差し入れの気持ち
朝から大繁盛なバーバーシロクマ。
私は一度そこから離れ、一人で部屋へと戻った。
実はこの機会に作りたいものがあったのだ。
ハストさんは当然のように訓練を切り上げ、私についてこようとしたが、それはなんとか思いとどまってもらった。
「差し入れをしたいのに、差し入れをしたい人が訓練をやめたら意味ないもんね……」
そう。実はハストさんが訓練をすると聞いてから、何か差し入れができたらいいなぁと考えたのだ。
いつも食事を一緒にとっているが、それはやっぱり私が食べるから、ハストさんにも作っているような感じがある。なんかこうついでに感が。
だから今回はハストさんのために作ろう! と思い立った。
なので、ハストさんには訓練を続けて欲しい。サプライズというわけではないけれど、訓練をして汗をかいた時にそっと差し入れをしたいから。
というわけで、私が一人で行動することに難色を示すハストさんをなんとか説得した。
最終的に、女性にはいろいろあるのだ、という、男性には反論しにくい奥の手まで使ってしまったけれど、今回は仕方がない。
母グマに置いていかれる子グマ感もなんとか乗り切ったのだ!
そうして、部屋から台所に移動すると、まずは液晶を確認した。
「うん。順調にたまってる」
そこに表示されているのは、これまでのポイント獲得履歴。
ずらずらと並ぶ文字列を見れば、私のスキル『台所召喚』のポイントシステムについても、かなりわかってきた。
まず、料理を作ることによって獲得できるポイントはそれぞれの料理によって異なる。
やはり、材料を多く使い、手間がかかったもののほうがポイントが高い。
そして、次にわかったことは、初めて作る料理はポイントが二倍になるボーナスがつくということだ。さらにアレンジを加えれば50ポイントも追加される。
つまり最初に作ったベーコンエッグは本来なら100ポイントの料理。
そして、それを初めて作ったということで100ポイントが二倍になって、200ポイントをもらえた。
その後、黒こしょうをかけると150ポイントになったのはベーコンエッグの100ポイントにアレンジをした50ポイントが加算されたというわけだ。
この初回は二倍ボーナスのルールは『騎士の笑顔』にも適用されていた。
あれから何度もハストさんに料理を食べてもらっているが、『騎士の笑顔』で2000ポイント獲得できたのは最初だけで、次からは1000ポイントになったのだ。
「つまりこのスキルは作ったことのない料理を作り、食べたことのない人に食べてもらうと進化する」
新しい料理をどんどん作り、新しい人にどんどん振る舞う。
効率よくポイントを獲得するには、それが一番だ。
けれど、私の料理はただの料理ではない。食べると強くなるという曰くつきのもの。
それをたくさんの人にあげるというのはちょっと……。
「なんだか作為的なものを感じるよね」
うん。こわい。
『台所召喚』……! おそろしい子……!
「最初にハストさんにいろいろと話をしてもらってよかった……」
本当にそう思う。
もし、ハストさんが私のことを気にかけてくれなかったら、ポイントに目が眩んだ私は色んな人に料理を作り、その効能は即バレしていただろう。
自分の道を選ぶなんてことができるはずもなく、あっという間に身動きが取れなくなっていたような気がする。
ハストさんさまさま。
本当にハストさんさまさま
だから、これは感謝の気持ち。
あたたかくもうれしい、そんな気持ち。
なのに、その気持ちはある一点を見ると、妙にざわざわと胸を焦がす。
『騎士の誓い 3000pt』
……そう。なんだか表示が変わった。3000ポイントは二倍ボーナスだから、二回目からは1500ポイントになるけれど、それでも獲得できるポイントが増えた。
これはハストさんに食べてもらうともらえるポイントで『騎士の笑顔』という表示だったのだ。
なのに、今は『騎士の誓い』という表示へと変わっていて……。
「やっぱり、あれがあったからだよね……」
ふと恥ずかしい記憶が蘇る。
ハストさんがにんにくの残り香にキスした事件。寸止めじゃなかった事件。なんか色気が感じられてどうしようもできなかった事件。
最初のキスはにんにくのフレーバーがしたというあの……。
「いや、うん。いや、待って。大丈夫。ここで悶えてもどうしようもない」
落ち着いて。私。落ち着いて。
あたたかくもうれしい気持ち、戻って。
「とにかく差し入れ!」
気持ちを切り替えるため、パンッと胸の前で手を打つ。
そして、これから使う材料を交換していった。
「洋梨にオレンジにレモン。それから――」
交換を終えれば、いつも通りに台所が白く光る。
朝摘みのミントとローズマリー、それからいつももらっているはちみつを準備すれば、あとは調理するだけ。
「よし、作る!」






