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第十四話「豪嵐龍」

 猫獣人族(ケットシー)の里。


 日本で言うところの京都のような街並みで、マス目のような道がどこまでも続く平地。まわりは竹林と森林に囲まれ、温泉などでも有名。観光目的の客が多い場所である。


 が、一部観光客に恐ろしい奇病が蔓延しているという噂が立っていた。


 なんと、その里にいるときだけ、まるで謎のウイルスが侵入したように、くしゃみや涙が止まらなくなるのだ。症状が発症するのは、なぜかある一定数の人間のみである。要するにかかる人はかかる。かからない人は何日滞在してもかからないのだ。


 気分が悪くなり、重症な人もいる。が、なぜか里から出ると急激に良くなるのだ。


 その奇病は、なぜか猫獣人族(ケットシー)には一切かからない。ほかの人種にのみ蔓延するのだ。


 しかし! その奇病に終止符を打つべく、最高の名医がやってきた!!


「……しっかし、本当に奇妙な病気だな……」


 名医とまで謳われ、癒しの術と自然の力に長けた最強の回復術師、花の女神ペルセポネの再来とまで言われた彼は、エルフらしい長い耳を、フードの圧迫から解放する。


「名医様。こちらです……」


「ああ……」


 名医が訪ねた旅館の女将は、二足歩行の白猫だった。獣人族は人と獣の中間をしているハーフと、完全に二足歩行の獣であるピュアブラッドの二種類が存在している。


 なぜそうなったのかは不明だ。ハーフは混血種、つまり亜人である……という説もあるが、そちらより有力なのが人間と同じく、皮膚組織において毛が不要となったため進化したという説が、今のところ有力である。


 なので、ハーフと言う差別的な呼び方をやめるように新呼称を決めようと言う運動が最近盛んで、ここに来るまでも多く張り紙が貼られていた。


「……しっかし、どうなるのかな? ハーフの新呼称」


「さぁねぇ……今の里長がハーフの方でしょ? しかも孫が亜人ですから……差別をなくすための運動には積極的だそうで」


「ああ……確か里長さんは、軍の剣聖だった人ですよね? まぁ、あの人が言うんだったら差別もなくなるのかな?」


「未だに、亜人差別は大きな問題ですからねぇ……特にピュアブラッドは、自分達の血族を守ることには必死ですから」


 ピュアブラッドは自らをオリジナルと思い、その種を守るために尽力を注いでいる。だが、その行きすぎた結果が差別へと繋がっている。


 女将はそんな悲しい現状を嘆くように、自然に口が開いた。


「まぁ私は、時代が流れ移り変わるなら、種もまた失われるのは必然と思ってます。それよりも、人が人足らしめる権利を妨害する行為こそ、種が失われるより、なによりも許されぬのではと……」


「それは立派な考えをお持ちで」


「まぁ、秘密にしておいてください。これを言うと旦那様に叱られますので」


「大丈夫です。エルフは口が硬いのです」


 ……だが種を守ることも、それはそれでとても大切なことだ。


 要するに物事全て、行きすぎが一番いけない。そういう意味では多分女将さんも旦那さんもうまくやってるのだろうと、エルフの名医は思った。


「……しかし、そうやって差別なく皆様を受け入れていると、なぜかお客様が奇病にかかるわけです」


「ふむ……」


 女将の足がある客室の前で止まり、静かに戸を開く。


「ずびーーーっ!!!」


「これはまた…………」


 大漁の鼻水をちり紙で丸め、ゴミ箱に投げ捨てる。そのゴミ箱はすでに、ちり紙で満タンになっていて、溢れかえっている。


「すまねぇな。名医さんよ……友達とこの宿で待ち合わせしてるんだが、どうも奇病にかかっちまったみてぇでよ」


 その患者は剣士のようで、奥の間にことさら大きな大剣を置いていた。


「それは災難で……それで、そのお友達は今はどちらに?」


「そろそろ来るはずだ……っと、噂をすれば」


 後ろを振り返ると、若い青年と小さな翼人の子供が入ってきた。


「剣士さんー? 風邪ー?」


 小さな翼人は大きく首を傾げ、バランスを崩して片足立ちになっている。


「なんかこの村の奇病にかかっちまったみてぇでよ……くしゃみと鼻水が……ぶぇくしょ!!!」


「ただの猫アレルギーじゃないんですか?」


 青年の聞きなれない病名に、彼以外は目を丸くする。


「ネコアレルギー? ってなんだい」


「あれ? ……ああ、中世だから、この世界の人はあまり知らないのか……えっと、僕もそこまで詳しくないんですが、猫の抜けた毛が原因で起きるアレルギー症状です」


「毛だぁ!? そ、そんなもんでくしゃみがでんのか!?」


 訝しげに首をかしげる剣士に対して、名医はハッとしたように口を抑える。


「……なるほど、アレルギー症状ですか……たしかに、それならこの奇病にも説明が付きます」


「……名医さん。こいつの言ってることわかんのかい」


「ええ……アレルギー症状とは体がウイルスではない物質を、ウイルスと勘違いしたように反応してしまう症状です。それならたしかに猫獣人族の毛が原因でもありえないことはありません……あなたはどうして猫アレルギーと思ったんですか? もしかしてあなたは人族の名医なのでは!?」


「い、いえいえ!! 僕は医者ではありません。こういうものです」


 と、一枚のカードを差し出す。


 そこには異世界語とティエア連合標準語で書かれた名前と、ヘンテコな店の名前が書いていた。


「……ヤマムラ電機異世界店 店長……コジマ ユキオ」


 なんの店かよくわからない。電気を売る? いや、電“機”だから雷属性のマナで動く機動兵器でも売っているのだろうか?


 と、いうよりだ。なんでこんなどこの馬の骨ともわからぬ男が謎の奇病のことを、あたかも当然のように知っているのか。名医はもしかしたら、彼はホラ吹きかもしれないと警戒を強めた。


「そうだ! ユキオの旦那のところなら、その猫アレルギーに効く家電あるんじゃねぇか?」


「カデン……?」


 また、聞き覚えのない言葉が出た……だんだん自分が蚊帳の外になっていく現状から焦りで汗がじわりと滲み出る。


「その場合、空気清浄機がオススメですね!! お安くしておきますよ!!!」


 ユキオという青年は、急に人が変わったかのように声のトーンが上がった。と同時に空気清浄機などという、さらに謎の単語が出てきた。


 空気清浄機と言うからには、空気を綺麗にするとか、そう言うことなのだろうが……そんな謎の道具は聞いたこともない。


「空気清浄機ねぇ……あのなんの役に立つのかもわからない、あれか」


「なんの役にって……すっごく役に立ちますよ!! 空気をフィルターを通して循環させることにより空気中に浮遊するホコリやチリをキャッチ!! しかも除菌効果もあって」


「ああもう!! わかったわかった!! ……ぶぇくしょっ!! と、とにかく、それを買えばいいんだな?」


「……けど、空気清浄機は基本的に一部屋に一つ。いきなり旅館に、そんな高価な物を大量にお買い求め頂くのも忍びない……ってことで、もう一つ大切な商品のご案内を」


 名医は、自分の存在感が薄れていく現状から、だんだん苛立ちを隠せないでいた。


(こいつ……なにものだ!?)




「掃除機はいかがでしょうか?」

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