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すすめ特務隊

お待たせしまして申し訳ありません。

第三部、始まります。

 みんなで世界を見に行こうと決めてから、二週間が経った。

 ハストさんが北の騎士団の副団長をやめるということで、これまでの役目をガレーズさんに引継いだり、手続きをしたりとなんやかんやと時間が過ぎていったのだ。

 一番忙しかったのはスラスターさんで、王宮と北の騎士団を往復しながら、レリィ君を三十秒摂取してはどこかへ行き、またやってきて三十秒だけ摂取して……と見ているこちらが干潮になるような働き方だった。


 ……レリィ君を摂取すれば、スラスターさんは永久機関なんだろう。

 こわい。


 そうしてスラスターさんが整えてくれている間に、私は自分の食欲と向き合うことにした。

 うん、あれね。私がお肉のことを考えると魔獣が出てきちゃうってやつね。

 実験してみるのが一番早い、ということで、私は結界の近くまで行き、そこですごく鶏肉のことを考えた。おいしいからあげ……。おいしい手羽先のからあげが食べたい……と。

 結果的には魔獣が出てくる気配はまったくなく、ただ、おなかが減っただけだった。

 アッシュさんのスキル『共鳴』で鳴きマネもしてみたが、森に向かって奇声を上げるという、ただ、だれも近寄らない人がいただけだった。


 ――つまり平和!


 さすが雫ちゃん。人呼んで、千年結界の聖女。二つ名がかっこいい。

 結界の強度と私の力の関係もわかったので、これでなんの心配もなく旅に出ることができる。

 私たちはほのぼのと、にんにく醤油の手羽先からあげを食べ、北の騎士団へと別れを告げた。

 そして、一度王宮へ。

 ハストさんが特務隊長になり、さらにレリィ君、アッシュさんとゼズグラッドさんが特務隊に入るということで、任命式のようなものがあったからだ。

 任命式と言っても、王様の前に行って、少しのお言葉をもらうだけらしく、私は参加することなく、雫ちゃんやギャブッシュ、K Biheiブラザーズのみんなと話したり、ハーブの世話をしたりしていたんだけど――


「シーナ様」


 優しい声に促され、ハーブの世話をしていた花壇から立ち上がる。

 そこには任命式を終えたらしく、みんながいて――


「うわぁ! すごくかっこいいですね……!」


 その姿は、いつか見た白い騎士服に、純白のマント。

 四人とも同じ服装を着ているけれど、全員少しずつ違うのが素敵だ。

 レリィ君はいつもの魔具の貴金属をつけているから、みんなより気品があるし、なんていっても美少年。着こなしが美少年。

 アッシュさんは金茶の髪と目に白が似合っていて、腰に佩いた、家宝の剣その2が輝いて見える。

 ゼズグラッドさんは長いマントが邪魔みたいで、風になびかないように左手に巻いていて、なんだかそれが凛々しい。


「レリィ君はかわいい中にもかっこよさがあるし、アッシュさんはその髪色に最高に似合います。ゼズグラッドさんもいつもよりしっかりして見えますね!」


 思わず駆け寄って、手を伸ばして……。

 でも、私は相変わらずの町娘の姿だし、ハーブの世話をしていたから、手には土がついている。

 だから、出しそうになった手を引っ込めて、その場に立ち止まった。

 うん。こんなにかっこいい人たちは遠くから見るに限る。

 すると、ハストさんは止まることなく、こちらに歩み寄ってきて――


「シーナ様。特務隊はシーナ様を守ることを任務としています。ですので、どうぞ手を」


 ハストさんは土に汚れた私の手を躊躇なく握り、そっと持ち上げる。

 少しだけくいっと引かれると、あっという間にハストさんとの距離は縮まった。

 目の前にあるのは、優しい水色の目。そして、白い騎士服を着こなし、純白のマントを羽織った、男らしい体躯。その姿はとてもとても――


「……ハストさんは――かわいすぎです」


 シロクマ……! これはもうシロクマ! イケメンシロクマ……!


