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海の男コンテスト

 次の屋台は大き目の二枚貝をそのまま焼いているものだった。

 ハマグリに似てるかな。

 ぷりぷりの身はジューシーで、噛んだ瞬間にあふれるうま味が最高……!

 アツアツの貝を頬張ったあとは、ここの名物だというタコスみたいなものも食べた。

 どの屋台もとってもおいしい!


「シーナ君! 楽しんでいるカナ?」


 そうして食べ歩きを楽しんでいると、人混みの向こうからエルジャさんたちがやってきた。

 場所は中央広場。ステージがあり一番盛り上がっている。

 今はちょうどイベントとイベントの間で、ステージではなにもやっていない。

 エルジャさんたちがここに来たということは、情報収集も終わったのだろう。


「どの屋台もおいしくて、みんなでたくさん食べました」

「椎奈さんと一緒で、本当に楽しかったです」

「僕も! 屋台ってこんなに楽しいんだね!」


 ね。と雫ちゃんに笑いかければ、雫ちゃんがふわっと笑う。

 そして、レリィ君も元気よく答えてくれた。

 私だけじゃなくて、二人もたくさん楽しんでくれたようで、なによりだ。


「そちらはどうでしたか?」

「うん、まあ、まだ一日目だからネ! 焦ることはないサ! ……が、やはりせっかくだから、もっと目立たないとな、と思ってネ!」

「目立つ、ですか?」

「そうサ! 情報は集めなくても、ボクぐらいになると、勝手に集まってくるからネ!」

「はぁ……」


 まあ……王太子様なら、そういうものなのかな……。

 エルジャさんの言葉に、とりあえず頷く。

 そして、改めてみんなの姿を確認して――


・とてもかわいい美少女と美少年 (雫ちゃんとレリィ君)

・怜悧な印象なのに行動があやしい男性 (スラスターさん)

・露出が激しいきらきらした男性 (エルジャさん)

・金茶アシメの髪に高笑いする男性 (アッシュさん)

・背が高く、赤い髪で目つきの悪い男性 (ゼズグラッドさん)

・イケメンシロクマ


 ……目立たないほうが無理では?


「今でも十分目立ってますけどね……」

「シーナ君。ボクはね、もっと女の子と話したい! せっかく南まで来たんだから、ハメを外したいのサ!」

「……正直ですね」


 情報収集はどうした。


「というわけで、ボクはこれに出ようと思うんダ!」


 そう言って、エルジャさんが差し出したのは一枚のポスター。

 書かれている文字は――


「『海の男コンテスト』……」

「そう! なんでも、この祭りで一番の色男たちを選ぶみたいでネ。 なにか賞品があるわけではないらしいけど、力を自慢したり、芸を披露したり、なんでもいいと聞いたヨ! ここは船乗りが多い街で、勝負事が好きなんだろう。祭りでも競い合うことで盛り上がるんだろうネ! そして、男女を引き合わせるきっかけにもなるってことサ!」

