35 雨宮さんの涙
大変お待たせ致しました……!
こちらの連載も再開させて頂きます!
プロモーションタイムは十分程度ながら、まさに大成功な出来で終了。
しかし俺は、驚天動地な光景をステージから目にしてしまい、それどころではなかった。
何故か、本当に何故か……。
hikariである俺の姿を見上げながら、観客席にいる雨宮さんが泣いていたんだ。
一大事である。
絶えない歓声を背にステージから下りた俺は、浴衣をたくし上げてすぐさま猛ダッシュしようとして、まだhayateモードの会長にすかさず止められた。
「こらこら、着替えもせずどこに行くんだい?」
「雨宮さんのところですよ! 何事かわかりませんが泣いていたんです!」
ここは舞台裏でスタッフさんたちもいるため、俺の方は小声で素だ。あんな雨宮さんを目撃したら素になるしかない。
「泣いていた……って、ステージから見えたのかい?」
「俺は百万人いても雨宮さんなら裸眼で見つけられるんで!」
「君って想像以上に愛が深いな」
hayateが感嘆の息を吐いている。
百万人が誇張表現だったとしても、あんなわかりやすい位置にいる雨宮さんを俺がスルーするものか。
水着+青シャツの雨宮さんは華奢な感じがより出ていて可愛かった。とんでも柄のシャツとかじゃなかったのもよし。
ただ雨宮さんに意識を取られすぎてはいけないので、頑張ってhikariな俺をキープしていたのだ。
しかし……パフォーマンス代わりに抹茶ドリンクを飲んでみせた後、パチッと雨宮さんと目が合った。彼女の瞳は潤んで確実に泣いていたし、ラストの方は雷架たちに気遣われながらそそくさと退場していた。
いったい彼女になにがあったのか。
今すぐ駆け付けて様子を確かめねばならん。
「まず慣れない浴衣と下駄で、全力疾走は無理があるよ。雨宮ちゃんのもとに早く行きたいなら、せめて服装だけは着替えておいで。それスタッフ用だしね」
「おおう……正論」
美少年の正論パンチでいったん冷静になった俺に、会長も声を潜めて素に戻る。
「……本当に、晴間くんのおかげで上手くいったわ。私の父、離れたところからステージを見ていたのよ」
「あ……親父さん、ちゃんと居たんですね」
「クリスティーナがお父様の傍についていて、どんな反応だったかもさっき教えてくれたわ」
サッと忍者のように舞台裏に現れたクリスティーナさんは、主人に報告だけしてまた姿を消している。
格好はhayateでも、会長はあどけない少女の表情で笑う。
「クソ親父は此度のプロモーションに大満足! ステージにいたモデルふたりの情報は後で欲しい、今後も我が社で使いたいって」
おお……よかった。
無事に親父さんの目に留まったらしい。まさしく会長が望んだ通りの成果だ。
「それは俺のおかげじゃなくて、会長のこれまでの努力が報われただけですよ」
「……そうかしら?」
「男装して親に復讐してやろうなんて、強い意志がないと貫けません。同じ性別詐称モデルとしてリスペクトしています」
「晴間くんって……相手が求める言葉をくれる、いい男よね。雨宮ちゃんや雲雀ちゃんが惚れた理由、少しだけわかったわ」
俺はありのまま想ったことを伝えただけで、会長の反応はよくわからなかった。なぜ雲雀が出て来たのかも。
スッと会長は浴衣の右袖から、ハンカチを取り出して俺に差し出す。
よく見ると共に行ったゲーセンの帰り道、垂れるアイス対策で会長に貸していた、俺の安物ハンカチだ。
「返すのが遅くなってごめんなさい。これで今度は雨宮ちゃんの涙でも拭ってあげなさい、世界で一番可愛いカレシくん」
「了解です!」
会長の粋なエールを受け、俺はしかとハンカチを受け取った。
あくまで冷静に更衣室へと駆け出す。
待っていろ、雨宮さん!
今すぐそっちに行くからな!





