ローストビーフ、焼豚、ジャークチキン
雫ちゃんが世界を救ったあと、激烈なドラゴン酔いで寝入った私。
……我ながら、情けない。
戦闘での疲れもあったとはいえ、汚れた姿のまま雫ちゃんのベッドに入ってしまったしね……。
結局、目が覚めたのは翌日の昼ぐらい。
そこからはスラスターさんに話をし、ゼズグラッドさんとギャブッシュに頼み、北の騎士団に帰ってきていた。
もちろん――
「椎奈さん、今日はお肉パーティーなんですよね?」
「そう! お肉パーティー!」
――雫ちゃんも一緒!
「魔獣が大氾濫したおかげで、お肉もたっぷりでね。これはもうパーティだよね。パーティ」
にんまりと笑えば、雫ちゃんがふわっと笑って返してくれる。
なにやら、雫ちゃんが北の騎士団に来れるように、スラスターさんがいろいろとしたらしいが、まだ詳しいことは聞いていない。
調整中、とのことだ。
気になるけれど、まあその辺りは、うまくいけばなんでもいいかな、と思う。
だって、目の前の雫ちゃんが最高にかわいい。
私のあげたワンピースと水色のフリルエプロンを着ていて、最高にかわいい。
これは世界を救える。確信。
「本当に、お肉いっぱいですね」
雫ちゃんが辺りを見回して、ほぅと息を吐く。
「うん。台所の置ける場所、全部お肉って感じだね」
そう。今、雫ちゃんといるのは台所。
二人で一緒に、調理場からたくさんのお肉を持ち込んだ。
あっちを見ても肉、こっちを見ても肉。
まさにお肉パーティーの前哨戦といった様相。
「みんなもいろいろ準備してくれてると思うから、雫ちゃんには下ごしらえを手伝って欲しい」
「はい!」
雫ちゃんの元気な返事が台所に響く。
雫ちゃんは一緒に台所へ行けるから、本当にありがたい。
私一人で全員分の下ごしらえをするのは、さすがに大変なので。
「まずはこの牛モモの塊から」
「……大きいですね」
まな板の上にドドンと塊肉を置く。
雫ちゃんはその肉の大きさにパチパチと目を瞬いた。
「これね、和牛なんだよ、和牛」
「和牛……。高いやつですか?」
「そうそう。見て見て、この断面。モモ肉なのにいい具合にサシが入ってる……」
おいしそうがすぎる。
「魔獣を変化させたやつをみんなが捕まえて、処理をしてくれてたんだ。で、この肉を良い大きさに切って……」
巨大な塊肉に包丁を入れ、いい感じのブロックにしていく。
三つに分けて、とりあえず、これでOK。
「じゃあ雫ちゃん。これに塩こしょうをかけて、表面に擦り込んでください」
「はい」
私の指示で、雫ちゃんがブロック肉に塩とこしょうを擦り込んでいく。
私はその横でにんにくを太めの千切りにしていった。
「次はね、この肉に穴を開けます。……今日は菜箸でやっちゃうね」
菜箸をぶすっと刺せば、そこに穴が開く。
そして、にんにくをその穴に刺し込んだ。
「にんにくを刺すんですか?」
「うん。じゃあ、雫ちゃんもやってみて」
「はい。……これ、おもしろいですね」
「だよね」
お肉にぶすっと箸を刺して。
抜いたところに、にんにくを入れて。
台所に並んで、二人でやればあっという間に作業は終わった。
「あとはこれをビニール袋に入れて、冷蔵庫に入れるだけ!」
だいたい三十分以上かな? 一日置いておくようなレシピもある。
なので、食べたいと思ってから、時間が必要なんだけど、私には、ワンドアぱたん冷蔵庫があるから!
「おいしくなぁれ」
ドアを閉めながら呟けば、これでもう一品目の下ごしらえ完成!
