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コアラのシーナの宅配便

 レリィ君とゼズグラッドさんと話した後、すぐに台所へ行った。

 そこで、作っておいた生地で大量にスコーンを作製。

 はちみつキャラメリゼのナッツスコーンだけでは飽きるかと、試作していたのがよかった。

 食事っぽいのもあるといいかな、と作った、ローズマリーと粉チーズのスコーン。

 シンプルなのもいいかな、と作ったプレーンスコーン。

 それぞれをとにかく切り分けて、オーブンレンジでワンドアぱたん。


「では、ゼズグラッドさん、お願いします」

「任せとけ」


 飛行するために、毛皮や手袋、ゴーグルをつけたゼズグラッドさんが、ギャブッシュの首元に乗っている。

 アッシュさんと、K Biheiブラザーズのみんなの分のスコーンが入った紙袋を渡して準備完了。

 ゼズグラッドさんはニッと笑って、飛び立っていった。


「じゃあレリィ君……」

「うん! しっかり捕まってね」


 残ったスコーンを持ち、レリィ君にお願いします、と一礼。

 そして、その首筋にぐっと手を回した。


「……他に方法がありそうだけど」

「でも、シーナさん。塔の上から見てたけど、みんなは魔獣が外へ行かないように森を囲むように展開してたから、地上を行ってたら、時間がかかっちゃうよ?」

「うん……そうだよね。そう。移動方法としては間違ってないよね……」


 レリィ君がこれが絶対一番! と私を見つめる。

 わあ。顔が近い。美少年の顔が近い。いつも近いけど、今は頬ずりできるぐらい近い。削られる。心のやわらかいところが削られる。


「シーナさんの料理を食べると、スキルが強くなって、炎で空が飛べるようになるから、安全に早く運べるよ」


 そう。レリィ君はすでにスコーンを摂取したので、つよモードになっているのだ。

 つよモードのレリィ君は炎で空が飛べる。一緒に飛べば早い。よって、一緒に空を飛んで、みんなにスコーンを運ぶことにしたんだけど――


「空を飛ぶには両手が自由になってないと難しくて……。僕はシーナさんを支えられないから、ごめんね」


 レリィ君はそういうとしょんぼりと眉を下げた。


「僕がもっと背が高くて、力が強くて、かっこよく抱き上げられたらいいんだけど……」

「ううん、それは大丈夫」


 私の力では空を飛ぶレリィ君から落ちる可能性があり、不安なので、紐と布でレリィ君と体をくっつけてある。

 足はまだ地面についているから、レリィ君はまだ重くない……はず。

 一度、試してみたところ、炎は熱くなかったし、レリィ君もとくに問題ないということだった。


「レリィ君は全然そのままで」


 ただ、ちょっと私のなにかが削れていくだけだから。

 自分より小さい男の子に抱きついているという倫理。

 『美少年に抱きついている自分』という客観視したときの、自分自身の価値が揺らいでいるだけだから……。

 もう、無になるしかない。


 ――私はコアラ。

  あるいはセミでもいい。


「じゃあ行くね!」


 レリィ君の掛け声とともに、体が空中へと浮かぶ。

 あっという間に高度を上げ、そこから魔獣の森を見下ろせば、魔獣はまだ森からあまり離れていないようで、外縁部にちょろちょろと見える感じだ。

 そして、それを騎士団のみんなが相手をしている。

 例えるなら、アリの巣を壊したあとの状況っぽい。

 たぶん、魔獣自身も結界がなくなったことにまだ適応しておらず、うろうろしているような感じなのだろう。


「……あれが、一斉に外に向かったらまずいよね」

「うん……。今はまだいいけど、このままだと近くにある村や町から攻撃されると思う」


 騎士団のみんなは五人一組でがんばっていはいるけれど、相手にできるのは一頭だけだ。

 しかも、魔獣が出て行かないように広く展開しているから、層が薄い。

 一班でも突破されれば、そこから次々に魔獣は外へ出て行ってしまうだろう。


「レリィ君、一番遠くの班から配っていこう」

「うん!」


 砦から一番遠い組まで飛んでいく。

 五人一組で戦うことは知っていたので、スコーンはあらかじめ五個を一組にして紙に包んでおいた。

 なので、地面に降りることはなく、スコーン投下!


