思うと少し怖かった。

「……じゃあ帰りますか。この話は終わりで」

「まだ話終わってないよ。……ネット中傷の時、凄く辛くて周りが敵だらけでね。状況が良くなることなんて絶対にないって諦めてたの。それなのに菅谷君は、あっという間に解決してくれたよね」

「運が良かったんですよ。だってあれは橋間や針ヶ谷が」

「あの時、わたしは菅谷君を好きになっちゃったよ」

「…………は!?」

 顔を見ると、にっこりと笑っていた。

「颯爽と助けにきた男の子のこと、嫌いになるわけないでしょ?」

 ナナカは後ろ手で手を組んだ。

「わかばも、幼馴染みの詩音ちゃんもいるし、菅谷君は高嶺の花だったんだけど……わたしを、彼女にしてくれるの?」

 奏介は目を瞬かせる。

「え、でも。……い、良いんですか?」

「うん」

 ナナカは奏介の手をギュッと握り締めた。

「いいよ。ところで、奏介君はなんて呼んでくれるの?」

「ナナカ、さん」

 奏介は自然とそう呼んでいた。

いやぁ、上手く書けなかったです。申し訳ない。

一応完結にしましたが、ネタが見つかったら連載中に戻して新しい話を上げるかもです。未定!!


リクエストありがとうございました!

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[一言] 奏介の相手はナナカが一番良いと思ってました 過去の因縁ないし好みドストライクだしで
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