ベーコンエッグ(黒こしょうたっぷり)
自分、不器用ですから。
そう言いそうなイケメンシロクマがまさか私のごはんの誘いに目をきらきらさせてくれるとは思わなかった。
おなかが減っていたのか。いや、食いしん坊なのかも? 社交辞令にしては目が輝いてたしな。
とりあえず、私が食べていたベーコンエッグをイケメンシロクマに作ることにし、イケメンシロクマは私のスキルがバレないように、扉の前で見張りをしておくということになった。
「『台所召喚』」
一人の部屋でさっきと同じように唱えれば、ちゃんとワープした。
二回目にして完全習得!
「って、わぁ……」
ちゃんとミニキッチンに移動できたことにほくそえんでいたが、目の前の光景に思わず声を上げてしまう。
なんと、ミニキッチンがきれい。ちゃんと整頓されている。
「……ぜんぶきれいな状態だ」
まだスキルのことなんて全然わかってないから、さっきはベーコンエッグを作った後にすぐに部屋にワープしてしまった。
だから、後片付けなんてできるわけもなく、フライパンは使ったままだし、卵の殻とベーコンの袋はとりあえず調理台に乗せたままだった。
それが、フライパンはベーコンの油や卵の焦げた部分もなくぴかぴかになって電熱器の上に。卵の殻とベーコンの袋はなくなっている。
「布巾も乾いてる」
手拭きや食器拭きは水気を少し拭いただけだから、乾いていてもまあすごくおかしいというわけではない。だけど、台拭きにした布巾は水で濡らし、絞った後で畳んで調理台に置いておいた。
だから、乾いているはずはないのに、布巾はきれいに畳まれ、ちゃんと五枚ある。
「小人さんの仕業……」
私がいない間にきれいにしてくれたの?
靴も作ってくれるの?
「あ、卵とベーコンは減ってるんだ」
明日の朝になれば、誰か変わりにやってくれないかな、と何度も夢見た小人さん。その存在を思い浮かべながら、冷蔵庫を開けて確認してみれば、卵は九個、ベーコンは二パックになっていた。
「食べたものはなくなる。でも、ここにある調理器具などは使用前の状態に戻るのかな」
つまり、掃除をしなくていい。
神かよ。
「スキル『台所召喚』すごい」
しょぼいなんて思ってごめんね。
至れり尽くせりの最高のスキルです。
ありがとうの気持ちを込めて、壁をすりすりと撫でる。
そして、液晶の前へと向かった。
ちょっと交換したいものがあるのだ。
そうして、液晶を確認してみると、なにやら文字が表示されていて――
「増えてる!」
台所ポイントが増えてる!
『はじめてのポイント交換 500pt』
『はじめての調理 500pt』
『ベーコンエッグ作成 200pt』
一気に1200ポイントも増えてる!
このはじめての~は初回ボーナスのようなものだろう。きっと二回目から獲得できない。
だから、今回調理をした際にもらえたのは『ベーコンエッグ作成 200pt』というものになるんだと思う。
「けっこうもらえる」
今回使ったのは100ポイント。それが二倍になって帰ってきた。しかも、今回一番ポイントを使ったフライパンは、次は交換する必要はないし、それはハンドソープや布巾、袋止めクリップも。
卵とベーコンの残りもまだあるし、こうして調理をすればポイントがたまるのなら、いける気がする!
「……よかった」
一人、ほっと息を吐く。
そう。実はポイントのため方についてはちょっと心配していた。
勢いのままにポイントを交換してしまったが、そのポイントを獲得するのが難しかった場合、困っていたかもしれない。
まあ結果オーライ。このミニキッチンを夢のキッチンにするためには、この台所をどんどん使っていけばいい。使えば使うほどすごくなっていく。それがこのスキル『台所召喚』!
……まだまだわからないことばっかりだけど。
そんなわけで、液晶を操作して、ポイント交換をする。
一気に1200ポイント増えたから、イケメンシロクマにベーコンエッグ以外の料理を作れるんだけど、もうベーコンエッグにすると伝えてあるから、それでいいだろう。
「これでよし」
無事ポイント交換が終わり、白く光る。
そして、調理台を見れば、そこには目的のものがちゃんと交換できていた。
「作ろう!」
作るのはさきほどと同じ、ベーコンエッグ。
手を洗って、フライパンを温める。そこにベーコンを入れ、ひっくり返したら卵。
また一緒の作業をすれば、あっという間にベーコンエッグの完成だ。
「お、また自動でお皿が出た」
ベーコンエッグができあがると、またお皿とフォークが出現する。
それにベーコンエッグを移し、フライパンを電熱器の上へと戻した。
そして、まわりをきょろきょろと見回して……。
「できあがれば勝手にワープするってわけでもないのか」
なるほど、と一人納得する。
もしかしたら、お皿に移すと、ワープするようになっているのかもしれないと思ったけれど、そうでもないらしい。
「よかった。自動ワープだった場合、飾り付けとかができないもんね」
ソースをかけたり、パセリを振ったりするような仕上げ。
自動だとその辺をどうしていいかわからないから、そうじゃなくてありがたい。
「これが必要だし」
そう言って、さきほどポイント交換していたものを手に取る。
そして、ベーコンエッグに向かって、ごりごりとその入れ物をひねった。
「――やっぱり、黒こしょう!」
そう。私がポイント交換したのはミルに入った黒こしょう!
黒こしょうとミルとを別々に買う人も多いが、私は一緒になっているタイプを買っていたので、いつものである、それが出てきた。
いつかは電動タイプを使ってみたい。スイッチ押すとブォーンってミルが動き、削ってくれるやつ。
いつものは手動なので、私が手首をひねる度に、ミルに入った黒こしょうがガリリガリリと削られる。
まんまるだった黒い粒ははじけて、中身の白色が見えた。
そして、香ってくるあの匂い……!
「あー……ずっとごりごりしたい」
なによりもミルで削られ、はじける時の手ごたえがたまらない。ずっと削っていたい。黒こしょうを削ってストレス解消したい。
でも、いつまでも削ると大変なことになるので、自分の欲求をおさえ、なんとか手を止める。
そうして、黒こしょうをかけ終われば、そこにはベーコンエッグができていて……。
さきほどと同じ、こんがり焼けたベーコンに半熟の目玉焼き。
そして、そこに黒い粒が散っている。
――ベーコンエッグ、黒こしょう多め!
「できあがり!」