「みなさん! スコーンを摂取してください!」


 上空から声をかければ、魔獣を対峙しながらも、スコーンの包み紙を見事受け取ってくれた。


「おお! イサライ様! ありがとうございまっす!」

「やったな! あ、なんか種類あんぞ!」

「俺、いつものナッツの!」

「俺、新しいの!」

「イサライ様の新作が食えるとか魔獣ありがてぇな!!」


 ははっ! という笑い声とうめぇ! という歓声。

 魔獣の攻撃を避けた際についた土汚れもあるし、額には汗がにじんでいる。

 ――でも、みんないつも通り。

 結界が壊れた今であっても、賑やかなみんなだ。


「なにかあったらすぐに言って下さい! すぐにごはんを届けます!」

『うぃーっす!』


 みんなの返答を聞いて、すぐに次の組に配っていく。

 森の外縁にいたのは、全部で五班。

 でも、ハストさんとガレーズさんが率いる一班のみんながいない。


「シーナさん! ヴォルさんと一班は魔獣の森に入ってるみたいだよ」

「レリィ君、いける?」

「うん! まだ飛び立ってる魔獣はいないみたいだから、大丈夫!」


 レリィ君はしっかり頷いて、私を魔獣の森の中心近くへと連れて行ってくれる。

 そして、そこにいるのは――


「ハストさんっ!」


 輝く銀色の髪。

 無表情で鋭い水色の目。

 木を切り倒しては、杭にし、魔獣を串刺しにしていく、すごく、すごく強い人。


「……っシーナ様」


 ハストさんは上空にいる私を見て、珍しく目を大きくして、驚いた表情をした。

 その目ににんまりと笑いかける。


「ハストさん、約束を覚えていますか?」


 レリィ君と一緒に地上に降りて、巻き付けていた紐や布を炎で一気に焼き切ってもらう。

 そうすれば、私はもう飛べない。


「……ずっと一緒だって言いましたよね」


 ――パングラタンを食べたときに。

 二人で話した。


「担任と副担任で! 協力しましょう!」


 担任を支えるのが、副担任なので!


「……そうですね」


 ハストさんが私を見て、水色の目をやわらかく細める。

 こんな危機的な状況で、敵地の中心で。

 ハストさんの微笑みは優しくて――


「……シーナ様なら、そうするだろう、と、どこかでわかってはいました」


 ハストさんは一度目を閉じる。

 そして、次に開いたときには、戦闘をするときの目に戻っていた。


「ここが一番危険ですが、こうして中心部で戦うことで、魔獣を呼び寄せようと考えていました」

「それなら、私が役に立てます。あ、まずはスコーンをどうぞ。ガレーズさんたちも!」

「あ、僕が運ぶよ!」

「うぃっす! ありがとうございまっす!」


 ハストさんに合わせて、私も戦闘モードに!

 といっても、スコーンを配るだけなんだけどね。

 魔獣が串刺しにされて、こちらに向かってこないうちに、ハストさんにスコーンを渡す。

 ガレーズさんたちにはレリィ君が届けてくれた。


「呼び寄せるのなら、私ができると思います」


 そう。魔獣の呼び寄せはきっと私ができる。

 そのためにここにいるようなものだ。

 私の提案にハストさんは、はい、と頷いた。


「シーナ様がここにいて下されば、魔獣は森の外ではなく、こちらを目指すでしょう。森の外縁を守る必要はない。他の班は休みと補給がすぐにできるよう、砦に近いところまで下がらせましょう」

「僕が一番速く伝えられるから、伝えます! そのあと、合流します」

「ああ、レリィ頼む」


 ハストさんは話しをしながらも、木を切り倒し、森の奥に向かって丸太を投げる。

 私からは見えないけれど、たぶん、そこに魔獣がいたのだろう。

 レリィ君はハストさんの言葉を受け、すぐに飛び立っていった。


「私たちもここから下がり、砦に近い森を拠点とします。魔獣は基本的に魔力が多い森の部分からやってくると考えられるので、砦を背にすれば、一方向だけに集中できます」

「いいっすね、それ! めっちゃ楽っす!」

「だな、やっぱ全方位に感覚向けるのつらいんだよなー」

「っよし!」


 ハストさんの言葉にガレーズさんと一班のみんなが助かった! と声を上げる。

 やはり、中央で戦い続けるのは大変だったのだろう。


「現在は全員で出撃していますが、休む班を作ります。シーナ様の料理で力が上がり、ケガが治りますが、戦い続けると集中力が切れるので、休息が必要になります」

「……そうですよね。たしかに。体が大丈夫でも心は疲れますもんね」


 ずっと戦い続けるなんて、そんなのは無理だ。

 交代で休めれば、少しは保てるだろうが、それもきっと限界がある。

 でも――


「雫ちゃんが絶対にやってくれるので」


 今の状況は永遠じゃない。

 北の騎士団だけで、魔獣を押し留めるのは、結界ができるまで。

 だから、私は――


「一頭も森の外には出しません」


 結界が張られたときに魔獣をすべて閉じ込める。

 だから、魔獣をここに留めて置く必要があるのだ。

 そのために私にできること。


「――OLの食欲の本領発揮ですね」


 世界で一番強い。

 私の食欲をみせる!


「シーナ様といるといつも思います」


 私が拳を握っていると、ハストさんが森の奥を見て笑った。


「――負ける気がしない」


 その笑みは壮絶で――


「何万の魔獣がいようと――すべて屠る」


 ……この人は魔王なのでは。

 だって冷気が尋常じゃない。


「あなたに傷一つつけさせない」


 そんなすごい人が私と一緒にいる。

 だから、全然。


 ――全然怖くない。


 何万の魔獣が相手でも、結界が壊れても。

 私は前を向ける。


「ガレーズ! 砦への道を拓け! 私は殿(しんがり)を行く!」

「うっす!! 行くぞ一班! 俺についてこい!」

『おー!』

「イサライ様はこっちへ! 中心へお願いします!」

「はい!」


 走るガレーズさんに続いて、私も走る。

 スコーンの一番下に入れていた、布に巻いた包丁を取り出して――


「ステーキ! 豚しゃぶ! 焼き鳥! ボタン鍋! 鹿肉ジャーキー! 鴨のロースト!」


 全部全部、寄って来い!


「――おいしくなぁれ!!」


 お肉料理を全制覇!

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