16 私だけを
「距離近すぎ! 雫姉にセクハラ働きすぎ! マイナス100点!」
「でも雫姉の気持ちをちゃんと考えていることはわかった! 悔しいけどプラス100点!」
「あとはなんやかんや」
「総合して」
「「とりあえず0点!」」
結局0点かよ!
という俺のツッコミも虚しく、双子は俺にキシャー! と荒ぶる猫のように飛びかかってきた。
そしてコイツら、さっきまでの俺と雨宮さんのやり取りを盗み聞きしていたな!?
「あんたが雫姉を変えてみせるっていうなら! 応援してやらないでもないけど!」
「思っていた以上にいい感じなのが腹立つのー! このこの、このモヤシ野郎!」
「うわ、リコーダーをピーピー耳元で鳴らすの止めろ! 不快だ! おい、その赤いシートを頬っぺたにくっつけるな! こっちも不快だ! あと俺は別にもやしじゃねえ!」
女装に適したしなやかな体型と言ってくれ!
双子にもみくちゃにされながら、俺は地味な嫌がらせを受け続ける。
そんな俺たちを見て、雨宮さんは「いつの間にか仲良くなったんだね、よかった」と胸を撫で下ろしているようだった。
どこからどう見ても仲良くはないが。
うん、ちょっと天然な雨宮さんも可愛いからオーケー!
「デレデレするなー!」
「するなー!」
「うわ、やめろって」
それからしばらく双子たちと格闘して、解放される頃には俺はヨレヨレだった。
ひどい目にあったぜ……。
「澪ちゃんと霞ちゃんが、晴間くんに懐いてくれてよかった。あのふたり、すごい警戒心強いからなかなか初対面の人には懐かないんだけど、さすが晴間くんだね」
「警戒心強いのはわかるけど……」
あれは懐かれたのか?
今、俺はそろそろいい加減お暇しようかと、雨宮さんに見送られる形で玄関に立っている。
弟くんの服はこのまま借りて、後日洗って返すことにした。濡れた俺の服は、ビニール袋に入れてちゃんと右手に携えている。
上がり框に立つ雨宮さんは、どこか吹っ切れたような表情で俺を見つめている。
「あ、あのね、晴間くん。私ね、頑張るから」
「おう」
「変わりたいって言葉、明日から……ううん、今この瞬間から、ちゃんと実行する! いつか晴間くんと、お、恐れ多いけど、hikariさんとも並べる『可愛い』人になってみせるから!」
もうすでにhikariを超えているんだけどなあ……と、hikari本人としては思うのだが、余計なことは言わず「雨宮さんなら余裕だ!」とグーサインを出しておく。
「だ、だからね」
「ん?」
ちょいちょいと雨宮さんに手招きされ、俺は玄関の戸口にかけていた手を離し、反射的に近付いた。雨宮さんは内緒話でもするように、俺の耳元でこそっと囁く。
「それまで晴間くんは――私だけを、見ていてください」
頬に雨宮さんの髪が触れてこそばゆい。
ああ、本当に雨宮さんは可愛いなあ。
それまでもその先も、俺はずっと雨宮さんしか見えていないのに。
「ご、ごめんね! じゃ、じゃあ、気をつけて帰ってね」
「お、おう」
ぎこちなく体を離し、俺は今度こそ戸を開けた。
しかしそこで次は、雨宮さんの後ろから双子がバタバタと慌ただしく駆けてくる。
「なになに、もうアイツ帰っちゃうの?」
「まだ零にも霰にも会わせていないのに?」
双子は雨宮さんの後ろにサッと隠れて、右から澪ちゃん、左から霞ちゃんが、こちらを窺うように顔だけ出している。
「で、今度はいつ来るわけ? ……ハレ兄」
「まだ合格点を取ってないんだから、取りに来なよね、ハレ兄」
……驚いた。
俺はマジのマジで懐かれたらしい。
「まあ……また機会があればお邪魔させてもらうよ」
「さっさと来てよ! 私たちより厳しい零の審査が待っているんだから!」
「ハレ兄じゃ絶対クリアできないだろうけど、私たちがちょっとは応援してあげてもいいかもなんだからね!」
「わかった、わかった」
素直ではない双子の言葉に苦笑しながら、ふふっと微笑ましそうに笑っている雨宮さんに手を振って、俺は雨宮さんハウスを後にしたのだった。
次で2章ラスト、あとオマケに雷架視点あります!





