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いろいろ世紀末

 団員から妙な勢い? 気合いのような熱気を感じたが、それもすぐに落胆に変わった。

 うん。お通夜状態。

 そして、そんな団員に向かって、ハストさんが言葉を投げる。


「シーナ・イサライ様だ。聖女という立場ではないが、異世界から召喚された方だ。敬意を持って接しろ」

『ああぁぁぁ……』


 ハストさんの低い声は大きくはなかったけれど、しっかりと全員に伝わったらしい。

 団員たちは深い深いため息で返事をした。ザ・落胆。


 私はそんな雰囲気の中、ハストさんの伝えたことに少し驚いていた。

 あっさりと異世界から召喚された~と紹介したからだ。

 ハストさんが団員に伝えたということは、私は異世界から来たことを隠す必要がないということで……。

 なので、不思議に思って、ハストさんを見上げると、ハストさんは安心させるように話をしてくれた。


「北の騎士団は常に結界に助けられています。よって、王家よりも聖女に忠誠心があるのです。シーナ様は『聖女』という名称ではないが、異世界から来たと分かれば、この騎士団に不埒な気持ちを抱くものはいない、かと」

「なるほど」


 つまり、王宮では私の境遇を説明するといろいろとめんどくさいことになりそうだったが、ここでは逆に話しておいたほうがめんどくさいことにならない、という判断なのだろう。

 北の騎士団の団員たちは女に飢えてはいるが、異世界から来た私にどうこうすることはない。女(早い者勝ち)→異世界人(手出し厳禁)に変化したというわけだ。

 ……まぁ、ハストさんがその話をする前から圧倒的なお通夜感はあったけど、順番は大した問題ではない。

 今の空気は例えるならば、男子校の渡り廊下に女性がいて、うわぁあ!! と、すごく盛り上がったけれど、それが同級生の母親じゃねーか! と知ったときの2-E組って感じだ。

 うん。しかたない。ハストさんは時々、子グマ感がすごいから、私が母に見えるのは自明の理!


「僕はレリィグラン・サージです。炎魔法が使えます。よろしくおねがいします」


 私がうんうん、と一人で納得していると、隣にいたレリィ君がふわふわと笑いながら、自己紹介をした。

 相変わらず、その笑顔はとってもかわいい。

 すると、そのかわいい笑顔を見た2-E組が、わっと活気づいた。


「かわいい」

「かわいい」

「かわいい」

「かわいい」


 みんなの頬がポッとなっている。

 そんな2-E組を見たレリィ君は困ったように少しだけ首を傾けた。


「お兄さんたち、僕の家名、聞こえた?」


 そのかわいらしい仕草に2-E組はまたしても頬をポッと染める。

 そして、頬を染めながら、レリィ君に聞かれたこと口々に確認した。


「家名?」

「なんだったか」

「たしか、サージって」

「サージ?」

「おい、サージって、あのサージか!?」


 そして、一つの答えを見つけたようで……。

 赤く染まっていた頬が白くなり、あっという間に青に変わる。


「うん。サージっていうのは、次期宰相って言われているスラスター・サージと同じ。あの侯爵家のサージだよ」


 そんな青く変わった2-E組の息の根を止めるように、レリィ君は話を続けた。


「僕になにかしたら兄さんが五親等までは滅ぼすと思う」

『ごしんとう』


 五親等。つまりいとこの子まで滅ぼしちゃう。こわい。


「ちなみにシーナさんになにかしたら――」


 ここまではまだかわいいレリィ君だった。

 けれど、そんなレリィ君の目が変わる。そう。あの、ゴミを見る目で……!


「――血族、姻族、すべて滅ぼすから」

『すべてほろぼす』

「問題ない。シーナ様になにかあれば、親族に思いを馳せる前に、当人はもう死んでいる」

『もうしんでいる』


 ……。


 ――異世界でも、北斗七星が輝くようです。



 ***



 そんなわけで、北の騎士団に来て一週間が過ぎた。

 まずは慣れることが大事ということで、とくになにかをしているわけではない。

 ハストさんは忙しくしているようで、今は私のそばに四六時中いて護衛をしているということはなくなった。

 北の騎士団は外との交流は限られた人以外とは、ほとんどなく、また騎士団員についても信頼を置いているため、とくに護衛が必要ということはないからだ。

 それに、そばにはいつもレリィ君がいる。


 ……お、とうとだからね。

 そう。姉弟はいつも一緒なのだ。


 そして、ついでにゼズグラッドさんもいる。

 ドラゴンのギャブッシュはその辺の草地や丘で遊んでいたり、空を飛んだりしているようだが、ゼズグラッドさんには仕事という仕事はない。

 結果、私の斜め後ろでけっけっと言いながら、暮らしているのだ。


 ――大丈夫。わかってる。

 まーくんは人見知りだから、初めての場所だと緊張するんだよね。だから、北の騎士団に着いたときも一言も話さず、ただただ睨んでたもんね。ついつい悪ぶっちゃって、嫌な気分にさせちゃうから、あまり関わらないようにしてるんだよね。わかってる、わかってる。


 という感じの日々だったんだけど、今日は団長から呼び出しがあったということで、ハストさん、レリィ君、ゼズグラッドさんとともに、団長室へと来ていた。


 扉を開けると、そこそこ広い部屋に応接用のソファ。そして正面の執務机には頭を抱えて、机に突っ伏している団長がいた。


 ……うん。いつもにも増して、疲れ方がすごい。


「団長、来ました」

「……ああ」


 ハストさんに声を掛けられ、団長はのそりと体を起こした。

 そうして、ようやく見えた顔は疲れきっている。

 初日に見たぼやっとした顔が、今日はもうぼやぼやぼやぁだ。生気がない。


「これを読め……王宮から来た。正式な告知だ」


 団長は覇気のない声でぼそぼそしゃべると、ほら、とハストさんに金の装飾が施された紙を渡した。

 どうやら、王宮からなにか用件が来たらしい。


「レリィ君、あれって特別な感じなの?」

「あ、そうか、シーナさんはあれを見るのは初めて?」

「うん」

「あれは鳥使」

「ちょうし」

「急ぎの用事に使うんだけど、鳥の足に手紙をくくりつけて、目的地まで飛ばすんだ。王宮から北の騎士団までは二日はかかるから、僕たちが王宮を出てから一週間後ぐらいに鳥を出したんだと思う」

「なるほど」


 どうやら、この世界では鳥を使って連絡を取り合っているらしい。

 ギャブッシュなら私が酔わなければ一日で飛べる距離らしいが、鳥ならもう少し時間がかかるんだろう。

 今回はその鳥が急ぎで用件を伝えるために、王宮から飛んできた、ということのようだ。


 それにしても、私たちが王宮を出てから、まだ九日しか経っていないのだから、そんなに急いで連絡することがあるとも思えない。

 不思議に思いながら、ハストさんが手紙を読み終わるのを待つ。

 すると、最後まで読んだハストさんが手紙を畳み、団長に返した。

 そして、じっと私を見つめて――


「どうやら、聖女様がこちらにいらっしゃるようです」

活動報告にハストのキャララフを公開しました。

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