約束は永遠に
本日は二話更新しています。未読の方は前話からどうぞ
夢を見た。
みんなでたくさんの場所に行く夢。
砂漠に行って、大きなアリジゴクに飲み込まれたり
ドラゴンの谷に行って、ギャブッシュの仲間と挨拶をしたり
きれいな湖の底にある神殿を見に行ったり
ハストさんの育った土地に行ったり
みんなと一緒にごはんを食べて、一緒に笑って……。
ずっと、こんな日が続けばいいなって……。
***
すごくいい夢見で、起きたときから笑顔になっていた。
昨日、みんなと解散して、すぐに眠った。
たぶん、疲れていたんだろう。
今日は、魔魚のことも片付いたので、一日みんなで観光することになっている。
昨日は疲れていたが、よく眠れたので、とても心地がいい。
なんの憂いもない一日の始まりは、だが、宿を出た瞬間にすぐに壊れた。
「……これは?」
これは一体どういうこと……?
『これまで、本当に申し訳ありませんでした……っ!』
なぜか、宿の前に港の人が並んで、みんな跪いてる。そして、悲壮な表情で謝罪を口にしている。
え、なにこれ……。
「あなたにはひどいことをしてしまいました」
「あれから港のもので考えたんです……私たちはどこで間違ったのだろうって……」
「あなたを軽視したことが間違いだった……そう気づきました!」
たぶん、これまで私を蚊帳の外へ追いやっていた女性たちが口々に言葉をかけてくる。
なぜかはわからないが、昨夜までの対応とは全然違う。
気持ちはちゃんと伝わってきている。許して欲しい、と。そういうことなのだろう。
「いや、本当に全然、大丈夫ですから……!」
すがすがしい一日だなぁ! と準備を整えていた朝が嘘みたいだ。
みんなと待ち合わせして、外へ出た。
それまでは普通だったのに……!
「私たちが悪かったです」
「あなたを理解できていませんでした」
「まさか、あなたが私たちの港を守ってくれていたなんて……!」
……ん? あれ? 私が守ったんだっけ……?
よくわからなくてスラスターさんを見る。
するとスラスターさんは「はい」と頷いた。
「密漁者のせいで魔魚に苦しめられていた港。その魔魚を倒すためにやってきたのが貴女です」
いや、違います。
事実じゃないことを表情も変えずに言うからこっちがびっくりする。
「どうか……どうか、港を滅ぼすことは……!」
「心を入れ替えます……!」
あ、これは、噂に聞いた墓標も効いているような気がする。
ハストさんの墓標が効きすぎているのでは……!?
「あの……本当に大丈夫なので……私のことは気にせず……」
あまりの圧に怖くなって、一歩下がる。
すると、ハストさんが私をそっと抱き上げて――
「え」
抱き上げて?
え、なんで?
「え、え」
逃げ出そうと動くけれど、いつも通りビクともしない。
いや、待って……!
跪く港の人、腰のあたりを持たれて、抱き上げられた私。どう見ても、私に視線が集まりすぎる……!
「昨夜、伝えたようにシーナ様は素晴らしい女性だ」
「待って……ハストさん、待って……!」
ハストさんの落ち着いた低い声が響く。
遠くまで届くその音はとてもかっこいいけれど、今はちょっと違うと思う……!
必死で止めてもらおうとするけれど、ハストさんは水色の目を細めて……。
「いつも前向きで、笑顔をくれる。シーナ様がいれば、世界は明るいのだと信じることができます。……私の大切な女性。すべてを捧げている方です」
「ひぃ……!」
は、恥ずかしい……!
どうして……なぜ、こんなことに……!
「申し訳ありません、シーナ様。もっと自分の気持ちを伝えていくべきだった。そう反省したのです」
「いや……大丈夫……大丈夫ですから……」
恥ずかしすぎて、手で顔を覆う。
すると、次はレリィ君の声が聞こえてきて……。
「シーナさんは僕の初めての人で……。とても優しく、手取り足取り教えてくださいました。最高の女性です」
「ひぃ……!」
語弊。こんな大勢の前で語弊……!
港の人がどんな顔でこれを聞いているのか想像するだけで、恥ずかしさが限界を突破する……!
けれど、限界の先にもまだまだあるようで……。
「そうだな、イサライ・シーナはな! ……笑顔がな!! かわいいんだ!!」
「ひぃ……!」
アッシュさん……!
「椎奈さんは、だれよりも優しくて、素敵な方です」
「ひぃ……!」
「非常に稀有な方ですね」
「ひぃ……!」
「難しいことも笑って乗り越えていくヤツだ!」
「シャーシャー!」
「ひぃ……!」
「シーナ君の優しさは、得難いものだと思うヨ!」
「ひぃ……!」
「しぃな、すごく、だいすき!」
「ひぃ……!」
やめて……みんな……どうしてこんなことに……!
「港の者はシーナ様の許しが欲しいようです。スラスターが今朝こうなることを掴んでいました。話し合い、私たちがシーナ様をどれだけ大切に思っているか。それを伝えることにしました」
「わかりました……! きっともう十分だと思います……!」
私に……! 私に効きすぎているんです……!
「……本当ですか? どれだけあなたを思っているか、伝わっていますか?」
ハストさんの誘うような声にそっと顔から手を外す。
すると、そこには優しく私を見つめる水色の目。
吸い込まれそうな色に、思わず手を伸ばせば、その手を取られて――
「あなたのすべてを食べ尽したい」
てのひらに触れる唇の熱さ。
その言葉の熱さに、私の脳が焼き切れるのを感じた。
「こわい」
食べられちゃう。
「……あのっ!!」
港の人が声を上げる。
そちらを向けば、きらきらとした瞳で私を見上げていた。
これは……え……尊敬の眼差し的な……?
「あなたがすばらしい女性であり、貴い方なのだと感じました。ですので、港の者で話し合って、考えたのです、貴方様を称えることを……!」
「ほぉ」
称える…・・?
「参加していただいた祭りで、海の男コンテストを開催していました。それは引き続き行いますが、海の女コンテストを開催するのもいいのではないか、ということになったのです」
「うみのおんなこんてすと」
「はい! 貴方様のエビの踊り、あれを受け継いでいきたいと思います」
「えびのおどり。うけつぐ」
「貴方様の踊りを覚えているものがいます。ですので、海の女コンテストでは、エビを前にして包丁を持って踊り、一番会場を沸かせた人が優勝という形にしようかと」
どうでしょうか! と。
すごくいい案ですよね! と。
その輝く顔が語っていた。
「イサライ・シーナの祭りとして、末永く語っていきます!」
『はい!』
港の人も自信満々に頷いている。
そっかそっか。
みんなもう心は決まっているね。
もう止まらないね。やるって決めてるね。
「イサライ・シーナの祭り。この港を魔魚から救った貴方様を称える祭りです!」
メインの出し物は、エビを前に包丁を持って踊ること、ね。
ふーん。
……もう、やだ……っ!!
「恥ずかしい……恥ずかしい……」
ここに……! 留まってはいけない……!。
「ハストさんっ!」
私を抱き上げているハストさん。
その水色の目を必死で見た。
「早く! 一刻も早く港を離れましょう!!」
「どこへ行きますか?」
「みんなとならどこへでも!」
――きっとどこへ行っても、ずっと楽しいから。
「はい」
私の言葉にハストさんがとても鮮やかに笑った。
「どこへでも。いつまでも。――シーナ様とともに」
三年半お付き合いいただきありがとうございました。
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みなさんの毎日が輝きますように。願いを込めて。
また、どこかで会えるといいな