表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
激安特価!ヤマムラ電機 異世界店〜異世界の生活変えちゃいます!〜  作者: アタホタヌキ
第一章「異世界に現れた、ただの家電屋さん」
6/19

第六話「電子レンジ」

「でんしれんじ……とはなんだ? 紅雷の錬金術師の名前か?」


「いや、その箱っすー」


 店員が指差す方向にはちょうど抱えられるくらいの大きさの箱があった。箱にはガラス張りの扉が添えつけられており、いくつかの丸いボタンのようなものが存在している。


「おお……もしやこれが紅雷の錬金術師が使うと言う箱か!!」


「もうそれでいいっすよー」


 もう、とはどう言うことだと言う疑問を抱く余裕はなかった。興味深くあちこちにその箱を観察する。


「も、持ってもいいだろうか!?」


 興奮を隠しきれずに半ば詰め寄るように店員に迫る。


「いっすけどそれなりに重いんで落とさなでくださいねー」


(……な、なんか妙にテキトーな感じの接客だな……まぁ、私もいきなり短剣突きつけちゃったわけだし……っと結構重いな)


 だが、持てないほどではない。それに妙な黒い紐が付いている。


「こ、この紐はなんだろうか!!」


「コンセントプラグっすよー」


「おお、コンセントプラグ!! これはどう使うのだろうか」


「うちで売ってる百ボルトコンセントを壁に取り付けてプラグを差し込むだけっすよー」


 その手にあるものは小さな材質不明な長方形の物体だった。たしかにプラグの先の金属の形に合いそうな細長の穴が彫られている。かすかに雷魔法の術式の気配を感じるが、微弱すぎるゆえ、さほど害はなさそうだ。


「ほう……」


 受け取り、試しに差し込んでみる。


「おお!! ぴったりとはまったぞ!! これで遺跡へのゲートを繋ぐのか!?」


「さっきも言ったっすけどー、壁に取り付けてからじゃないと使えないっすよー」


「む? なぜ壁に取り付けねばならんのだ?」


「そういうもんなんっすよー」


 どうもこの店員は先程から詳細を答えがらない。


(……なるほど!! 私を試しているのだな!!)


