OLのはにかみ
私の言葉にイケメンシロクマは驚いたように少しだけ目を大きくした。
そして、廊下から室内へと二人で入る。
扉から少し離れたところで、なぜイケメンシロクマにごはんを食べて欲しいかを説明した。
あのね。ポイントがたまるんです。
「つまり、私がイサライ様の料理を食べると、ポイントが増え、イサライ様のスキルを強くできるというわけですね」
「はい。たぶんですけど」
もしかしたら他に条件があるのかもしれないが、今のところはそう考えている。
イケメンシロクマに説明しながら、その水色の目をじっと見上げた。
断られてもしかたない。
でも、朝はあんなに目を輝かせてくれたから、もしかしたら、いい返事をもらえるかもしれない、と。
すると、イケメンシロクマはぽつりと呟いた。
「……それは都合がいいな」
ですよね!
「すみません。図々しかったです」
その呟きに潔く謝る。
確かにポイントがたまるから食べてくださいだなんて、私の勝手な都合だ。
朝のベーコンエッグはスキルを実際にその目で見るというちゃんとした理由があった。
目が輝いていたのも、そっちが理由でごはん自体には興味はなかったのかもしれない。
よく知らない女のよく知らない料理を食べて欲しいなんて、イケメンシロクマも困るだろう。
ポイント自体は料理を作るだけでも少しずつたまるわけだから、さらっと謝ってなかったことにしてしまおう。
けれど、そんな私の言葉にイケメンシロクマは首を横に振った。
「申し訳ありません、誤解させてしまいました。私が都合がいいといったのはイサライ様にとってではなく、私にとってなのです」
……イケメンシロクマに都合がいい?
よくわからなくて首を傾げれば、イケメンシロクマはゆっくりと頷いた。
「私がおいしい料理を食べられるだけでなく、イサライ様の役に立てるのならば、これほど素晴らしいものはない、と」
最高かよ。とイケメンシロクマの心から聞こえた気がした。
「作って頂いた料理はとてもおいしかった。これからもイサライ様の負担にならないのであれば、ぜひ」
「負担だなんて。食べてもらえるなら、本当にうれしいです」
イケメンシロクマの水色の目が輝いて、それにほっとして笑う。
表情はあまり変わらないけれど、その目はとても感情豊かだ。
そもそも、私が食べた時にポイントがついてくれれば、イケメンシロクマにお願いする必要はなかったんだけどね。
なんで、『騎士の笑顔』はあるのに『OLのはにかみ』はないんだ。
それにも2000ポイントぐらいくれ。
「それにしても…イサライ様。食事はいつもこのようなメニューだったのですか?」
そうして、私としてはいい具合に話が進んだわけだけど、イケメンシロクマは私の手元にあるパンが入ったかごと机に乗っているスープを見て、ゆらりと殺気を立たせた。
寒い。また北極になってる!
「普通に食べられるし、問題はないですよ」
「いえ、申し訳ありません。もっと早く気づくべきでした」
イケメンシロクマは私の食事に対して思うことがあるようだ。
彼は基本的には部屋に入らず、扉の外に待機しているから、私の食事内容を見ることはなかった。
どうやら、この殺気具合を見るにあまりいいメニューじゃなかったようだ。うん。まあ、そうだよね。
「侍女たちには話をしておきましょう」
口調もその言葉も不穏なものはない。
でも、水色の目が冷たく光っている。寒い。ドライアイス。
「あの、食事のメニューが変わるのはうれしいのですが、それはそれとして、昼や夜は食材を頂くことはできませんか?」
「食材ですか」
私の言葉にイケメンシロクマが首を傾げる。
それに、はいと頷いた。
「どうやら私のスキルはこちらのものも持ち込めるみたいなんです。なので、こちらで手に入るものならそれを使いたいな、と」
「なるほど。……でしたら、市場に行ってみるのはどうでしょうか」
「市場ですか?」
「はい。私はイサライ様の世界とこちらの世界とでどれだけ食材に差があるのかがわかりません。ですので、イサライ様自身の目で見て、欲しいものを購入していくという形がいいかと」
「いいんですか!」
行きたい。市場、すごく行きたい。
「では、これからの食事についてはまた考えましょう。毎日作るのは大変でしょうから、そこは王宮の食事を召し上がっていただいて、余裕がある時にイサライ様が作れるよう配慮いたします」
「はいっありがとうございます」
イケメンシロクマの心配りがすごい。
ポイントをためるために自分で作りながらも、疲れた時は王宮のごはんを食べることもできる。
ありがたい。ありがたすぎて心が弾んじゃうよね。
「では、作ってきますね」
「はい。では扉の外で待機しております」
うれしくなって笑うと、イケメンシロクマも目を細くして笑ってくれた。
そして、そのまま礼をして廊下へと出て行く。
イケメンシロクマが料理を食べてくれるなら、きっとポイントも早くたまる。
そして、彼ならスキルのことも隠してくれるし、食べるとつよくなることもわかってくれている。安心安全。
「『台所召喚』」
もう一度パンの入れたかごを持って、台所にワープ。
そして、それを調理台の上へ乗せると、液晶に向かい、新たにポイント交換をする。
「卵はまだある。ベーコンは最後の一パック。で、今から使うものは……」
まずは食材の追加。牛乳。終わり。
そして、調理器具は計量カップとボールの大きいのとフライ返し!
「あ、あと、途中で調理器具を洗うこともあるだろうから、食器用洗剤とスポンジも交換しておこう」
皿洗いや片付けは必要ないといっても、調理中に洗わなきゃいけない時はあるからね。
そうして、ポイント交換が終わると台所が白く光った。
『騎士の笑顔』のおかげで、まだまだポイントは残っている。
「よし。作ろう!」
日にちが経って味が落ちたパンをおいしくする!