第1話 始まりの音 【施印】
「はあああぁぁ...。」あまりにも長い待ち時間に、緊張感が抜けた俺は大きくため息をつく。
「おいっ、作戦会議の途中だぞ!...集中しろっ。」
俺の体をゆすりながらルークは言う。昔からの腐れ縁その1である。
「でもよお、会議っつっても今回の戦闘の意義とかどうでもいいし。..偉そうに語ってるけど、結局東方に領土を拡大したいってだけだろうしな。」
--「ほんとそうだよねぇ」、とヘンリー。なんとなくわかるだろうが、腐れ縁その2、太っているほうである。
「軍隊に入ったらさあ、女の子にモテモテであっという間に偉くなってって感じで想像してたのになあ...。いまだに下っ端だよ。」
「バカ、俺らには大前提として大活躍できるような能力はねえっての。だからあの時あれほど.....」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ 2か月前 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「やーだーよー。僕は絶対に王国軍に入るんだーい!」
そうごねるのは、言わずもがな、ヘンリーである。
俺はというと、提出まであと一週間も猶予がある志願用紙を、王都まで出しに行こうとする100キロの巨体に引きずられていた。
「ったく、止まれヘンリー、お前は俺と一緒にここで農家をやるんだ。お前が昔っから下心丸出しの夢を持っていたのは知ってたが、それは昨日ついえたはずだろう?」
そう、昨日は俺たちの住む小さな村、アルデアに王都から祭司様がいらっしゃり、15歳を迎えた子供改め大人たちに【施印】という特別なスキルでステータスを開示し、神様からの一生に一つだけの【神展スキル】を授与してくださった。
つまりは俺のように醜態をさらすほどの非力だったり、こいつのように太っていたりして、攻撃や敏捷などの基礎ステータスが絶望的でも、スキルによっては大化けするって可能性もあったわけだが...。
「..何ならお前のステータスをもっかい教えてやろうか?!」
「や、やめろおおおおおおおおっっっ」
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ヘンリー・ジェフリー 15歳 男
種族:人 攻撃力:36
状態:通常 防御力:52
Lv. 3 魔法攻撃:8
HP:120/120 敏捷性:14
MP:10/10 知力:19
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スキル
農業Ⅱ
料理Ⅰ
防御力UP+(神展スキル)
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「ちなみに俺のこうだ!」
そういうと俺は心の中で「ステータスオープン」と念じ、自分のステータスバーを開く。ヘンリーのは昨日のメモだったが、一度【施印】を受ければ自分で念じれば出せるようになるのだ。
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セシル・ハルガダナ 15歳 男
種族:人 攻撃力:24
状態:通常 防御力:11
Lv. 2 魔法攻撃:42
HP:63/70 敏捷性:44
MP:100/100 知力:61
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スキル
農業Ⅲ
集中(神展スキル)
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「これでわかったろ、今回分かったのは、お前の脂肪が厚いってことと、俺が集中力高いってことだけだ。これじゃあ、軍隊に入ったところで...。」
「何をしている?」と、ここで道の前から声をかけられる。
「ルークか!?ちょうどよかった、こいつを止めるのを手伝ってくれ。」
「ったく、お前らは、この大事な時期に何をやっているんだか...。すまんなヘンリー少し眠ってもらうぞ。」
そういうと落ちていた長めの棒を拾って、自慢の剣術を披露する。
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「いや、助かったよ。それにしても、また腕を上げたな!もしかして、王都に行くとか?」
冷やかしたつもりだったが、ルークの目は本気に見えた。
「おま..、まさか?!」
「あ!3人とも、こんなところにいたんだ~!」
横にあった小道から、小走りでこちらに向かってくる女の子も昔からのなじみだ。
「お、おう、リヴィ。どうかしたか?」
...正直俺は彼女にはあまり会いたくなかった。
「実はね、今日、お父さんから大根の種をもらっちゃったの!この時期に育てるなら最初はこれを育ててみなさいって!」
...というのもその理由は彼女のステータスにある。並はずれた基本ステータスに加え、神展スキル【聖なる剣】を持つ者としては、10年に一度の逸材らしい。
「それでね、アーサーおじちゃんが土地の一部を貸してくれるんだって!」
...しかし本人は、昔俺たちが話していた二人で畑を作るという夢を理由に、王都行きを頑なに拒んでいるらしく、父親も説得したらしい。
「...なあ、リヴィ」
「そうだ、二人も一緒に、四人でやろうよ!」
「聞いてくれ!!」俺が大声を出すと、彼女は何かを悟ったかのような顔をした。
「...畑の話なんだが..、ヘンリーと二人でやることにしたんだ。」
そういうと彼女は力のない声で「えっ..?」と漏らした。
「なんで??私は?一緒に野菜育てようって、とっても楽しみにしてたんだよ???---どうして...?」
彼女はただただ立ち尽くし、目からは涙がこぼれ出ている。
「その...、お前の力は国のために必要...だろ?」
「セシルは私より、国のほうが大事なのね!!?そうだったのね..。分かったよ。ごめんね、最後まで迷惑かけて...。」
「...。」
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「よかったのか?、あのまま行かせちまって..。」
「ああ..これが最善手だろう。」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ 現在 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「なんて言ってたくせにな」
ルークが皮肉を言う。
そう、結局心配になって王都にきたわけだ。
「まあ、俺はもともとそのつもりだったが。」
「僕も、理想通りじゃないけど、なんだかんだ今の生活楽しいよ。」
「しかし、いくらリヴィエルがレベルの高い部隊にいるとはいえ、2か月たって見かけすらしないとはな。」
確かにそうだ、避けられて---
..その時、目の前の通りをリヴィが通る。
「おっと、噂をすれば」
ヘンリーが油で汚れた手で指をさす。こいつ、またなんか食ってやがるな。
「リヴィ!」
そう声をかけて近寄ろうとするが、そばにいた男に突き飛ばされる。
「あなたたち何者?---はん、3等兵..新兵ね。
いい?同じ新兵でもリヴィエルは、すでに数々の任務をこなし、一等兵として、名誉ある私たち第2部隊、第1班の一員なの。気安く呼び捨てとはどういうことかしら?場合によっては処罰の対象にもなるわよ。」
そういうと、どうする?と聞くように、女はリヴィのほうを向いた。
「リヴィ、何とか言ってやってくれよ。この男に放すようにってさあ。」
これが兵士って奴だろうか、拘束が硬くて全然外れない。
「マーシャ、落ち着いて。モージスさん、その人を解放してあげてください。」
そういうと俺の幼馴染はゆっくりと、地面に突っ伏している俺の方へゆっくりと歩み寄る。
しかし、彼女が俺たちにかけた言葉は、決して俺たちが望んでいたものではなかった。
「王国軍の上下関係、その規律も理解していないような田舎者が、何をしに来たの?」
うつ伏せになった俺の頭を上から踏みながら問う。
「な!?おい、そりゃないんじゃないか?セシルだって..」
ルークの言葉を遮るように彼女は続ける。
「あなたたちは何もわかってない。私を心配してきたというのなら、いい迷惑。ハルガダナさん、あなたは正しかったわ、やっぱり私の居場所はここだった。あなたたちはとっとと帰って、地味な畑作業でもしていなさい。」
「あはは、リヴィ、それ最高--。」
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そういって彼らは去っていった。
...この2か月で何があったのかわからないが、彼女と俺たちの間には、大きな隔たりができてしまっていた。
ーーーーーーーここから読み飛ばし可ーーーーーーー
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