生活指導の先生と私
更新遅くなり申し訳ありません。
コミックス2巻と小説3巻は無事に発売されています。
本当にありがとうございます。
こうして、当初計画された「みんなと行く魚介グルメと楽しい海レジャー☆」は「王太子と行くお忍び視察弾丸ツアー」へと変更された。
王太子は私たちの説得(?)が終わると、即座に王宮へと戻っていった。
一仕事片付けて、今日の夕方にはもう出発する手筈を整えると宣言して……。
そうなると、特務隊の任命式を終えたばかりだったみんなも急いで準備をしなければならない。
弾丸……。本当に弾丸……。
せっかくみんなのかっこいい特務隊の制服姿を見たところだったのに、すぐに脱ぐことになった。
なんせお忍び旅行。騎士感はゼロにせよというお達しらしい。
ハストさんとゼズグラッドさん、アッシュさんは騎士服もやめ、冒険者って感じの服に。レリィ君やスラスターさんは、街人風だけど、品のある服だった。私はいつも通りのこんにちは町娘ですを続行し、雫ちゃんは深窓の令嬢だ。
こうして、みんな夕方までには準備を整え、最後に王太子であるエルジャさんを待つだけになった。
ドラゴンで飛ぶのがやはり一番早いということで、移動手段はギャブッシュ。
「ギャブッシュ、よろしくね……」
私は……私はまたドラゴンに……。
「良かったな! ギャブッシュ!」
「シャー!」
私の死んだ目とは裏腹に、輝く瞳のギャブッシュ。そして、嬉しそうなゼズグラッドさん。
幌馬車が良かったなぁ……。
でも、喜んでいる一人と一頭を見ていると、まあいいか、という気分に……ならないなぁ……酔うのいやだなぁ……。
「……椎奈さんはやっぱりドラゴンに乗るのは苦手ですか?」
「うん……ゆっくり飛んでくれてると大丈夫っていうのはわかってきたんだけど、たぶん、根本的に向いてないんだと思う……」
空が。空が私を拒否してる。
「……あのとき、それでも椎奈さんは飛んできてくれたんですよね」
「雫ちゃんが結界を張ったときだよね。あのときは、ギャブッシュとゼズグラッドさんにお願いして、今までで一番速かったよ」
そう。あのときは背中の輿じゃなくて、ゼズグラッドさんと一緒に首の付け根のところに乗ったのだ。
雫ちゃんに早く会いたくて必死だった。すごく酔ったし、寒かったし、もう二度と同じことはやたくない。
もう二度と……もう二度と乗らないって誓ったのに……。
「誓いってなんだろうね……」
何度もやってくるドラゴン騎乗。こわい。
ぶるりと体を震わせる。すると、そこにようやくエルジャさんがやってきて――
「……なぜそんなことに」
着替えたエルジャさんを見て、私はドラゴン騎乗を思い出したときぐらい、ぶるりと体を震わせた。
「ハハハッ! お忍び旅行だかららネ! 王太子だと思われては困るだろう?」
響く高笑いと軽い口調。
高笑いには慣れているからいい。でも、エルジャさんの服装がさ……。
「……露出度の高さ」
トップスは爽やかな色のシャツにゆったりとした布を羽織ったようなデザイン。
それだけど、涼しそうだし、オシャレなんだけど、シャツのボタンがほとんどしまっておらず、胸元がゆるゆる。
見えちゃうんだな……。全然見るつもりはないのに、引き締まった胸筋と上腹部がかなり見えちゃっている。
ボトムスは一見普通だが、サイドが編み込みのようになっていて、かなりの素肌感。
王族特有の髪を隠すためか、頭には布を巻いていたけれど、ルーズに巻かれたそこからはきらきらの金色がこぼれていて、とても色っぽい。
すこし退廃的で背徳的な空気を醸し出していて、たしかに王太子には見えない。全然見えない。でも……これは……。
「目に毒……」
もともと色気がある人だなぁと思っていたけれど、今は本当に色気がすごい。