「これまでで一番かわいいですね」


 がおーってね。あざらしを襲える。これはテンションが上がってしまう。


「……椎奈さん、そこは、あの……」

「かわいい、かわいいか! ははっ!!」


 おずおずとなにかを伝えようとした雫ちゃんの声をアッシュさんの声が遮る。

 アッシュさんは高笑いながら、右側の長いほうの髪をさらりと手でなびかせた。


「こいつがかわいくて、私はかっこいい、か。なるほど、いいことを言う、イサライ・シーナ!」

「はぁ」

「そうだろう、そうだろう。高貴な血筋の私には、純白がよく似合うだろう!」

「ふむ」

「私が特務隊の副隊長になったのだ、お前はなんの心配もなく、私を頼れば――」


 ザシュ


「隊長は私だが?」

「ひぃ」


 わぁ。吹雪だぁ。そして、木の棒だぁ。


「お前ぇ! この制服は今日、初めて着たんだぞ! もう襟をむしるつもりか!?」


 木の棒が風を切り、アッシュさんがすごいスピードで私から離れていく。

 ハストさんの手には木の棒。

 さっきまで私の手を持っていたはずなのにね……。スキルかな。スキル『棒召喚』かな……。

 逃げるアッシュさんと追うハストさん。うん。今日も平和。……平和。……平和とは……?


「あ、それにしても、副隊長ってゼズグラッドさんじゃないんですね」

「俺は副隊長なんて柄じゃねぇだろ」


 アッシュさんとハストさんから目を離し、のんびりと歩いてやってきたゼズグラッドさんへ声をかける。

 ゼズグラッドさんはそんな私に首を横に振った。

 一緒に歩いてきたレリィ君がそんなゼズグラッドさんに苦笑して――


「本当は経歴とか騎士になった年数的にもゼズさんが副隊長って話だったんだけど……」


 私の腕をぎゅっと抱きしめながら、こっそりと耳打ちしてくれる。

 なるほど、と頷くと、ゼズグラッドさんがけっと言いながら答えた。


「めんどくせぇ」


 そして、真新しい制服を窮屈そうに手で伸ばす仕草をする。


「俺は人をまとめるような役は向いてない。責任なく、好き勝手に動けるほうがいいんだ」

「自由の翼、ですもんね」

「おう!」


 ゼズグラッドさんがニカッと笑う。


「それに、あいつ……アシュクロードはなんだかんだ人を惹きつけるし、指示を出すことも慣れてるみたいだしな」

「たしかに」


 それは言える。アッシュさんはK Biheiブラザーズから、とても……慕われて?……愛されて?いるし、王宮が魔獣に襲われたときもしっかりと指示を出していた。


「アッシュさんはヴォルさんとも意見を言い合って、仲良しだし、ぴったりだってみんなで決めたんだ」


 レリィ君がふわっと笑いながら、告げる。

 仲良し……。仲良し?

