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スポーツドリンク風デトックスウォーター

 調理台へと進めば、そこには先ほど交換したばかりの新しい調理器具。

 やっと手に入れたそれを感慨深くそろりと撫でた。


「片手鍋だぁ……」


 なんの変哲もない長い柄のついた、18cmのフッ素加工が施された鍋。

 ホーローのかわいいやつやオールステンレスのかっこいいやつ、アルミのものなどさまざまあるけれど、今回は使いやすさ重視にした。

 焦げ付かない、ガラス蓋で中身が見られる、取っ手が樹脂なのでそのまま持っても熱くない。最高です!


「まぁ今日はお湯を沸かすだけだけど」


 せっかくの新しい調理器具だけど、特別なことをするわけではない。

 今はフライパンしか持っていないわけだけど、フライパンでは浅すぎるのだ。

 今回は深さがあれば何でも良かった。ミルクパンでも両手鍋でもパスタ鍋でも。結果、必要ポイント数が少なく、汎用性が高そうな片手鍋にした。


 そんなわけで、新しく手に入れた片手鍋を簡単に洗った後、水をため、電熱器へと乗せる。

 相変わらず、電熱器の立ち上がりは遅いし火力も弱いので、お湯が沸くまでしばし我慢。

 そうして、お湯が沸いた時、私の心を読むように、調理台の上にガラス瓶が出現した。


「さすが。さすが私の台所」


 きっとうまくいくだろうとは思っていた。

 けれど、あまりに私の心を読み、私のことをよくわかってくれるので、思わず声が出てしまった。

 まだ、お湯を沸かしただけで、器に盛るようなものは何もないのだけれど、今回は最初に器がいるのだ。

 そう。今回の料理は調理してから器に盛るのではなく、器で調理をするもの。グラタンを焼いてそのまま出すような感じ。


 私のやりたいことをしっかり察知してくれるこの台所は本当にすごい。

 付き合えば付き合うほど好きになる。なんというスパダリ感!


「あ、これぐらいのガラス瓶ならあるんだね」


 そんなスパダリ台所が出してくれたガラス瓶をしげしげと眺める。

 どうやら、台所が完成品を食べるために出してくれるお皿などは、この世界にある技術を基準にしてあるらしい。

 だから、プラスチックなどは出てこず、陶器のお皿やこういうガラス容器が出てくるのだ。


 今回出てきた容器はガラス製で金属の蓋がついている。

 ちょうどジャムが入っている瓶のような感じで大きさはちょうど缶ジュース一本分ぐらいかな。

 日本ではメイソンジャーと呼ばれている、広口のガラス瓶だ。


「まずは煮沸消毒」


 そのガラス瓶をさっと洗い、片手鍋で沸かしたお湯の中へゆっくりと入れた。

 ここまでしっかりしなくてもいいかもしれないが、今回の料理は差し入れ。人にあげるものだし、容器の中で調理をするものなので、しっかりと処理をしておきたい。


 そして、ガラス瓶を煮沸消毒する間に次は果物の調理へと取りかかった。

 ポイント交換した果物は洋梨、オレンジ、レモン。

 今回はこれを皮ごと使いたいので、まずは皮をしっかりと洗っていく。


「これ、全部日本産なのかな」


 どうなんだろう。

 そもそもポイント交換で手にしたものにどこもここもない気はする。けれど、皮ごと使う食材は国産のものを選ぶようにしていたからちょっと気になる。

 農薬や防腐剤を気にしすぎてもしょうがないとは思うけど、一応ね。


「……推定国産ということで」


 外国産だったら皮を剥いちゃうけど、今回は皮ごと使いたいし。

 きっといつものということで、国産だと信じ、皮ごと使うための下処理をする。

 水洗いをした果物にどばっと塩をかけてジョリジョリと果物を磨いていくのだ。


 これぞ、必殺・塩洗い。

 よくわからないけれど、すべてを清め、すべてを正にする力を持っている。


 そんな必殺技で表面に塩を擦り付けていく。レモンとオレンジはしっかり。洋梨は傷つきやすいので優しく。

 そうしているうちにガラス瓶の煮沸消毒も終わったので、一度布巾の上に取り出した。熱いので慎重に。

 そして、もう一度お湯を沸かし、洗った果物を投入!


 これぞ必殺・茹でこぼし。

 よくわからないけれど、すべての悪を倒し、すべてをまっさらにする力を持っている。


 お湯の力で不要な成分を落としたいけれど、果物に火を通したいわけではないので、一、二分で終わらせ、もう一度流水で洗う。

 これで、容器と果物の下処理は終わり! あとはもう詰めるだけの簡単調理だ。


 洋梨をくし形切りにし、オレンジは一口大、レモンは輪切りにする。

 そして、それを煮沸消毒したガラス瓶にきれいに配置した。


「そして水を入れる!」


 そうしてできあがるのは、フレッシュな果物やハーブを水に漬ける料理。

 そう。私が作りたいのはデトックスウォーター!


