真珠の真相1
雫視点です
椎奈さんたちと別れたあと、私たちは路地裏の真珠店へと来ていた。
まだ午前の早い時間だったので、空いているか不思議だったのだが、昨夜のうちにスラスターさんが話を通していたようだ。
対応してくれたのは、昨日の店主の老人だ。
「今日も来ていただいて、ありがたいことで……」
「いえ、早い時間の指定に対応していただきました。さっそくですが、真珠を見せていただいても?」
「はい、もちろん、昨日よりいいものを用意しました。ところで今日は弟君は……?」
「弟は観光をしています。今日は彼女の願いを叶えに来ました」
「そっちの男性は?」
「護衛です」
スラスターさんはそう言って、それぞれ私とアシュクロードさんを手で示す。
店主は、なるほどと頷いた。
「で、お嬢さんの願いとはなんだい?」
この台詞は想定済みだ。
スラスターさんと話をして、どのように受け答えをするかは決めてきている。
私がここで行うのは――
「この店で一番いい品をください」
「ほう! 一番の品かい!」
――どれだけ利のある人間か示すこと。
「そうかいそうかい、それならこれだね」
うれしそうな表情をした店主は、カウンターの後ろの棚へと移動した。
そして、鍵を使い、扉を開ける。
展示してあるものよりも、厳重に管理されているようだ。
「真珠のネックレスだよ。きれいだろう? サイズの大きいものを集めたのさ」
品物を手にした店主がカウンターの前へと戻り、ベルベット生地の上へそれを置く。
それはとても大きな粒の真珠を中心とした、真珠が連なったネックレスだった。
「すごい……」
日本でも真珠のネックレスはよく見るし、冠婚葬祭などで活躍している。
でも、目の前にあるそれは日本でみるものより、明らかにサイズが大きい。
真珠は白色というよりは銀色のようにも見えて、中心が濃くなり、より強く輝いていた。
「値段は……金貨二十だよ」
輝きに魅入っていると、店主がスラスターさんに値段を伝える。
お金を払うのがスラスターさんだとわかっているのだろう。
「お嬢ちゃんがこれをつけると、さぞ美しいだろうねぇ!」
店主が揉み手でスラスターさんに笑いかける。
スラスターさんは鼻のあたりをさわると、眼鏡をカチャッと直した。
「ええ。きっととてもよく似合うでしょう。これをつけて王都へ戻れば評判になりそうだ」
「……王都から来たのかい?」
「はい。どうです? 彼女がその石を身に着ける。そして王都の上層部と交流を深める。……いい商売になりませんか?」
「ちょっと、……ちょっと待っておくれ。わしにはそういう話は……」
「では、話をできる人に取次を。昨日もお願いをしています」
「あ、ああ……だが……」
言いよどむ店主。
スラスターさんはそれを気にすることなく、カウンターの上にドサッと革袋を置いた。
「金貨が二十五枚入っています」
「……二十五枚」
ごくり、と店主が喉を動かす。
「品物と差し引きした額をどう使おうと私は構いません」
「……っ、わかった、ちょっと待ってくれ」
店主が慌てたように、カウンターから革袋を取り上げる。
そして、中身を確認したあと、店の奥へと入っていった。
品物が出しっぱなしだがいいんだろうか……。
すると、スラスターさんは真珠のネックレスを手に取り、私に差し出した。
「昨日は触れなかったでしょう? 昨日の言葉が気になります。触れてみてください」
「あ、椎奈さんが言っていたことですね……」
椎奈さんは真珠を触ると「会いたい」と聞こえたと言っていた。
顔色も悪くなっていたし、あまりいいものではないのかもしれない。
なので、そっと触れてみるが――
「……なにも聞こえません」
――声は聞こえない。
「……椎奈さんにしか聞こえないみたいですね」
椎奈さんが嘘をついているとは思えない。
それならば、椎奈さんにのみ聞こえるということだ。
真珠と椎奈さんには関係がある……?
そう考えると、胸がざわざわとした。
「今は澄ましていることを徹底してください。不安を表情に出さないでいただきたい」
「……はい」
スラスターさんに言われたことはその通りなので、大人しく頷く。
そう。私には私の役目がある。
しっかりしなくては……。
「ネックレスをつけます。気分不良などあれば、伝えてください」
「はい」
スラスターさんはそういうと真珠のネックレスを私の首につけた。
首の後ろで留め金をつけられ、そのまま手を離される。
かなりの大きさがあったが、真珠は思ったより重くはなかった。
「とてもよく似合っています。……やはり、あなたの美しさは武器になる」
スラスターさんがふふっと笑う。
その笑いは……冷めている。
言葉の表面では褒めているが、私に対してなにも感じていないのがよくわかった。
「気分不良はないです」
なので、気分についてだけ伝え、まっすぐと前を見る。
一瞬だけチラリと見えた、金茶の髪の騎士……アシュクロードさんはなんとも言えない顔をしていた。
「おいっ、オレと話をしたいってのはどいつだ?」
ほどなくして、ドタドタと足音が聞こえ、奥からヌッと人が出てきた。
大きな男性だ。スキンヘッドで、目つきは鋭い。
これまでの私であれば、絶対に近づかない雰囲気を持っていた。
その人は私を見ると、ヒューっと口笛を吹いた。
「あ? きれいな嬢ちゃんじゃねえか、この辺では見ないぐらい色が白いな。白い魔石が似合ってるじゃねぇか」
「ええ。彼女は美しいでしょう? いい広告塔になります」
「広告塔、だと?」
「はい。私は彼女を使って、王都にこの魔石を売りたいのです」
「なるほど……」
スラスターさんの言葉に、男性が私を上から下まで舐めるように見る。
あまり気持ちのいい視線ではなかったが、表情を崩さずに、前を見続けた。
「……いいぜ。気に入った。こっちへこい」
「はい。いい商売をしましょう」
スラスターさんはそう言うと、鼻を少し抑えた。






