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包丁作成

 どうやらハストさんは私と金髪アシメのやりとりを聞いていたらしい。

 金髪アシメの声、大きかったしね。そりゃ聞こえるよね。


 そんなわけで室内は北極。

 極寒なハストさんを見て、金髪アシメはおもいっきり狼狽えたけれど、私の持つ布の塊を見て、ぐっとその場にとどまった。


「……っなんだ!私は用があってここにいる!お前は休みじゃないのか!」

「はい。ですが、イサライ様から依頼を受けまして」

「依頼?」

「ええ。二つになった剣を包丁に仕立て直して欲しい、と」

「まさか、便利なスキルの持ち主は……!」


 金髪アシメが驚いた顔でハストさんを見る。

 そんな金髪アシメにハストさんは無表情で答えた。


「私です」

「お前だったのか」


 暇を持て余した 騎士たちの 遊び


「おい! お前! 聞いてないぞ!」


 うん。言ってない。

 

「お二人ともお忙しい中ありがとうございます。早速ですが、いいですか?」


 まだ少し寒さの残る眼差しのハストさんに声をかける。

 このままでは私の部屋が惨劇の舞台になってしまう。包丁に凄惨な過去が追加されてしまう。

 二人とも暇を持て余しているわけではないはずなので、用事を終わらせればいいのだ。


「こちらを失礼します」

「あ、お願いします」


 そんな私の言葉にハストさんは吹雪を消すと、私から布の塊を受け取った。

 そして、ソファの前にあるティーテーブルへと置く。

 ティーテーブルの上で布をほどくと、そこにはきれいに二つになった家宝の剣。

 金飾が繊細で、大ぶりの宝石がごろごろとついている。

 ……高そう。


「はじめます」


 ハストさんが一言断ってから、家宝の剣に手を添える。

 すると、家宝の剣からつるりと装飾部分だけが外れた。

 きれいに一皮むけたような感じだ。


「おお」


 その、家宝の剣むいちゃいました! 感に思わず声を漏らせば、金髪アシメは悔しげに眉根を寄せた。


「くそっ、北の犬のくせにスキルの練度が高い……!」

「お褒めに預り光栄です。こちらはもらい受けます」


 刀身を手に取り、布が敷かれていない部分に置く。

 残った装飾部分を布で包み直し、金髪アシメへと返した。


「では」


 そして、そのままハストさんがぐいぐいと金髪アシメを押す。

 金髪アシメはぐぬぬと抵抗しているものの、簡単に扉のほうへと追いやられて行った。


「まてまて! あの刀身がどうなるのか私にも見せろ! 私のものなのだから、それを見るのは当然の権利だ!」

「……」

「なるほど。一理あるようなないような」

「あるだろ! そもそもお前たちは私に対する敬意が足りない!」

「はぁ」


 金髪アシメはきぃきぃと怒鳴りながらも、ここにいる権利があると主張する。

 まあ、ハストさんが金髪アシメの前でスキルを使ったのを見ると、特に『研磨』のスキルを隠しているわけではなさそうだし、いてもいいといえばいてもいいのかもしれない。

 一応、材料を提供してくれたわけだし。


「私はここで見ているから、続けるといい!」


 扉の前からさっと身を動かし、堂々とソファに座る。

 しかたなく私とハストさんはティーテーブルの前に、二人で並んで立った。


「包丁に取り掛かります」

「はい。お願いします」


 さっきのいろいろと書き込んだ紙を渡し、ハストさんとソファに並んでそれを見る。

 そして。剣と紙とを指差しながら、説明をしていった。


「この柄の部分は握りやすいように、手に沿った形にして欲しいんです」

「なるほど。ではまずは大き目に作りますので、少しずつイサライ様の手に合わせるような形でかまいませんか?」

「はい。あと、刃は磨いてもらっていいのですが、柄は滑らないような加工をして欲しいです。できますかね?」

「問題ありません」


 私の注文をハストさんは頷いて、すぐに受け入れてくれる。

