真鯛のアクアパッツァ
本日二回目の更新です。未読の方は前話からお願いします
そうして、一しきり笑ったエルジャさんは、「わかったよ」とお腹を抱えたまま、理解を示してくれた。
まだ決定ではないが、方向としては私とミカリアム君については、不問とする方向でまとめてくれるようだ。
港の市場が壊れたとはいえ、人的な損害がほぼなかったことが幸いしたらしい。
私は知らなかったけれど、密漁者グループをエルジャさんたちがすでに壊滅させたということで……。
私が伊勢エビに喜び、人魚に浚われている間に、事がすごく進んでいる。すごい。みんなが有能すぎてこわい。
とりあえず、今は真珠を狙うものがいなくなったこともあり、エルジャさんも私たちを排除する方向にはならなかったのかもしれない。
そして、今、私は――
「夜ごはんを作ろう!」
――台所に来ています。
「椎奈さん、なにを作るんですか?」
「さっき、獲れた真鯛を使って、スープみたいなものを作ろうかなって」
「いいですね!」
新鮮な真鯛が手に入ったからね……。
そうしたら、食べたくなるよね……。
いつも通り、雫ちゃんが手伝いを買って出てくれたので、一緒に作業へ!
「雫ちゃんには、野菜を切ってもらいたいんだけどいいかな?」
「はい!」
「それじゃあ、まずはにんにくの皮を剥いて、薄切りでお願いします」
「わかりました」
用意した野菜はトマト、パプリカ、にんにく、きのことハーブ!
そちらを雫ちゃんに任せて、私は真鯛を調理していく。
といっても、うろこ取りや内臓の処理はハストさんがやってくれているので、私は下味をつけるだけなんだけど。
「まずは、塩とこしょうを振って……」
下処理をされた真鯛の両面に塩とこしょうを適量。
真鯛は台所が出してくれたバットの中にいれて待機させておく。
「椎奈さん、にんにくが切れました」
「ありがとう。あとは他の野菜を一口サイズに切ってください」
「はい!」
「大きさがまちまちになっても大丈夫だからね」
雫ちゃんの声をかけながら、鍋を取り出す。
王宮の料理長からもらった鋳鉄の鍋。
そこにオリーブオイルを入れて、雫ちゃんが切ってくれたニンニクも投入!
「いい香りですね……」
「だよね……」
にんにくに火が通るとき、人は幸せになれる。
いい香りが出たところで、真鯛を入れて、両面を焼いていく。
真鯛が大きかったから、しっぽがすこし折れてしまうけれど、仕方がない。
「椎奈さん、野菜はこれでいいですか?」
「うん、ばっちり。ありがとう」
ちょうど雫ちゃんが野菜を切り終わったので、鍋の中に投入!
真鯛の横の空いたスペースで炒めていく。
ある程度、油が回ったところで次の工程へ。
「雫ちゃん、貝が冷蔵庫に入っているから、取ってくれる?」
「あ、これですね」
雫ちゃんが冷蔵庫をあけ、貝の入ったバッドを渡してくれる。
この貝はミカリアム君に頼んで、さっき取ってもらったのだ。
台所についてすぐ、海水につけて、冷蔵庫に入れた。ワンドアぱたん性能を考えると、これで砂抜きもできているだろう。
ありがとう、私の台所……ありがとう私の冷蔵庫……。
いつだって神。
「ありがとう」
手を合わせてから、鍋に貝を投入。
そして、ここにポイント交換しておいた、白ワインを!
「お酒も入れるんですね」
「うん。魚と貝の旨味、それから白ワインの風味で、すごくおいしくなるんだ」
白ワインのあと、水も足して、蓋をする。
あとは火が通れば完成!
すると、調理台が白く光って……。
「あ、取り皿、ですね」
「サーブ用のスプーンとトングもある……」
現れたものを見て、雫ちゃんと顔を見合わせる。
調理台には人数分の取り皿とカトラリー、サーブ用のスプーン、トング。お盆に載っていて、持ち運びもばっちりだ。
「好き……」
本当に、いつもありがとう……。
あなたがいるから、私はここまで来れたよ……。
「大好き……」
あふれる思いは止められない。
すりすりと台所を撫でれば、この行為が馴染みすぎて、ずっと撫でていたくなる。
「椎奈さん、鍋が……!」
「あっ、貝が開いたみたい」
鍋がシューッと音を立てて、湯気が勢いよく上がる。
台所を撫でていた手を止め、火を消す。蓋を取れば、貝は口を開け、真鯛の身はふっくらとしていた。
うん! いい感じ!
「あとはハーブを散らして……。よし! 雫ちゃんはそっちのお盆を持ってくれる?」
「はい!」
雫ちゃんがお盆を持ってくれたのを確認して、私はミトンをした手で鍋を持つ。
「じゃあ、戻ろう!」
――真鯛のアクアパッツァ。
「『できあがり!』」