「ふむ」

「で、おもしろいには『四人一組』というところなんダ!」

「へぇ」

「だから、ボクとヴォルヴィ、ゼズグラッド、アシュクロードの四人で出てくるヨ!」

「はあぁ!?」


 決定事項として宣言するエルジャさんに、最初に拒否の声を上げたのはゼズグラッドさん。

 ありえねぇ! と眉間に深いしわを刻んでいる。うん。エルジャさんに凄んでいる。


「ぜってぇいやだ! なんで俺がそんなもんに出なきゃいけないんだ!」

「はははっ! 心配しなくてもすでにゼズグラッドの名で参加名簿に書いておいたヨ!」

「バカじゃねぇか! いつのまに……!」

「ボクぐらいになると、ゼズグラッドの監視からはいつでも抜け出せるからネ!」

「くそっ! 俺は出ねぇからな!」

「はははっ! もう参加していると言っているダロ? 四人組がいきなり一人減っていたら、コンテストを開催する運営が困ると思わないカ?」

「ぐっ……」


 ああ……ゼズグラッドさんが、まんまとエルジャさんの術中に……。

 責任感が強いところを利用され、あっという間に参加しないといけないという空気にされているね……。

 運営なんか知るか! と言わないところが、ゼズグラッドさんらしい。……ふふんラッシュ……。


「おい、シーナ、その目!」


 あたたかい眼差しで見つめるとすぐに気づかれた。さすが。


「じゃあ移動しようカ! ステージはすぐそこだヨ!」

「一人で出ろ」


 ゼズグラッドさんを手中に収めたエルジャさんが歩き出そうとすると、ハストさんが冷たく言い放つ。

 それにエルジャさんは困ったものだ、と右手を頭に置いて、わざとらしく首を振った。


「ヴォルヴィはいつだってボクのお願いを聞いてくれないネ」

「聞く理由がない」

「ボクはヴォルヴィのお願いを聞いてきたつもりダヨ」


 エルジャさんが紫色の目でハストさんを見つめる。

 でも、ハストさんはそれにもきっぱり首を振った。


「シーナ様にこの旅を楽しんでもらいたい。目立ちたいというのを止めはしないが、私自身は目立ちたくない」

「えー……もしかして、ヴォルヴィ、自分が目立ってないと思ってたのカ……」


 ハストさんのまっすぐな言葉に、エルジャさんはぱちぱちと瞬いた。

 うん……まあね……。ハストさんってそこにいるだけで目立ってるし……。


「しかたない。あまりシーナ君を巻き込みたくなかったんだけどネ」


 そう言うと、エルジャさんは私へと向き直った。


「シーナ君はヴォルヴィが目立っていないと思うカナ?」

「そうですね……目立っているか、目立っていないかと言えば……」


 ハストさんを見る。

 服装は普通の旅人と変わらない。

 でも、背が高いし、体つきも大きいから、存在感は消せていない。銀色の髪と水色の目はとても似合っていて、あまり表情が変わらないけれど、優しさがにじみ出ていた。

 なによりも――


「こんなに素敵な人が目立たないなんて、無理だと思います」


 ――かっこよくて、かわいくて。


 だれだって、ハストさんを見てしまうと思うから。


「はははっ! そういうことだよ! ほら、ヴォルヴィ、行くヨ!」

「……っ」

「いいネ! あの皆殺しのヴォルヴィが動揺して、すぐに動けないなんてネ!! ヴォルヴィが正気を取り戻さないうちにステージに上げてしまおう! アシュクロード! 歌が得意と聞いたヨ! 僕が踊るから歌って欲しい」

「あ、アッシュさんの歌が聞けるんですか?」

「イサライ・シーナ……私の歌が楽しみか?」

「はい」

「そうか! そうだな! ハハッ! よし、聞かせてやる!」


 頬を赤くしたハストさんと、上機嫌で高笑うアッシュさんがステージへと向かって行く。

 ゼズグラッドさんがそのあとをすごくいやそうについていった。

 そうして始まった『海の男コンテスト』は――


「見て! あの人たちすっごくかっこいい!」

「この街で見たことないから、旅人かしら!」

「四人とも全員素敵……!」


 キャーキャーと黄色い歓声があちこちから上がっている。

 ほかの組とは明らかにその声の量を大きさも違う。

 話を聞きつけたのか、最初よりも中央広場にいる女性の数が増えた気もするし……。

 とにかく、四人が人目を集めていることは間違いない。


「アッシュさん、本当に歌が上手だなぁ」


 熱気がすごくなりすぎて、広場の端へと移動してしまったけれど、そこにいてもアッシュさんの歌は届いた。旋律がきれいなことはもちろん、なんせ声がいい。高笑いで鍛えた高音もさすがである。


「エルジャさんもさすが」


 ステージの中央ではエルジャさんが踊っているのだけれど、すごく目を惹く。

 王太子様だから、優雅にワルツとか踊るのかと思っていたが、剣舞っていうのかな。アッシュさんから家宝の剣その2を借りたようで、それを使って舞っている。

 勇ましいんだけど、優雅で……色気がすごい。

 露出の高い服ときらきらの貴金属が相まって、本物の踊り子の人にしか見えない。絶対に王太子様ではない。色気の化身だ……。


「ハストさんは立っているだけだけど、絵になる」


 ステージを上げに上げているアッシュさんとエルジャさんに比べて、ハストさんは立っているだけ。

 気のせいでなければ私を見ている気がする。

 なので、ちょっと手を挙げてみると――


『キャー!』


 ハストさんが笑い返してくれた。

 そして、私の周りにいた女性たちに被弾した。

 さすが、イケメンシロクマ。


「俺はもう無理だ……!」


 すると、あまりにキャーキャー言われすぎて、ゼズグラッドさんがキレた。

 責任感でなんとかその場にいたけれど、もう限界が来たのだろう。

 そして、その声に呼応するように、バサバサと羽音が響いてきて――


「あ、ギャブッシュ」


 ギャブッシュだ。ギャブッシュがステージに飛んできてる……。


「なんだあれ」

「おい」

「うわぁああ!」


 突然の巨大生物の襲来に騒然とする広場。

 私たちは広場の端にいたから被害はないが、ステージ前にいた人たちが急いで逃げていくのがわかる。

 そして、降りてきたギャブッシュに、ゼズグラッドさんが飛び乗った。


「見て! ドラゴンに乗ったわ!」

「うそ! まさか竜騎士の方なの!?」

「素敵ぃぃい!!」


 が、ドラゴンに乗ったことで、黄色い歓声がより大きなものになった。

 それにも構わず、ゼズグラッドさんはギャブッシュとともに飛び去って……。


「これが、『海の男コンテスト』か……」


 ステージではアッシュが歌い、エルジャさんが踊りながら色気を振りまいている。

 ハストはただ立っているだけだが、たくさんの女性が被弾しているし、ゼズグラッドさんはギャブッシュに乗って逃げ出して……。


 うん。カオス。


「コンテストの順位は広場をどれだけ沸かせたかで決まるようです。ここまでやれば優勝は決まったようなもの。これ以上、広場に人が増えると危険なので、私たちは離れましょう」

「そうですね」

「こちらへ」


 正直、広場の熱気がありあすぎて、危ないなぁとは思っていた。

 私だけならいいけど、雫ちゃんやレリィ君を危険な目に合わせるわけにはいかないし。

 なので、スラスターさんの言葉に素直に従い、広場から出ていた横道の一つに入る。

 そこは先ほどまで、食べ歩きをしていた道とは違い、屋台や明かりがない、馬車も通れないような狭い道だった。

 すると――


「なあ、ねぇちゃんたち、ちょっと見て行かないか?」


 見るからに悪そうな人たちに、声をかけられた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カオス…とても良いです!! [気になる点] 続きが気になりすぎる! 主にレリィ君とスラスターさんがちゃんと手加減ができるのか?とかが(笑)
[良い点] 海要素放り投げた破天荒具合 [気になる点] >「おの屋台もおいしくて、みんなでたくさん食べました」 どの屋台も~ > それからレリィ君も見れば、レリイ君も元気よく答えてくれた。 後ろのレ…
[良い点] コンテストの順位は広場をどれだけ沸かせたかで決まる [気になる点] ギャブッシュも含まれるか [一言] 貝焼き食べたい…
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