 つまりは暗号をとけということだと解釈したエルフは、電子レンジに書かれた異世界の言葉を読み解こうとする。


 そこへ薄い紙で作られた本がエルフに渡される。


「その本を読んでくださーい。その文字、暗号とかじゃないんでー」


「む、違うのか……」


 すこし肩透かしを食らったものの、説明書と書かれたその薄い本を読む。


「お、おい!! 店員!! この本に書かれていることはなんだ!!!」


「そのままの意味でーす」


 舐められた!! 嘘偽りだらけのそれは、自分を試すものではなく侮辱するものだと理解した。


「この箱が調理器具だと!? 火も使わず食材を温めることができるだと!? しかもその力の源がこんな貧弱な魔道具だとぉ!!」


「そうでーす」


「おい……店員。からかうのもいい加減にしたらどうだ……」


「はーい。わっかりましたっすー。お試し稼働で証明したらいいんっすねー」


 フザていると思い怒りに震えたところを、スッと流すようにその百ボルトコンセントという魔道具を壁に取り付ける。


「お、おい! 本気でお前この魔道具で料理を作ると言うのか?」


「はーい。じゃあ、冷凍ご飯を持ってきますので少々お待ちくださーい」




「まさか……こんなことがっ!!」


 ガチガチに凍らせた器に入ったライスはまるで炊きたてのようにツヤを戻し、温まっていた。


「って事で、その説明書に書かれている事は事実でーす」


「バカなっ!! その箱からは魔法の気配は毛ほども感じなかった。なのにどうしてご飯が温まっている!!! しかもこのライス……うまい!!! ……あ」


 そういえば、朝から大したものを食べてなかった。思わず目の前のご飯を食べてしまっていた。


「いっすよー食べてもらってー。いつものことなんでー」


「む……そ、そうか……して店員!! 何故ライスが温まるのだ!!」


「はーい。真理の追求でしたらご購入いただいてからいくらでもご確認くだーさい」


「な、なるほど……そういうことか……そなたが紅雷の錬金術師なのだな!!!」


 そう言われた店員は、めんどくさそうに否定した。


「違いまーす」


「ふ……身分を隠すとはなかなか周到な……まぁそちらにも事情があるのだろう。強力な魔力に秘密はつきものだ」


 馬鹿正直に店員の話を聞くことはなかった。エルフは勝手な解釈をする。


「もう、それでいいでーす」


「わかった!! ではこの箱……電子レンジといったか!! この中で一番上等な物はどれだ!!」


「過熱水蒸気付きヘルシーオーブンレンジ ヘルシオをお買い求めですねー。ありがとうございまーす」


 わざとらしく一番高い電子レンジを進める。あくまでめんどくさそうな態度だが、それでもエルフは大喜びする。


「なんと!! 売ってくれるというのか!!!」


「はーい。いくらでも買って行ってくださーい」


「そ、そうか!! この魔道具はアーチファクトとの融合で生まれた周到にプロテクト魔法を組まれたものなのだな!! だからほとんど魔力の気配をかんじないのか!!!」


 ほとんど勝手な妄想と化しているが、それを店員は否定しなかった。


「はーい。もうそう思ってもらって結構でーす」


「ならば一台もらおう!!」


「お買い上げありがとうございまーす」




 エルフが意気揚々と帰っていくのを見て、店員……ユキオは長いため息をついた。


「もう大丈夫だぞー!! レイラ!! 剣士さんもありがとうございます」


 店の奥からレイラは片目がギリギリ出るくらいに顔をのぞかせた。大粒の涙を浮かべながらぶるぶると震えるその体は、いたたまれないものだった。


「もうぅ? あいついないぃ……?」


「大丈夫。もう帰ったよ」


「大丈夫だぞ、レイラちゃん。ほら剣士のお兄ちゃんもついてるぞ」


 相当怖かったのか、目をウルウルさせながら小動物のようにあたりを警戒して見回す。肩も震えて完全に怯えきっている。


「にしても、なるほどねぇ……急にお前さんが俺を雇うっていうもんだからなにかと思えば……こういうことか」


 あの吟遊詩人は、こういう勘違いしたお客様の動きを察知するためのトラップだ。


 実は以前同じような魔術師が買い物に来た際、同じように勘違いしてレイラに詰め寄ったのだ。


「真理の追求を!!」などと言って圧迫するように詰め寄り、完全に怯えたレイラに追求しまくった。ユキオが電子レンジの仕組みを説明しても科学などという概念がないこの世界の住人にとってはありえない話なので「ふざけるな!!」とか「そんなわけあるか!!!」などと決めつけてきた。さっきのエルフの魔術師などはマシな方で、最悪のパターンは剣で脅してくることもあった。


 今回は特に危なそうだったから最近常連になった剣士に依頼して奥の部屋から警戒してもらっていたのだが、正直何もなくてよかった。


「にしてもいいのか? 依頼料が家電なんて」


「ああ、この前の冷蔵庫も良かったし、電子レンジと使うとさらに使いやすくなるんだろ?」


「はい!! 解凍も簡単な手順で可能!! メニューの液晶も綺麗なカラー表示となっております!!!」


 あっという間に営業モードへと移ったユキオに苦笑いを浮かべる。


「ははは……ってか過熱水蒸気ってのはなんだ?」


「過熱水蒸気とは、水を蒸発させ気化……つまり水蒸気にしたものを、さらに熱したもののことを言います。この過熱水蒸気で焼くと余計な食材の表面はもちろん、中の塩分を洗い流し減塩!! さらに過熱水蒸気のパワーによって食材を中まで素早く過熱することができるので表面が乾燥する前に食材内の脂が溶けて表面に滲み出て塩分と一緒に洗い流してくれます。こうすることによってヘルシーなのに美味しい調理ができてしまうんです!!」


先程とは違い饒舌に機能をかたるユキオにドン引きしながらも、なんとか理解した剣士は疑問点をぶつけてみる。


「……食材を焼いてるときに水になるんなら、べちゃつくんじゃないか?」


「最終的には食材の表面が100℃以上になるから水は蒸発しちゃうんです。だから揚げ物でもパリッと仕上がります」


「ああっそっか……。そもそも十分過熱されているわけだからなぁ」


「さらに、このヘルシオはウォーターオーブンを自称しているだけに他社とは違い過熱水蒸気だけでの調理が可能!! 他社と違いさらにヘルシーに仕上げることができるのです!! さらにさらに、高度なセンサーを搭載し冷凍と冷蔵の食材を同時に調理可能!! レトルトパウチでさえもパックご飯、卵と同時調理可能!!!」


「わかった!! わかったから!! あーなんだ……とにかくヘルシオすごいってことだな!!!」


「そういうことです!!」


 さっさと結論付けた剣士はため息をついた。


「ったく……俺もいい加減家電って奴に慣れてきたが……お前さんは本当に家電のことになると熱くなるな」


「……前の世界で、いろいろやり残したからですかね?」


 すこし思いにふける。優しい先輩達に囲まれて、お客さんとの会話も弾み、楽しかったあの頃。今にして思えば、一番良かったのは、死の前のあの瞬間だったのかもしれない。


「そういえば前の世界でも家電を売ってたって言ってたな」


「めちゃくちゃ大変だった記憶ばっかりだけど、やっぱ楽しかったんでしょうね。……家電売るの」


 前の世界で見た、お客様の嬉しそうな顔はユキオにとって本当に忘れられない宝だった。そういえば、あのエルフも心なしか嬉しそうな顔だった。そういう意味ではいいお客さんだったのかもしれない。


「そっか……さて、じゃあこの一番高いヘルシオはもらっていくぜ! 成功報酬だ」


「え!? ちょ、ちょっと!! それいくらすると思って!!!」


「値札なら見た。危険手当と思えば安いモンだろ」


 剣士はニヤリと笑うが、たいしてユキオは真っ青だ。


「いやいや!! 今回危険はなかっただろ!? せめてもうすこし小さいタイプで許して!!!」


「んーカラー液晶じゃないと困るなぁ。俺まだニホンゴわからねぇし」


「そんな殺生なぁ!!!」


 その時の剣士の顔は……前の世界で見たお客様の顔と同じだった……。




 その頃クレンシエントのエルフの森では……。


「ほう!! これで焼くとヘルシーに……むむむ……真理の追求はしたいが……脂が落ちて……むぐぐ」


 最近脂肪が気になりだした若いエルフの葛藤が始まっていたそうな。

※今回シャープ株式会社様のオーブンレンジ「ヘルシオ」をモデルとして書かせて頂いておりますが、本作はシャープ様ならびにその他家電メーカー様と一切の関係はございません。したがって、今作で紹介させて頂いた「ヘルシオ」はあくまで筆者のイメージであり、実際のものとは違う可能性がございますのでご注意ください。

実際の機能については各メーカー様ホームページ、各メーカー様お問い合わせ先、家電量販店等にご相談ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