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みんなで囲む食卓

 台所から部屋へ戻れば、みんなはさっきまでと変わらない位置で待ってくれていた。

 雫ちゃんとみんなが一緒にいるのは二回目。

 話が弾んでいる様子はないけど、険悪にも見えないから、普通に各々で時間を過ごしていたのだろう。


「お待たせしました」


 声をかけると、レリィ君と雫ちゃんが同時に反応してソファから立つ。

 ハストさんは私に近づき、さりげなくエスコートしてくれた。

 なので、玉子焼きの乗ったお盆を持ち、窓際のダイニングテーブルへと移動する。

 私の部屋にあるダイニングテーブルは四人掛け。

 どう座る? と一瞬悩んだけれど、自然と私と雫ちゃんが横並びに。私の正面がハストさん、雫ちゃんの正面がレリィ君になった。

 ゼズグラッドさんはダイニングテーブルの横の窓枠に待機だ。


「すごい!卵がくるくるってなってる!」

「長方形の形が面白いですね」


 テーブルに置いた玉子焼きにレリィ君とハストさんが感想を漏らす。

 そうそう。玉子焼きはこの形がおもしろいよね。


「……玉子焼きだ」


 雫ちゃんは感動するように、小さく呟く。

 私はそんなみんなにテーブルの上のものを説明していった。


「まず、これが玉子焼きというものです」

『たまごやき』

「私と雫ちゃんのいたところではとっても生活に馴染んだ食べ物なんです。ね、雫ちゃん」

「……はい。……家でも食べるし、お店に売ってたりもします」

「そうなんだ。黄色くてきれいだね!」


 雫ちゃんの言葉にレリィ君が言葉を弾ませる。

 雫ちゃんはそんな明るい声を避けるように、レリィ君からさっと目を逸らした。

 あからさますぎる反応は失礼かもしれない。

 その対応に私は――


「これはかわいい」


 ポツリと本音を漏らしてしまう。

 しまった。心の声が。


「なんでだ!? 今の流れ、そういうのか!?」


 今まで黙っていたゼズグラッドさんがはぁ!? と声を上げる。


「どこにそんな要素があったんだよ!」

「よく考えて下さい。目を逸らすだけでかわいい女の子がここに存在している。ゆえにかわいい。だから、かわいい」

「いや、なに言ってんだ!?」


 世界の真理です。と頷くと、ゼズグラッドさんがああ!? と首を捻る。

 そこにさらにレリィ君も参戦してきて――


「ねえ、シーナさん。かわいいのは聖女様だけ?」

「いやいやいや、それはレリィ君もかわいかった。明るく声をかけたところもかわいかったけど、目を逸らされるレリィ君もかわいかった。目を逸らされるだけでかわいい男の子がここに存在している。ゆえにかわいい。だから、かわいい」


