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激安特価!ヤマムラ電機 異世界店〜異世界の生活変えちゃいます!〜  作者: アタホタヌキ
第一章「異世界に現れた、ただの家電屋さん」
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第一話「聖なる釜にて白き宝石を浄化せしもの」

 ––––––その日、戦争の歴史が変わった。


 魔力を持たぬ人間が機械という力を経て、猛威を振るったのだ。


 どんな生物も無表情に、無慈悲に破壊するその道具に全ての生物は恐怖した。


 ……だが、その機械も戦争を重ねるうちにその弱点を晒す事となった。


 魔法を使うことができる人間であるならば簡単に出来てしまう対抗手段の存在が発覚したからだ。


 それにより、機械は淘汰され衰退の一途を辿る事となった。




 もはや、機械とは歴史書に書かれたアーチファクト。


 そんなものをもはや使おうだなどと思う人は誰もいなかった……。




 ––––––そう、いまから五年前。彼が現れるまでは……。




 ここは数ある異世界の一つ。ティエアの王都レークス。


 緩やかな坂の奥には巨大な王城がその存在感を示している。店も物もティエア(この世界)に存在するものなら何でも揃っていると言われている。


 だか近年、このティエアで急速に勢力を拡大するお店が存在する。


「ん? なんだここ?」


 剣士が見上げた先には、見たことのない世界の文字。一緒に見上げていた僧侶がそれに答える。


「ああ、ヤマムラデンキと読むらしい。なんでも家事専門の機械を販売してるらしい」


 若い僧侶の言葉に、年季の入った顔のシワをより一層寄せて訝しげに答える。


「家事専門?! そりゃまた変なもんを考えるな」


 この世界での機械といえば戦争に使うものである。


 魔法が使えないものが魔法の代用として使っていたが、結局魔法の方が優秀だったため衰退した……まさにアーチファクト。それを、たかが家事のために使うなどあり得ない。


 だいたいが、街を焼き尽くすほどの破壊力を持つ機械がどうやれば家事に使えるのだろうか? 料理でもしようものなら一瞬で消し炭にしてしまいそうなものだ。


「ふーん。家事専門ねぇ……ちょっと入ってみるか」


「あんたが家事を……想像できねぇな」


「これでも一人で冒険者やってたこともあるんだから多少は家事くらいできらぁ。ただ、最近ちょっとだけ困った事があってな。解決するとは思えねぇが……ちょっと聞いてみようかなと」


「へぇ……じゃあ俺は武器でも見てくるからよ。後で落ち合おう」


 僧侶と別れると、改めて剣士はその看板を見る。


 見た目は煉瓦造りの角ばった形の雑貨屋さん。ただ、真っ白な看板が目立ち、全面ガラス張りの扉が印象的だ。


 店の前に立つと、なんとその扉が何をするわけでもなく道を開ける。


「な、なんだぁ!? 誰かいるのか!?」


 だが、その奥には誰もいない。大型古代遺跡の魔法の門のように無人でなぜか開いた扉を、恐る恐る潜ると、そこはまるで王城のように真っ白な、清潔感の溢れる空間だった。




 ––––––そう、これは異世界のありふれた家電屋さんの物語である。




「いらっしゃいませー?」


 何故か疑問形で出迎えられた。


「え? 」


 その声に戸惑う剣士……と言うより声の主が見当たらない。


「ここー? ですよー?」


「ん……ああ、お前さんか」


 真っ白な長方形のやたらつるつるとした箱のような物を壁に取り付けている。エアコンと書かれた値札に聞いた事がない機能がズラリと並んでいる。


 だが、そもそもエアコンとはなんなのだろうか? 剣士にはそのわけのわからぬ異様な物体を幼い金髪の翼人が飾っているようにしか見えない。


「エアコンー? 欲しいのー?」


「あ、いや……そもそもエアコンとやらがなんなのかわからないし、多分俺の求めてるものじゃない」


「そうー? じゃあー? 何がー? 欲しいのー?」


 どうにも間の抜けた接客である。少なくともこの子は店員ではあるが店主ではないだろう。


「えっと、店主はいるかな?」


「てんしゅー?」


「えっと……参ったな言葉わからないのか」


「わかってるよー? 店主くらいー? 今ー? 呼んでくるねー?」


 ……どうやらさっきの「てんしゅー?」は彼女なりの受け答えだったらしい。


 剣士は心の中で「ややこしい!!」とツッコミを入れた。


「それにしても……」


 見た目はまるで王城だ。大理石をツルツルに磨き上げた床に謎の白石で覆われた空間。妙に狭いところ以外は雑貨屋とは思えない。木造りの店ばかり見てきた分違和感がものすごい。清潔感溢れるその空間はどこか落ち着かない。