 デトックスウォーターとは果物の皮にある栄養素を水に溶かし、その水を飲むことで、身を食べるだけよりも、よりたくさんの栄養を摂取することができるという料理だ。

 さらに水分を取ることで体内にある悪いものを排出できる。つまりはデトックス。

 果物を入れた水を飲むだけでデトックスできるなんてすばらしいが、私自身が効能をすごく信じているわけではない。


「うん。やっぱりかわいい」


 だって、かわいいから……。料理は見た目も大事だから……。

 なんといっても、デトックスウォーターは見た目が本当にかわいいのだ!


 しっかりと追熟された洋梨は淡い黄色に。オレンジは皮も実も鮮やかな橙色で断面は果汁に濡れ、きらっと光っている。そこに眩しい黄色のレモンが入れば、たくさんの色がガラス瓶に反射して……。


「ああ……きれい」


 ガラス越しに見る果物ってなんでこんなにかわいいんだろう。

 さらにここに朝に摘んだ、パイナップルミントにペパーミント。それにローズマリーも一緒に入れた。

 すると、イエロー系だった瓶にビビッドなグリーンが映える。

 ここに水を入れれば、ガラス瓶の中はきらっきらになり、それはもうかわいくなるはずだ。


「後は水を入れれば出来上がりだけど、今日は運動のあとだから、味もつけたいんだよね」


 そう。普通なら水だけを入れるのがデトックスウォーターなんだけど、ハストさんへの差し入れということで、味もつけていく。

 訓練で汗をかくはずだから、水分補給とともに、塩分と糖分も補給できるように。

 要はスポーツドリンク。オレンジやレモンに含まれるクエン酸も疲労回復に貢献してくれるはずなので!


 塩分濃度は0.1~0.3%ぐらい。

 果物をたくさん詰めたガラス瓶に入る水は200ccぐらいなので、塩を少々。親指と人差し指で軽くつまんだぐらい。

 それをガラス瓶へと入れ、さらにはちみつをスプーン一杯ほどいれる。

 本当は混ざりやすいようにはちみつを少し温めたり、塩とはちみつをあらかじめ混ぜたりするのだけれど、今回は省く。


「よし。最後にミネラルウォーター!」


 すべての材料を入れ終わったガラス瓶に500mlのペットボトルのミネラルウォーターを入れていく。

 これもポイント交換したものなので、いつものあのパッケージだ。

 果物とハーブが水に浸かるよう、それをなみなみと注いだ後、しっかりと金属製の蓋を閉めた。


「あとは冷蔵庫にお任せ」


 そう。それがはちみつと塩をなんの工夫もなく瓶に投入した理由だ。


 ――だって私にはワンドアぱたん冷蔵庫があるから!


 今はガラス瓶のそこにたまっているはちみつも、冷蔵庫に入れればきれいに溶ける。

 ついでに塩も溶ける。

 さらには3時間ほどかかるはずに漬けこみ時間もすべて短縮できる!


 あまりのすばらしさにくっくっと含み笑いをしてしまう。

 そして、そうしてにんまりと笑いながら冷蔵庫にガラス瓶を入れた。


「おいしくなぁれ」


 冷蔵庫の扉を閉め、なんとなく呪文を唱えたあと、再び冷蔵庫を開ける。

 そこにはしっかりとできあがったデトックスウォーター!


「ああ……かわいい……」


 手に持てば、ガラス瓶はしっかりと冷えている。

 オレンジとレモン、ハーブにあまり変化はないけれど、洋梨はすこしだけしんなりとしているように見えた。

 見た目はガラス瓶に入れたときと同じように、どれもきらきらとしている。

 でも、味はしっかりと出ているはずで……。


「うん。ちょっと味見してみよう」


 おいしくできているはずだけど、差し入れする前に味を確かめておきたい。

 冷蔵庫から調理台へと移動すると、小さ目のガラスのコップが現れる。


「え。味見用のコップも出してくれるの?」


 たぶん、このコップはそのために出現したんだと思う。

 なに、この台所。スパダリ感が天元突破してる……。


「好き……」


 あまりに優しい気遣い。思わず言葉を漏らし、調理台をすりすりと撫でてしまう。

 そして、スパダリが出してくれたコップでデトックスウォーターを味見してみれば……。


「おいしい!」


 すっごくおいしい!

 色は透明なただの水なんだけど、しっかりとそれそれの風味が出てる!


 デトックスウォーターからくる、レモンとローズマリーの爽やかな香り。

 それを口に含めばオレンジとレモンの酸味がある柑橘の味がしっかりとして、それにはちみつと塩がとっても合っている。


 まさにスポーツドリンク!

 フレッシュなスポーツドリンク!


 さらに、味はそれだけじゃなく、喉元を過ぎるころには口の中には洋梨の甘い香りが広がった。

 そして、飲み込んだ後に口の中に残るのはミントの清涼感。


 すごい。香りが幾重にも重なっている。

 香りが層になってる!


「……これなら、ハストさんも喜んでくれるかな」


 ……うまい、って。

 呟いてくれるかな。


 その姿を想像すれば、なんだか胸がふわふわして――。


「よし! 急いで持って行こう!」


 ――スポーツドリンク風デトックスウォーター!


「『できあがり!』」

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