女性を相手にいろいろな商売ができる。間違いない。
とりあえず、雫ちゃんが見ないように、エルジャさんと雫ちゃんの間に立って、雫ちゃんの視界を塞ぐ。
「吟遊詩人になってみようと思ってネ! ボクは踊りも楽器も得意だから、これなら街に行っても、馴染めると思うんダ! 吟遊詩人は容姿を売りにしているし、髪を脱色している者も多いというしネ! どうだろうシーナ君? 似合っているカナ?」
エルジャさんはパチンとウィンクをしながら、私にぐっと近づいた。
その瞬間、北風が吹き荒び――
「ボタンを閉めろ」
ザシュッ
「危ないじゃないか、ヴォルヴィ! ボクは王太子だヨ!」
「そんな恰好の王太子がいるか」
ザシュッ
うなる木の棒と、それを避けるエルジャさん。
よく見るやつ。レリィ君的には「仲良しだね」って微笑むやつ。そうかーここにも血筋がね、関係してるんだねぇ……。
いつもなら諦観して眺めるだけだが、今はそういうわけにはいかない。
「あのエルジャさん、ちょっとこちらへ」
「なんだいシーナ君! 名前を呼んでくれて嬉しいナ!」
追われていたエルジャさんが軽やかなステップでこちらへ駆けてくる。
ハストさんは相変わらず極寒だが、エルジャさんへの棒をやめ、進路を妨害することはなかった。
「王太子様に失礼だとは思いますが、希望もありましたので、そう呼ばせてください。そして、これを着てください」
私の前までやってきたエルジャさんの肩に、手に持っていた毛皮をバサリと掛ける。
この毛皮はギャブッシュに乗るために、私が手渡されたものだ。
上空はとっても寒いので、防寒大事。
「その恰好では風邪をひいてしまいます。しっかり温かくしましょう」
そう声をかけながら、毛皮をぐーるぐーるとエルジャさんに巻きつけていく。主に色気を発している部分を中心にぐーるぐるぐーるぐる。
「ごめんレリィ君、もう一枚毛皮を取ってくれる?」
「うん! はいどうぞ、シーナさん」
「ありがとう」
一枚じゃ足りなさそうだったので、もう一枚。
レリィ君に渡してもらったそれをぐるぐると巻けば――
「よし。これで寒くないですね」
――王太子の毛皮巻。
「できあがり!」
これまで色気を振りまいていた胸筋と上腹部はしっかりと隠れ、ふかふか。ボトムスの素肌感は消え去り、もこもこ。頭に巻いた布からこぼれる金髪は隠せなかったが、まあ仕方がない。
「さ、雫ちゃん。これなら見てもいいよ」
雫ちゃんの前から移動し、妨害していた視界を広げる。
雫ちゃんはそんな私にパチパチと瞬いて――
「ありがとうございます」
ふんわりと笑った。うん。かわいい。
私が雫ちゃんのかわいさにほんわかしていると、雫ちゃんがちょっと背伸びして私の耳元に手を当てる。なになに? と耳を貸すと――
「……シーナさんは大丈夫ですか?」
心配そうにこちらを見上げる雫ちゃん。かわいい。
雫ちゃんがこっそり話してくれたので、私も雫ちゃんの耳元に口を寄せて、声を小さくして返した。
「全然……大丈夫だよ」
ぽそぽそと話せば、雫ちゃんがちょっとくすぐったそうに笑う。
それがかわいくて、私が笑ってしまうと、雫ちゃんはもっと笑って――
「ありだな」
なぜか、胸を押さえたゼズグラッドさんが深く頷いていた。
どうした。
「……シーナ君」
ゼズグラッドさんの謎の行動と言動を見ていると、エルジャさんに声をかけられる。
そういえば、私がエルジャさんに毛皮を巻きつけている間、エルジャさんは思いのほか大人しかった。
嫌だったかな、と顔をエルジャさんに向けると、エルジャさんは優しく笑っていて――
「シーナ君は乳母みたいだ」
うば。
活動報告に3巻書き下ろしの「手羽先のからあげ」の写真アップしております