 ……前から思ってたけど、レリィ君の仲良しの基準ね。なんか私と違うんだよね……。


「私も……特務隊に入って、椎奈さんを守るお手伝いがしたかったんですけど……」

「え」

「でも、聖女様……シズクさんはこの国に属さずに、シーナさんの隣にいることが一番いいんじゃないかって話になったんだよね」

「うん、それはそう……!」


 雫ちゃんに守ってもらうなんて、そんな申し訳なさすぎる。

 ぜひ、雫ちゃんにはそのままでいて欲しい。

 だから、レリィ君の言葉にうんうんと頷くと、雫ちゃんがじっと見上げてきて――


「白い騎士服、私も似合うと思うんです」

「それは……!」


 ……想像してみよう。

 白い騎士服に純白のマントの雫ちゃん。つやつやの黒髪は束ねられ、うるうるの黒い瞳はきらきら。

 その姿は――


「かっこいいね」


 かっこいいじゃないか。


「はい!」


 私の言葉に雫ちゃんがうれしそうに笑う。

 その笑顔が本当に幸せそうで、私も楽しくなってきて、二人で笑い合った。

 すると、ゼズグラッドさんが、うぅっと呻きながら胸を押さえて――


「ありだな……」


 なにがだ。


「ねぇねぇ、シーナさん。さっき、僕のこともかっこいいって言ってくれたよね……?」

「うん、レリィ君はいつもすごくかわいいけど、今日はなんだかかっこよさもすごくあるよ!」


 そう。いつもはかわいさ満点のレリィ君だけど、今日は騎士服だからか、ちょっとだけ大人びて見える。

 だから、素直に伝えると、レリィ君はうっとりと私を見上げた。

 あ、あ、これは――


「僕のはじめてを奪って、大人にしてくれたのは、シーナさん、だから」


 語弊。


「……と、りあえず……これで、いつでも、海に行けるってことですよね……」


 心のやわらかいところのダメージに負けそうになりながらも、なんとか言葉を絞り出す。

 きっといい返事が聞ける、そう思ったんだけど……。


「あー……それなんだけどな、シーナ。ちょっといろいろとあってな……」


 ゼズグラッドさんが言い難そうに言葉を濁す。

 すると、レリィ君も申し訳なさそうにきゅっと眉根を寄せた。


「ごめんね、シーナさん。……実は、兄さんが……」


 レリィ君がスラスターさんの名前を出す。

 この雰囲気だと、どうやらよくないことのようだけど――


「それについては私から話しましょう」


 話を切り出そうとしたレリィ君の向こう側から響く声。

 それは、今まさに話題に上ったスラスターの声だ。

 声の出所へ視線を向ければ、いつも通りの恰好と怜悧な目をしたスラスターさん。

 そして、その横にはきらっきらに輝く金色の髪の男の人。

 輝く金色の髪はいわゆる巻き毛で、その少し長めの前髪の下から覗く瞳の色は紫。

 すこし垂れた目が色っぽいその人は、どこかで見たことがあるような……?


「やぁ! 君がシーナ君だネ!」


 甘い声と調子のいい口調。

 語尾に星がついていそうなその人は私に向かって、明るく手を上げた。


「君のことはいろいろ聞いているヨ! とにかく、これからよろしくネ!」


 あっという間に近づいてきたその人は私に握手を求めるように、手を出した。

 ちょっとグイグイ来すぎる感じに戸惑いながらも、その手を握り返そうとすると――


「シーナ様。触れることは危険か、と」


 いつの間にか私の隣まで戻ってきていたハストさんが、金色の髪の人の手をパーンと叩き落した。

 その、あまりの勢いにぽかんとしてしまうと、雫ちゃんがボソリと呟いて……。


「……この人、王太子です」


 ――王太子!?

11/1にコミックス2巻、11/9に小説3巻が発売いたします。

ここまで来れたのも、みなさんのお力があってこそです。未熟な私にお力添えいただき、本当にありがとうございます。

コミックス2巻の描き下ろしは、Webにはない、ハストがシーナを名前で呼ぶエピソードになっています。

最高に胸がきゅうきゅうするので、ぜひ購入し、見ていただけるとうれしいです。

また、小説の3巻は第二部の完結まで収録し、また、書き下ろしには今回触れた「手羽先のからあげ~にんにく醤油~」のエピソードを入れております。

詳しくは活動報告にて。

これからも引き続きがんばっていきますので、よろしくおねがいします。

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【新作】魔物をペット化する能力が目覚めたので、騎士団でスローライフします

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台所召喚    事なかれ令嬢のおいしい契約事情

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また変なやつ出てきた。 もう本当に新キャラにろくなのが…(以下略 こんなやつ王太子でこの国大丈夫か?
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