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水陸両用

 ダジャレを思いついてしまい、虚無の目になる。

 すると、人の輪に囲まれに囲まれたゼズグラッドさんが「うわぁあ!」と叫んだのがわかった。


 うん……。限界が、来たんだね……。


 声を合図にギャブッシュが空から現れる。

 その姿に、集まっていた女性たちが怯んだ。


 海の男グランプリ再び。


「シーナ様、こちらへ」

「シーナさん!」


 逃げていくギャブッシュとゼズグラッドさんの背中を見送っていると、すぐそばで声がした。

 どうやら、ハストさんとレリィ君が騒動に紛れて、人の輪から抜け出したようだ。

 ハストさんは私の腰を支え、レリィ君に手を取られ、宿の前から離れていく。


「あっちは大丈夫ですかね?」


 雫ちゃんが人混みで困ってないかな?

 気になって、後ろを振り返る。

 すると、ハストさんとレリィ君は私を安心させるように、優しく声をかけてくれた。

 

「ミズナミ様のほうも移動を開始しました」

「うん! 目立つのはゼズさんとエルジャさんが引き受けてくれたよ!」


 その言葉通り、雫ちゃんはアッシュさん、スラスターさんと一緒に人混みから外れているようだった。

 ちょうど雫ちゃんも私を見てくれたので、手を挙げて合図をする。

 雫ちゃんも手を挙げて、合図を返してくれた。


「そうですね。大丈夫そうですね」


 これであちらもうまくやってくれるだろう。

 一瞬見えたエルジャさんが女性に囲まれ、頬にキスをされていたのは見なかったことにする。

 ……お忍びを楽しんでいるようでなにより。


「では、波止場へと行きましょう」

「市場があるんだって!」


 最初に向かったのは、波止場のそばにある市場。

 今朝、水揚げされたであろう魚がたくさん並んでいた。


「おお……漁港の朝市って感じ……」


 昨日、訪れた波止場とは違い、とても賑わっていた。

 舟から次々と箱に入った魚が運び出され、並べられていく。

 波止場奥の屋根のついた大きな広場が市場の中心なのかな?

 魚を挟んで、売る人と買う人がやりとりをしている。


「シーナさん、わくわくしてる?」

「うん。活気があってこっちまで楽しくなっちゃう」

「僕も! こんな光景初めて見た! シーナさんと一緒に来れてよかった」


 レリィ君の若葉色の目がきらきらと輝いている。

 スラスターさんが見たら、ハァハァが止まらなくなっちゃうだろうなぁ。

 二手に別れることになったとき、昨日と違い、レリィ君と一緒にいると言わなかったスラスターさん。

 魔力を持つ真珠は、それだけ重要な事柄なんだろうとわかる。

 魔石についての歴史や常識がわからない私にはいまいちピンと来ないけれど。

 活気のあるこの街、明るく積極的なこの街の人たちが、このまま暮らしていければいいなぁ……。


「シーナ様、どうしました?」

「いえ、なんというか……こういうのを続けていけたらいいなぁと思ってました」

「そうですね。私もそう思います」


 とりとめのない言葉。

 ハストさんはそれを自然に受け止めてくれる。

 それにまた胸がきゅうっとした。

 ……この感覚が最近、多い気がする。


「海だからかなぁ……」


 わからないけど、潮風にそういう作用がありそう。


「シーナ様、もっと近くに行きますか?」

「あ、私たちが行っても大丈夫ですか?」

「はい。気になるものがあれば、購入することもできます」

「ぜひ行きたいです」

「僕も!」


 三人で市場へと入っていく。並べられた魚を見ながら、歩くだけだが、すごく楽しい!


「この魚、大きいですね!」


 一際、大きい魚を見て、声を上げる。

 すると、魚を売っていた年配の女性が対応してくれた。


「ああ、旅行者ね?」

「はい、観光です」

「この辺りは、エビがよく獲れるのさ。それを食べた魚は大きく、身がエビの色になるからね。最高にうまいよ!」

「わあ……、それは食べてみたい……」


 サケみたいな感じかなぁ。


「市場の隣の露天で、塩焼きがあるから、食べておいで」

「そうなんですね! 行ってみます!」

「うまいから、そうしたら、私のところに買いに戻ってくるんだよ。今日はこの魚がよく獲れたからね! 待ってるよ!」

「はい!」


 明るい女性との会話で、私も笑顔になってしまう。

 気になった魚を食べる場所を教えてくれ、しかも待ってると言われたら、これはもう買うしかない。

 魚を食べて、必ずあとで買いに戻ろう。

 女性の特徴と市場での位置を覚える。

 青い服に黄色のスカート。場所は緑の柱の横。

 よし、と一人で覚えていると、通りかかったおじさんが女性に声をかけた。


「おおっ! 今日は大漁だな!」

「そうさ! 夜に魔魚が出たって聞いたときには、舟を出すのを迷ったんだが、出して良かったよ!」

「俺のとこも、まあまあだ。さすがに魔海のそばまでは行けねぇから、貝は獲れなかったが」

「仕方ないね。どうせ、貝は密漁者にやられてるだろうよ」


 明るく話していた二人がやれやれと肩を竦める。

 私たち三人は、その会話を聞いて、目配せをした。


「密漁者とは?」


 ハストさんがおじさんのほうに声をかける。

 おじさんは「あー」と頭を掻いた。


「客に聞かせるようなことじゃなかったな」


 ばつが悪そうな態度とともに、体が少し引かれた。

 このままでは、二人の会話は終わってしまいそうで、慌てて話題を探す。

 えっと、観光客が今の話題を続けてもおかしくないようにするには……。

 