「あとは焼けば、ローストビーフ!」
「ローストビーフ、おいしいですよね」
冷蔵庫の前でにやにやしていると、雫ちゃんが、わかります、と頷いてくれる。
なので、よし! と立ちあがって、次のお肉を手に取った。
「次はこちら、豚バラの塊です」
「今度は豚なんですね」
和牛のモモ肉がなくなったところに、次は豚バラの塊肉を移動させる。
豚バラは和牛よりも赤身の色がピンク色で、たっぷりと脂肪が乗っていた。
「こっちはタレにつける感じにするから、まずはりんごとたまねぎをすりおろすから、雫ちゃんはたまねぎの皮を剥いてくれる?」
「わかりました」
雫ちゃんにたまねぎを処理してもらっている間に、私はりんごの皮を剥き、芯をとる。
そして、ボウルとおろし金を用意して、りんごを擦っていった。
「椎奈さん、たまねぎは上と下は切ったほうがいいですか?」
「あ、芽のほうは取って、根っこのほうはそのままでいいよ」
「はい。……できました」
「うん。こっちもりんごはすりおろせた! 次はたまねぎだね。目が染みるかもだから、雫ちゃん離れててね」
薄目でできるだけ顔を離して、ショリショリショリと擦っていく。
りんごもたまねぎも柔らかくて水分が多いから、すりおろし易いんだけど、たまねぎは目だけは気を付けないといけないからね……。
「よし、あとはこれに砂糖としょうゆ、お酒をちょっと入れれば漬けダレは完成!」
「すごく甘い匂いがしますね」
「うん。りんごの香りがいいよね」
ボウルにできたいい感じのタレに雫ちゃんがわぁと歓声を上げる。
このりんごとたまねぎがね、いい仕事をしてくれるのだ。
というわけで、豚バラ肉の塊をビニールに入れて、そのタレを入れる。
あとは、いつも通りに――
「おいしくなぁれ」
――ワンドアぱたんです。
もう私、この冷蔵庫から離れられない。
「椎奈さん、今のはなにになるんですか?」
「あ、豚はね、焼豚になるんだ。甘じょっぱい味がぎゅうっとお肉に入ってね、焼くとこんがりしてね……」
最高なんだ……。
「……楽しみです」
うっとり呟けば、雫ちゃんはふわっと笑った。
「さ、これで二品終わったから、次が最後だね」
「最後は……、これですよね」
「うん、そう」
「「地鶏」」
雫ちゃんと二人で顔を見合わせて、頷き合う。
雫ちゃんと私を引き合わせてくれた、大事な大事なもの。
それを――
「――おいしくいただきます」
お肉の架け橋です。
「椎奈さん、これはモモ肉ですか?」
「うん。脂が乗ってておいしい部位だよね。これは香辛料たっぷりで漬けていくよ」
最後はとってもスパイシーに!
「まずは鶏肉にライムを絞って、よく揉みます」
「この、緑色のがライムなんですね」
「うん、これで臭みがとれて、風味がつくんだ」
金属のバットに入った鶏モモ肉をぎゅっぎゅっと揉む。
そして、そこにたくさんの香辛料をかけていった。
「すごい。スパイスがいっぱいですね……。これはなんていう料理ですか?」
「これはね、ジャークチキンっていうんだ」
「……ジャーク、チキン?」
雫ちゃんは私の答えに、不思議そうに顔を傾げる。
ローストビーフや焼豚に比べると、有名じゃないから、ピンとこないのだろう。
「ジャークチキンはジャマイカの料理でね。ジャークスパイスっていう、たくさんのスパイスを混ぜたものでお肉を漬けてね。――焼くと最高においしい」
そう。ピンとこなくても大丈夫。
だっておいしいから!
「あ、辛いの苦手だったりする?」
「いいえ、たぶん、食べられると思います」
「よかった。ほら、同じ味ばっかりだと飽きるから、いろいろ作っておきたかったんだ。こういうちょっとスパイシーなのも味に変化が出ていいかなって」
お肉パーティーだからね!
お肉を全制覇しないとだから!
「これも冷蔵庫に入れれば、完成!」
ワンドアぱたん冷蔵庫をフル活用。
「それじゃあ、雫ちゃん、何回かに分かれちゃうかもだけど、お肉を運ぶの手伝ってもらっていい?」
「はい!」
冷蔵庫に入れておいた肉は、それぞれ塩こしょうやタレ、香辛料がしっかりと馴染んでいるのがわかる。
大きいお肉が多いので、一回で運ぶのは無理そうだけど、雫ちゃんがいれば、二回か三回ですべて運べそうだ。
右手には和牛のモモ肉。左手には雫ちゃんの手。
というわけで!
――ローストビーフ、焼豚、ジャークチキン。
の、下ごしらえ。
「『できあがり』」






