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約束の続き

本日は二話更新しています。

まだ読んでいない方は前話からお願いします

スラスターさんの言葉に、みんな一斉にシーンとなる。

 ……いや、ほら、忘れていたわけじゃないんだ。

 たぶん、最初はいた。いたと思う。いたかな?

 でも、思い返してみれば、レリィ君の足元に侍っていなかった気もする。

 こういうときはレリィ君にくっついて、なにもしないからすっかり忘れていた。 


「いろいろな調査や調整が終わりました。まず、この結界ですが……」


 スラスターさんはみんなの反応は気にせず、ただ淡々と言い放った。


「千年はもちます」

「せんねん」


 え、いやいや。え?

 雫ちゃんすごすぎない?


「よって、聖女様にもう用はなくなりました」


 その言葉に隣にいた雫ちゃんと目を合わせる。

 スラスターさんの言い方は嫌な感じだが、それってつまり――


「雫ちゃんは自由ってことですか?」

「まあ、そういうことですね。結界が張られた、その結界が千年保たれる。それならば、わざわざ聖女様を王宮に留める必要はありませんので」

「椎奈さんと一緒にいてもいいんですか?」

「それはもうご自由に。我々としてはあなたには感謝しかありません。希望はなんでも叶える、と上は言っています」


 スラスターさんはなんの感慨もなく答える。

 無責任だとも思うが、でも、私にとっては最高!


「やったね、雫ちゃん。一緒にいられるね!」

「……は、い」

「一緒に服を買いに行ったり、デザート食べたりしようね!」


 夢が広がる……!


「……椎奈さんが笑うと、うれしいです」


 雫ちゃんがふわっと笑うので、私も笑い返す。

 そんな私たちにゼズグラッドさんが胸を押さえたのが見えたけれど、ちょっと今は見なかったことにしよう。

 そして、スラスターさんはさらに言葉を続けた。


「次に新しい特務隊ができました」

「新しい特務隊?」

「ええ。今までの聖女様付きの特務隊は任務を達成し、それぞれ配置を変えました。全員昇進です。そして、新しい特務隊ですが、こちらは文字通り、特殊任務をすることになりました」

「というと?」

「『台所召喚』という不明スキルを持った者を護衛する任務です」

「ほう」


 つまり、私の護衛。なるほど。

 ……なるほど?

 首を傾げると、ハストさんがじっと私を見ていて――


「私はスラスターから結界の話を聞き、北の騎士団の副団長を辞することにしました」

「ええ!? 副団長やめるんすか!?」

「え、いや、え!?」


 ハストさんの爆弾発言にざわつく団員たち。

 ハストさんは彼らへと視線を移すと、ああ、と頷いた。


「結界が張り直された今、ここが危機に陥ることは非常に少ないだろう。とくに今回の結界は特別だ。魔具にかなりの力が込められている。これまでのように森に入り、動物を狩る必要はあるが、それならばお前たちだけで対応できるだろう。そういうように鍛えてきた」

「まあそりゃそうっすけど……!」


 大丈夫だ、と団員の力を評価するハストさんに、ガレーズさんは不満そうに声を上げた。


「イサライ様のメシが食えないじゃないっすか!!」

「まじか!? それは嫌だな!」

「でも、あの副団長の目をみろよ……」

「あんなの止められるか?」

「あの皆殺しの副団長があんな目してんだぞ。もう俺らがどうこう言うことか?」


 囁き合っていた団員だちがバッとハストさんを見る。

 そして、私のことも見る。

 視線は何度か言ったり来たりして――


『……お幸せに』


 ――納得したらしい。


 ハストさんはそれを確認すると、私に向き直る。

 そして、私の手を取った。


「シーナ様。約束の続きを」

「約束の、続き、ですか?」

「はい」

「王宮での約束です」


 団員たちが言っていたハストさんの目はいつも通りの水色の目だ。

 ……やわらかくて、熱い。

 私をどきどきさせる色。


「――あなたと一緒に世界を回りたい」


 ハストさんの手があたたかい。

 それが、いろいろなことを思い起こさせて……。


「一度目は、シーナ様に意思に反して、この国がなにかを要求してきたとき、王宮の手からあなたを守るための約束」


 それはトマトのブルスケッタを食べたとき。

 私は、『この世界の楽しいところをいっぱい教えてください。おいしい食べ物をいっぱい教えてください。見たことない景色を見せてください』って頼んだ。

 

「二度目は、私が北の騎士団に戻ると言ったとき、シーナ様がついていきたいと願ってくれた……。だから叶えられた約束」


 ……ハストさんが北の騎士団に戻るって聞いて、連れて行ってくださいって言った。

 『あの約束は有効ですか?』ってトマトのブルスケッタを食べたときの約束を持ち出して……。

 いつだって、ハストさんは私のためにそれを叶えてくれた。

 私のワガママを聞いてくれた。


「三度目は――」


 座っていた体がぐいっと持ち上がる。

 そうして気づけば、体にあった浮遊感が消え、あたたかいものにぎゅうっと包み込まれた。


「――私のために」


 耳元に響く声が色っぽい。


「私があなたといたい。あなたの望みを、私自身の手で叶えたいから」


 その声に促されるように、顔を上げれば、そこには私の大好きな色。

 ――きらきらと光る水色。


「え?」


 近くない? そして気づけば私の目線がハストさんより高い位置にある。

 いや、待って、今は、どんな状況?

 あ、これ、前みたいにまた子供みたいに抱っこされてる!?

 腰に優しく添えられた手から逃げようと身じろぎするけれど、全然逃げられなくて――


「もっとあなたを堪能したい」

「ひぃ!!」


 今、私、捕獲されている……!?

 このまま食べられちゃう……!?


「というわけで、特務隊の隊長にヴォルヴィが任命されましたので」


 そこに響く、スラスターさんの冷静な声。

 さらに響く、明るい声。


「シーナさん! 僕も特務隊に入ったんだ!」


 その明るい声はなぜか、うっとりとし始めて――


「みんなの前で激しく抱かれちゃったから、もう離れられないよね」


 語弊。

 大幅に語弊。


「……一応、俺もいるから。移動手段があったほうがいいだろ? ギャブッシュもお前といたいって言ってるからな」

「シャーシャー!」


 ゼズグラッドさんとギャブッシュの声もして……。


「私も、まあ、行ってやらないことも、ないけどな!」


 アッシュさんの声。


「椎奈さん、楽しいこと、いっぱい一緒にしましょう」


 雫ちゃんの声。

 

「みんな、一緒に……」


 ――新しい世界。

 ――新しい出会い。

 ――新しい味。


「……ハストさんと一緒に」


 この世界で楽しく生きていけるのなら。


 ――それってきっと無敵。


「私が行き先を決めていいんですか?」

「はい。シーナ様の思う場所に」


 ハストさんに持ち上げられたところからみんなを見る。

 みんな私を見て、笑っていて――


 どこにいこう。

 なにをしよう。


「……みんなとだったら、どこでもいいんですけど」


 そう。きっと、どこでだって楽しい。

 でも、強いて言うなら――


「海に行きたいです!」


 ――おいしい魚が食べたいから!

これにて第二部完結です。

おもしろかったよーと、↓にある評価ボタンをクリックしていただけると励みになります。

引き続き「海は広いな、魔獣だな~ペロッ…これはシーフード~」をまったり更新できれば、と。

ブクマ、評価、感想、レビュー、そして書籍を購入していただき、みなさんのおかげでがんばれました。本当にありがとうございました。

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