「あ、あの、私たち――貝、そう。貝を見にきたんです。昨日、屋台で食べておいしかったので」


 昨日、お祭りの屋台で食べた、貝の浜焼きを思い出す。

 そういえば、今日はあの貝を見ていない。


「ああ、そうだったのかい。それじゃあ今日は貝を手に入れるのは難しいだろうねぇ」

「そうだなぁ。魔魚が出たからなぁ」


 どうやら、私の言葉は二人にとって、納得できるものだったようだ。

 女性は「残念だね」と私を気遣い、体を引いていたおじさんも、また話題に乗ってきた。


「あの貝は魔海のそばの砂地で獲れるんだが、密漁者が荒らしててな」

「密漁者が荒らしたあとは魔魚が来るんだよ。昨日もたぶん、そうだったと思うよ」

「そうなると俺たちも魔海のそばに舟を出すのがなぁ。沈んじまった舟もあるしな」

「そうだったねぇ。周りの舟が助けたから、死人は出てないけど、今は近づけないね」

「そこから幽霊の噂も絶えねぇし」

「最近は落ち着かない。なんとかならないのかねぇ」

「漁協から上へ報告はあげてるし、なんとかしてくれって言ってるけど、どうなってんだか……」


 二人は途中から私たちに話すというより、お互いに愚痴を言い合うように話を進めていった。

 ……うん。その報告はちゃんと一番上まで届いている。

 この国はそういう情報のやりとりはできているんだろう。

 ちゃんと情報は上がり、精査され、こうして対策を打とうともしている。

 ……その対策が、まさか王太子様が直接来ることだなんて、びっくりだけどね。


「あいつらは魔海に行って、砂底をさらっているらしい。なんでそんなことしてんのかはわかんねぇが、そのせいで魔魚が出てきてんだろう」

「こっちで捕まえるといっても、なにか犯罪をしているわけじゃないからねぇ……」


 二人の愚痴を聞きながら、またハストさん、レリィ君と目配せをする。

 雫ちゃんとスラスターさんが密漁者と接触しているはずだから、今、二人から得た情報を合わせれば、密漁者がなにをしているか、真珠の発生源はどこなのか、かなり真実に近づける気がする。

 口には出さないものの、ハストさんとレリィ君も目が真剣なので、同じように考えてくれているのだろう。


「それじゃあ貝は諦めます」

「そうだね。今日はうちの魚にしな!」

「はい!」

「ほら、まずは食べておいで」


 女性が快活に笑い、私たちに手を振る。

 私もそれに手を振り返し、また市場を歩いていく。

 市場を出て、露店へと行こうとしたところで、いきなりハストさんが私を庇うように背を向けた。


「……悪い予感がします」

「え……」


 ハストさんの悪い予感。

 それはつまり――


「魔魚が出たぞ! 逃げろ!」

「なんでだ!? 昨日の今日でっ!!」


 ハストさんの言葉からすぐ。

 市場に声が届いた。

 これまで活気に満ちていた市場が凍る。

 遅れて、悲鳴と怒号が響いた。


「早く行け!」

「魚なんか置いていけ!」

「食われるぞ!!」

「そっちじゃない!」

「こっちだ! できるだけ海から離れろ!」


 ところどころで混乱が起きているみたいで、人が混み合っている。

 それをなんとかしようと何人かが指示をしているのがわかった。

 魔魚の被害だけじゃなく、事故も心配だ。

 さっきまでここにいた人たちが、安全に逃げられればいいのだけど……。


「シーナ様。……来ます」

「あ、海にいるんですかね?」


 昨日みたいに、波止場に浮かんでるのかな。

 それならば、波止場に人がいなくなってから、また包丁でカツオに変えればいいはず。

 けれど、ハストさんは厳しく海を睨んだままで……。


 ガリガリガリガリ


 なぜか天井から嫌な音がした。


「ううん……シーナさん、そうじゃない」


 レリィ君が私を庇いながら、上を指差す。

 すると、突然、日の光が降り注いだ。


「まぶしい……っ」


 いきなり入ってきた光に目が眩む。

 さっきまであったはずの天井がなくなったのだ。

 そして、その代わりというように、ニュッと大きな顔が私に影を落とした。

 その顔は――


「ざりがに」


 巨大ザリガニが広場の屋根を食べている……。

 しかも一匹じゃない。


「きょだいざりがにぐんだん」


 なるほど。水陸両用!

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【新作】魔物をペット化する能力が目覚めたので、騎士団でスローライフします

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台所召喚    事なかれ令嬢のおいしい契約事情

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