ミルクジェラート
そんなわけで、さっそく交換したばかりの計量カップとデジタルスケールを使う。
まずは牛乳とグラニュー糖を。
そして、グラニュー糖はボウルではかるんだけど……。
「うん。いい音」
金属のボウルにグラニュー糖の粒がチチチチチッと当たる。
そして、少し溜まるとザーッという音に変わるのだ。
なんてことないそれだけど、私はちょっと癒される。
そうしてはかった牛乳とグラニュー糖を片手鍋に入れたら、次にバニラビーンズを。
バニラビーンズは黒くてちょっとやわらかい木の枝、という感じだが、中には色んなところでよく見る、あの黒いつぶつぶが入っている。
だからまずはそれを取り出すために、まな板にのせたバニラビーンズの鞘に包丁で縦に切れ込みを入れた。
すると、鞘の部分が開くので、それを包丁で端から端までしごいていく。
そうすれば、バニラビーンズの黒いつぶつぶが鞘から取れるので、包丁についたそれと、まな板についたそれを片手鍋へと入れた。
さらに鞘の部分にもバニラの風味がしっかりあるので、牛乳の中にえいっと入れる。
「よし。あとは温める」
片手鍋に入った牛乳、グラニュー糖、バニラビーンズとその鞘をゆっくりと温めていく。
電熱器は立ち上がりが遅いから、こういうときは少しだけ便利だ。
牛乳は沸騰すると風味が少なくなってしまうので、そこは気を付けたい。
ときどき、ぐるりと菜箸で鍋の底を混ぜて……。
白い牛乳に黒いつぶつぶ、そして、鍋の底にあったグラニュー糖が溶けていく。
そして、ほわりと湯気が登り始めたところで、電熱器を止めた。
「ここに生クリームも」
牛乳に使った計量カップを使い、生クリームもはかる。
温まった牛乳に生クリームを入れると生クリームも温まってしまうので、一度、冷やさなければならない。
だいたいは氷水の入ったボウルなどに鍋を入れて冷やすんだけど、私にはワンドアパタンの冷蔵庫がある。
「好き……」
片手鍋を持ち、すりすりと冷蔵庫を撫でる。
そして、冷蔵庫のドアを開けて、あつあつのそれを直接、冷蔵庫に入れた。
そんなことをしたら、冷蔵庫の庫内温度が上がるし、樹脂が溶けるかもしれないから、普通なら絶対にできない。
でも大丈夫。
そう。『台所召喚』ならね。
というわけで、ドアを開けて取り出せば、いい感じに冷えた片手鍋。
それを調理台へと移し、中に入っていたバニラビーンズの鞘を取り出す。
そして、はかっておいた生クリームを入れた。
あとはぐーるぐると混ぜるだけ。
「混ざったら、このタッパーに入れて……」
新しく交換した蓋つきの金属製のタッパー。
そこに片手鍋で作った液体を入れる。
「あとは冷凍庫へ入れれば……」
固めて冷やせばできるもの。
それは――
「アイス!」
うん……。ほら、酔ったあとって冷たいものが食べたいよね……。
お酒に酔ったわけじゃなくて、ドラゴンだけどね……まあ、似たようなものだよね……。
アイスクリームを作るにはやはりアイスクリームメーカーが便利だ。
あれは冷やしながら混ぜることができるので、ただの牛乳氷にならず、空気を含んだ柔らかいアイスになる。
だが、私はアイスクリームメーカーは持っていないので、冷凍庫に入れて作ることにした。
そう。冷凍庫でもアイスクリームは作れる。
ただ、その場合は冷凍庫で固めて、取り出してはかき混ぜるといった作業が必要になるのだ。
これはちょっとめんどくさい。
冷凍庫で固めすぎるとカチカチの氷になってしまうし、かといって固まっていないと混ぜる意味がない。
ちょうどいいところまで固めて混ぜる。
混ぜては固める。
これを数回繰り返さないと、おいしいアイスにはならないのだ。
でも大丈夫。
そう。『ワンドアパタン冷蔵庫』ならね。
「おお、いい感じに固まってる……!」
感動オブ感動。
「しかも、大き目のスプーンまで出してくれて……」
冷凍庫から取り出したタッパーの中はカッチカチになってない、ちょうどよい固さ。
そして、調理台にそっと乗った大き目のスプーン。
『私を使ってね』という心憎い気遣い。
「好き……」
ぽつりと呟いて、調理台を撫で撫で。
愛が止まらない。
そんなわけで、そのスプーンで固まりかけた混合液をしっかりと混ぜていく。
空気を含ませるように。上下をひっくり返し、さらに滑らかになるように、ぐるぐると。
そして、また冷凍庫へ。
入れては出して。
出しては入れて。
合間、合間にぐるぐる混ぜて。
「よし。まずはこんなものかな」
そうして出来上がるのは真っ白なミルクにバニラビーンズのつぶつぶが入ったジェラート。
生クリームを入れて脂肪分を上げ、しっかりと混ぜたそれは滑らかだ。
「味見しよう」
うん。味見は大事。
だから、これは仕方ない。
大き目のスプーンにたっぷりと乗せてしまったけれど、それはもうスプーンが大きいから仕方ない。
「いただきます」
銀色のスプーンに乗った真っ白のそれ。
それを口に近付けて、かぷっと思いっきり頬張った。
「……んー」
キーンと口の中が冷たくなって……。
そして、爽やかな甘さが広がっていく。
牛乳をたっぷりと使っているので、市販のものよりも、もったり感は少ない。
けれど、牛乳のまろやかさはしっかりとある。
そこにバニラの香りが広がり、すぐに舌の上で溶けていった。
「おいしい……」
後味のさっぱり感も最高。
我ながらの会心の出来に、にんまりと笑う。
――牛乳たっぷりミルクジェラート!
「できあ……いや、待って。これは言っちゃダメなやつ」
『できあがり!』と言いそうになったところで、違う違う、と自分に突っ込む。
あぶない。台所から部屋へと戻るところだった。
「ミルクジェラートはできたから、次!」
そう。今回はミルクジェラートで終わりではないのだ。
なので、ミルクジェラートには蓋をして、冷凍庫へ入れる。
そして、次の作業へ!
「よし。もう一回、計量!」
うん。お菓子作りは計量が命。