 そう。世界がかわいい。

 なんかこうね……白いうさぎがね……ぴょんって跳ねて……黒猫がね……びっくりして逃げていく……そういう世界がね……私には見えるよね……。


「僕はシーナさんの弟だもんね」


 うっ……うっとり笑うレリィ君。

 うっ……頭が……白いもやが……。


「う、ん。そう。お、とうと」


 そう。おとうとだ。

 弟はかわいい。世界の真理。


「……あの、私は妹、ですか?」

「妹だよ……!」


 隣に座る雫ちゃんがおずおずと私を見上げるから、即座に言葉を返す。

 コンマ0.2秒ぐらい。

 すると、雫ちゃんは安心したように笑って――


「はい」


 あー……はにかんでる。雫ちゃんの背後に白い百合が咲き誇ってる。

 妹はかわいい。世界の真理。


「シーナ様、冷めないうちにいただいても?」


 そんなやりとりをしていると、私の正面に座ったハストさんが、そっと声をかけてくる。

 その水色の目はいつも通りきらきらと期待に満ちていた。

 きっと、早く食べたいんだろうな。

 食べ物を前にしたハストさんは本当に嬉しそうだ。


「ではみなさんもどうぞ。今日は箸を使って食べてみてください」

「はし?」

「うん。この木の棒なんだけど……」


 カトラリー入れに入っていた箸をみんなに配っていく。

 その見慣れない形状にレリィ君は箸を受け取りながら、首を傾げた。


「これは私のいたところで使っていたものです。フォークやナイフも使いますが、これで食べることが多かったんです」

「こんな木の棒二本でか?」

「そうです。こうやって持って……こう動かします」


 わかりやすいように、箸を持った手を見せる。

 それに合わせてハストさんやレリィ君、ゼズグラッドさんが箸を動かした。


「あ、さすがハストさん。もう習得してますね。……ゼズグラッドさんもできそう。あと、レリィ君は……」

「シーナさん。これすごく難しい」

「だよね。最初は難しいよね」


 ハストさんは木の棒と友達だし、ゼズグラッドさんは料理をしたときにも思ったけど、実は器用だ。

 だから、レリィ君だけが、できない……と悪戦苦闘している。

 この国ではフォークを使っていたので、刺す、という行為は慣れているが、箸の二本でつまむというのは慣れないと難しいだろう。

 だから、教えてあげたいんだけど、私の斜向かいに座るレリィ君にはちょっと教え辛い。

 というわけで。


「雫ちゃん、レリィ君に教えてあげてもらってもいい?」

「……私、ですか?」

「うん。私の位置からだと、ちょっと教え辛くて」

「あ……そうですね」


 雫ちゃんにお願い、と頼むと、雫ちゃんは視線をさまよわせる。

 でも、数秒後、意を決したようにレリィ君へと声をかけた。


「あの……箸はこう、まずは一本だけ持って……」

「うん。こう?」

「……そう。……それで、この隙間に入れていって……」

「ちょっと待ってね……あ、こうだ!」

「うん。それ」


 うーんと悩みながらやっていたレリィ君が、雫ちゃんの言うとおりにすると、箸を持つところまでできた。

 そのことにレリィ君の顔が輝き、雫ちゃんも警戒していた様子が少しだけほぐれているようだ。

 二人の様子が微笑ましくて、にこにこと笑ってしまう。


「すごいね、雫ちゃん。教え方が上手だね」

「いえ、そんな……」

「ううん! とってもわかりやすかったよ! ありがとう!」


 レリィ君がお礼を言うと、雫ちゃんはぴくっと肩を揺らして……。でも、今度は目を逸らすこともなく、ただゆっくりと頷いた。

 すると、窓が突然ガタガタと揺れる。

 もちろん、やってきたのは――


「ギャブッシュ……。やっぱり来るのか……」


 いち早く窓を開け、ギャブッシュを迎えたゼズグラッドさんは諦めたように目元に手を当てる。


「空を飛んで遠くまで行ってたはずだから、今日は来ないと思ったのによ……」

「あ、そうなんだ。ギャブッシュ、わざわざ戻ってきてくれたの?」


 窓から頭を突っ込んだギャブッシュは応えるように、ぺろんと私の頬をなめる。

 相変わらずのきゅるんとした目が最高にかわいい。


「今日はね、ギャブッシュの分もあるんだよ」


 昨日は雫ちゃんにしかなかったけれど、今日はギャブッシュにも少しだけど行き渡るはず。

 声をかけながら頭を撫でると、ギャブッシュはうれしそうに「ングガオングガオ」と喉を鳴らした。


「……昨日のドラゴン」

「うん。ギャブッシュもごはんが好きみたいなんだ。ドラゴンと一緒の食卓っていうのも珍しいと思うけど。こんなにすごいこと、ここに来なかったら体験できないよね」


 そう。異世界に来たから体験できた。

 だから、雫ちゃんに笑いかければ、雫ちゃんは困ったように眉尻を下げて……。

 そして、箸を持っていないほうの手を胸に当てた。


「そう、ですね」

「みんなで食べると楽しいしね」


 ハストさん、レリィ君、ゼズグラッドさんにギャブッシュ。

 そして――


「こうやって雫ちゃんと一緒に食べることができて、とっても嬉しいよ」


 ――ここに雫ちゃんがいてくれて良かった。


 そう思うから。

小説二巻とコミックス一巻を無事に発売することができました。

書き下ろしたっぷりの二巻と、最高なコミックスをよろしくお願いします。

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