16.5 雨宮さんの迷走②
まさかの問いかけに素っ頓狂な声を挙げてしまう。
モデルって、hikariさんと同じように、ブランドの顔としてお洋服を着て写真を撮られてサイトに載って……ってことだよね?
私は「無理無理無理、無理です!」と首を激しく横に振る。
私がモデルなんて身の程知らずもいいところだよ!
「まあ、今はそう言うだろうけどさ。雫ちゃんならイケると思うんだよね、hikariの相方役も」
「hikariさんの相方……?」
「うちの社長、つまり光輝くんの従姉妹のお姉さんね。彼女がさ、hikariとセットで活動する新しいモデルの子を、前からずっと探しているの。だけどお眼鏡に叶う子がなかなかいなくて困っていて」
それは難しいだろうなと、私も思う。
だってhikariさんに並ぶくらい可愛くなくちゃいけないんだよ? そんなの難題すぎる。
「もし雫ちゃんがその気になったら、光輝くんに申し出るでもいいし、私に連絡するでもいいし、ぜひ教えて欲しいな! 今はまだ社長には秘密だけど、そのときは私からも推薦するから。これ、私の名刺。一応渡しておくね」
車が赤信号で止まったときに、ココロさんはどこからともなく名刺を取り出して、サッと私に差し出した。
会社支給の名刺ではなく個人用のようで、真っ赤なカードに星やドクロマークが散っている。
そして、人生初の名刺をおずおず受け取る私に、ココロさんは楽しそうに言ったのだ。
「あの光輝くんがさ、女の子にあそこまで『可愛い』って連呼するの、私は初めて聞いたよ。仕事柄、他のモデルさんとだって会う機会はあるんだけど、光輝くんは『でも俺が一番可愛い』が定型文だったから。だから雫ちゃんは、もっと自信持てばいいよ」
※
「自信かあ……」
安物ベッドに転がって、ココロさんの名刺を電球の明かりに透かす。
ああ言ってくれたココロさんには申し訳ないけど、私にモデルなんて100万年早いって思う。
hikariさんの……晴間くんの隣に立てることには、夢見ちゃうけど。
「……そうだ、晴間くんに今日のお礼のメッセージを送らないと」
何度もお礼を言うのも鬱陶しいかなと悩むけど、何度言っても言い足りないし……『メッセージのやり取りは勇気を持って小まめにするべし!』って、hikariさんが表紙を飾った雑誌の、なにかの特集ページにも書いてあった気がする。
なんの特集だったかな?
「前に送った文面は固すぎたから、もっと気軽な感じで……ま、また遊びに行きたいとか、書いちゃっても大丈夫かなっ? 厚かましくないようにさりげなく……あ、あれ、変換がおかしく……!」
固すぎる文を書き換えたり、私の願望のくだりを消したりまた書いたりを繰り返していたら、手が滑って気付けば誤字だらけの酷い文が生まれていた。
慌てて修正していこうとしたのに、誤ってそのまま送信ボタンを押してしまう。
「ああっ!」
私のバカ!
急いで『ごめんなさい! 誤字です!』『正しく送りたかったのはこちらです!』と謝罪して、今度こそ打ち直した訂正文を送る。
その訂正文にも送ったあとに誤字が発覚して、なんかもう土に埋まりたくなったけど、晴間くんはあえてスルーして返信をくれた。
『俺も楽しかったよ。またぜひ行こう』
……晴間くんは、やっぱり優しい。
そうしみじみと感じると同時に、ココロさんに遮られて言えなかったことを、いま聞かれなくてよかったと安堵する。
私自身でもわからないことなんて、答えようがない。
あのとき私は本当に、なんと言おうとしたのかな?
悶々と考える。
明日は学校があるのに。
どうも今夜はなかなか眠れそうにないよ。