 そして、説明が終わると、ハストさんは二つに折れた剣の根元部分。刀身と柄があるところを手にし、スキルを使った。

 ハストさんの手元が光る。そして――


「わぁ!」


 光が消えた後、ハストさんの手元には私のよく知っている三徳包丁が確かにあった。


「すごいです……! 私の説明だけでこんなに……!」

「イサライ様の説明はとてもわかりやすかったです」


 歓声を上げて、ハストさんの手元を見つめる。

 ハストさんはそんな私に優しくそれを差し出した。


「持ってみてください」

「はいっ」


 ハストさんから包丁を受け取る。

 包丁の峰の厚さは要望通り2mmぐらい。

 重さもちょうどよく、重心も刃と柄の切り替え部分にあるため、とても使いやすそうだ。


「刃は研ぎすぎるとすぐに刃こぼれをするので、料理用に研いでいます。切れ味が落ちれば、いつでも研ぎ直しますので、おっしゃってください。柄の部分はどうですか?」

「……どうですかね。これでいいという気もしますし、ちょっと太いような気も」

「では、もう少しだけ細くしましょう」


 一度ハストさんに包丁を渡し、またそれが光る。

 私の手元に戻ってきた時、見た目ではわからなかったけど、握ってみたらとてもしっくりと馴染んだ。


「すごい……ぴったりです」

「さきほど、手を測らせて頂いたので」


 そっか。さっき手をこつんってぶつけた時か。


「……これが私の包丁」


 握ったまま、裏と表とを見るようにそっと動かす。

 銀色にぴかぴかと光るそれは、ハストさんの髪と同じように輝いていた。


「私……ここに来て、はじめて自分のものを持ちました」


 そう。ポイント交換でいろいろと手に入れることはできるけれど、それは台所の外に持ち出すことはできない。

 お皿も料理も食べ終われば消えてしまう。


 ……でも、この包丁は消えない。

 私が異世界に来て、はじめて自分で選んだもの。


 私の。

 私だけの。


「本当にうれしいです」


 包丁を手にして、思わずくすくすと笑ってしまう。

 そして、作ってくれたハストさんと材料を提供してくれた金髪アシメに、ありがとうと笑顔を向ける。

 すると、ハストさんは目を泳がせて、こほんこほんと何度も咳払いをし、金髪アシメは胸を張り、高らかに笑った。


「ははっ! 田舎者が! こんな程度で喜ぶとは本当に安い女だな!」

「……いらないものは命か」

「ひぃっ」


 極寒になったハストさんが残っていた家宝の剣の切っ先のほうを持ち、金髪アシメに向かって動かした。

 シュッという風を切る音と金茶の髪が宙を舞う色。

 そして――


「ひいぃ!」


 なんか聞きなれてきたHI。

 その悲鳴のあと、金髪アシメの自慢の髪は左側部分はびっくりするほど短く刈り込まれていた。

 ……あとちょっとでもずれてたら、金髪アシメの顔が切れてたな。


「覚えてろよ……!」


 金髪アシメは急いでソファから立つと、しっかりと布の塊を抱えたまま走る。

 そして、扉の前までくると、憎々し気に言葉を残し、ばたばたと部屋を出て行った。


 金髪アシメ は 金髪剃り込みアシメ に進化した!

 やんちゃな兄ちゃん感 を手に入れた!

 捨て台詞 を覚えた!

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【新作】魔物をペット化する能力が目覚めたので、騎士団でスローライフします

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― 新着の感想 ―
しっぽたぬきさん、実は私自分でナイフの研ぎをするので 刃物に詳しいんです、砥石は使わず耐水ペーパーヤスリを 使い研ぎます理由は、安いからです砥石は最低良い セラミック人工砥石は1個 4千円以上するので…
[気になる点] ・お褒めに預り光栄です 正しくは「与り」です。
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