 並んでいる商品は一度も見たことがないものばかりだ。


 ひときわ目立つのは大きなトビラ付きの棚。中身が見えずに不便としか思えない。その名前は冷蔵庫と言うらしい。


 次にその棚よりふた回りは小さい、これまたトビラ付きの箱。今度はガラスが前面に付いているが微妙に見辛い。これは電子レンジと言う名前。


 特にわからないのは上面に「季節家電!」と書かれたコーナーだ。


 そもそも家電と言う言葉が聞きなれないのに、コイツは季節が関係するらしい。意味不明だ。


 そんな風に剣士が物色していると、一人の青年が妙にペコペコ頭を下げて出てきた。


「いやーすみません! なにぶん社員が二人なもので! あ、私ヤマムラ電機 異世界店店長の小島 幸雄と申します!! あ、これ名刺です」


 と、その妙に低姿勢な青年は異世界語とティエア連合標準語で名前が書かれたカードを差し出す。


「は、はぁ」


 なすがままに受け取る。なんの魔術もかけられてない。いたって普通のカードだ。


「あ、私異世界人でして、私の元の世界の文化で営業する時はこのカードを渡す事になってるんですよー! 生活でお困りの時は是非よろしくお願いします!」


 さっきの翼人の少女と正反対でなんとも元気で妙に早口な男だ。黒髪も綺麗に切りそろえており、清潔感がある。ヒゲもきっちり剃っていてまるで貴族のようだ。是非とも彼の元気を、翼人の少女に分けてほしいものだ。


「で、生活でなにかお困りはありませんか? 私共の家電がお役に立てるかもしれませんよ?」


「ふーむ。家電ねぇ」


 どうにも馴染みのない言葉である。


「そもそも家電ってのはなんだい?」


「はい! 簡単に言うとあらゆる生活の困ったを解決する便利な道具です。こちらの百ボルトコンセントをご購入いただいて家電と繋げば……あら便利! とっても快適な生活をご提供できてしまうんです!」


「はぁ……この、ちっこいのを?」


 その小さいものは手のひらサイズの白い材質不明の物体。その物体には細長い小さな穴が二つ空いていて中は見えない。


「こちら非常に不思議な部品でして、こうやって壁にペタッとくっつけるだけでOK! それで電気が流れてくるんです」


「電気!? まさか……雷撃魔法がここから出てくるのか!?!?」


 慌てて遠ざかる剣士。この細長い場所から雷撃が飛び出してくるということは雷撃銃のようなものかと警戒をする。


「だ、大丈夫、大丈夫! 雷と同じ力ですが、もっと小さな力です。ただ、プラグと言う、この穴に合う紐以外は繋げないでくださいね。特に面白いからと言って剣やナイフ、シャーペンの芯などで刺しちゃダメです!」


「お、おう。そうか……」


 小さな力と聞いてホッとする。以前雷撃魔法を食らった事があるが、なんとか耐えられた。この店員のいう感じでは、本当に大した力ではないだろう。


「家電は全てこのコンセントから流れる小さな電気の力で動きます。あなたの生活のお困りを、なんでも解決いたしますよ?」


「ほう……なんでもねぇ」


 少し意地悪をしてみたくなってきた。そんな道具はあるはずがないんだが、試しに聞いてみようと思う。


「じゃあ、聞くがよ。ライスをたくさん作れる道具なんてのはあるかい」


「はい! 得意分野です!!」


 意外にも即答だった。どうせ「ゴミをあっという間に吹っ飛ばす機械」だったり「魔力を込めれば料理を転移させる機械」だったりが来ると思っていたため、正直肩透かしだ。


「へ? ……だ、大丈夫なのかい? 俺言っとくが米を炊いた事なんてねぇぞ?」


「はい! 私の暮らしてた国は米の国! ご飯は我が国の魂とも言えます!!」


 と、言いながら青年が出してきたものは全体的に丸っこいが蓋つきの器。




「炊飯器です!」

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